第59話 正義のパーティ、出陣
清野市生は歯噛みした。
「で、俺の妹を置いて逃げてきたってのか、お前らは!」
ここはたまり場になっている篠田の家だ。
そこにいるのは、市生、篠田、瑞葉、遊斗のいつものメンバーだ。
だが、市生の妹、みのりの姿はない。
市生は手近にあった漫画本を篠田に投げつけた。
「なんでみのりを助けなかったんだよ!」
「ご、ごめん、市生さん……。あんときは仕方がなかったんだよ……。ダンジョンマスターもやられちゃってたし……なにがなんだか……」
篠田は120キロある巨体を震わせ、ビクビクした様子でそう言う。
「くそっ、あのクソ女め! 甘ロリの恰好したモンスター? そんなんを味方につけてたのか、あいつ……。くそ……。みのりは無事なんだろうな?」
長い茶髪をかきあげ、瑞葉がカバンから一枚の便せんを取り出す。
「市生……。これ、私の靴箱に入っていたんだけど……」
市生はそれを受け取って中を見る。
『ちょうせんじょう
せいのいちおくんへ
おまえの いもうとは あずかった
いまは でんげんに つかってる
もんすたーと けっこん させようと おもう
おにいさん あなたのいもうとさんを あたしに ください
あんでっどきんぐ こうめ』
「ふざけやがって!」
その便せんをくしゃくしゃに丸めて床にたたきつける市生。
市生は激怒した。市生は漢字がわからぬ。市生は、学校の不良である。
チー牛からカツアゲし、女と遊んで暮らしてきた。
けれども悪意に対しては、人一倍に敏感であった。
すべてひらがなで書かれたその手紙は、漢字が読めない市生を馬鹿にしているのだ、と思った。
実際は知力マイナス58の小梅(ご先祖様)が漢字を書けるわけがないのであったが。
「なんだよ電源って! どういうことだ! モンスターと結婚? 妹になにをさせる気だ!」
すると、今まで黙っていた遊斗が、ツーブロックに刈り上げた自分の髪をこすりながら言った。
「市生……。どうする? 助けに行くか? 俺たちで……」
「もちろんだ! なにが結婚だ、くそ! みのりは純粋でなにも知らない女の子なんだぞ! くそ、なにが結婚だ。みのりはな、みのりは……綺麗な身体のまま、ちゃんとした男のところに幸せに嫁に行ってもらいたいんだ!」
市生の言葉に、遊斗と篠田は目を伏せた。
ちなみに、この二人は童貞をみのりで捨てている。
みのりの方から誘ってきたんだし、しょうがないだろ、と二人は思う。
市生にはバレてないみたいでほっとしていた。
そんな男二人を眺めながら、瑞葉はジョイントを取り出してくわえ、火をつけた。
「みのりは私の小学校の頃からの親友なんだよ……。どうしても、助けてやりたい」
市生はそれを聞いて強くうなずく。
「当然だ。俺たちで、みのりを助けに行くぞ。あんな、やさしくて人を傷つけることなんてできない、虫も殺せないほどの女の子なのに……。今頃、泣いているかもしれない。一刻も早く、助けに行くぞ! 魔法戦士である俺、格闘家のスキルを持つ篠田、攻撃魔術師の瑞葉、治癒魔術師の遊斗。俺たちはバランスのいいパーティだ。この辺じゃ、俺たちが一番レベルが高いパーティなんだ。絶対に、救出するぞ! みのり、かわいそうに……なにも悪いことをしていないのに……。ちょっとむかつく女子生徒を誘拐してレイプして子供を産ませてその子供をモンスターのエサにしようとしたくらいで……。許せん!!」
そしてこの正義のパーティは、ダンジョン攻略へ向かうことになったのだった。




