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第55話 エロおかず虫

 この学校には、水泳の授業がある。

 学校施設として、屋内プールがあるのだ。

 そしてその日の午後の授業が水泳にあてられていたのだ。


 女子更衣室。

 そこでももちろんほのかは孤立していた。

 他の生徒たちが楽しくおしゃべりしていて騒がしい更衣室の中で、ほのかはひとり、こそこそと水着に着替える。

 よかった、水着にはいたずらされていない。


「なにあいつ気持ち悪いほどでかい胸してる。牛かよ」

「頭の栄養が胸に行ってるだけだって」

「身体はエロいよな、絶対今日の夜、うちの男子のおかずになるよ」

「エロおかず牛だよねー」

「エロおかず牛っていいにくくね? エロおかず虫でいいんじゃない?」

「虫! あははは、ほんとあんなやつ虫でいいよ、牛なんて哺乳類もったいない」


 大きな声で笑いながら話し続けるクラスメートたち。

 ほのかはただうつむいて耐えていた。


     ★


 水泳の授業は無事、終わった。

 そして更衣室に戻って来る。

 水着を脱ぎ、身体を拭いて下着をはこうとしたとき――。

 ほのかは気づいてしまった。

 ――下着が、ない。

 ブラもショーツもない。

 どこにもない。

 なんで?

 ロッカーにはちゃんと鍵をかけてたはずなのに!

 カバンの底を探る。

 ない。

 ロッカーのすみずみまで見る。

 ない。

 どうしよう……。


 そんなほのかの様子を見て、クラスメートたちの笑い声が上がった。


「きゃははは! あのおかず虫、ノーパンだよノーパン!」

「おかずなんだからパンツなんかはいちゃ駄目でしょ」

「ぷはっ、パンツねーのかよあいつ。男子にも教えてやろーぜ。あのエロおかず虫、パンツはいてないってさ」


 女子生徒たちのいじわるな声。

 ロッカーの鍵は、教師が貸し出したマスターキーで開けられ、ほのかの下着が盗まれたのだ。


 ほのかの手はわなわなと震える。

 どうしよう。

 でも今日はもう授業がないから、HRだけだ。

 だったら、なんとか……。

 仕方がないので、ブラとショーツなしでシャツを着、スカートをはく。

 その間も、まわりからは女子生徒たちのクスクスという笑い声が聞こえた。


     ★。


 教室に戻ると、男子生徒たちがいっせいにほのかを見た。


「ノーパンだってよ……」

「あいつ、はいてないの?」

「すげえ、じゃああのスカートの中は……」

「お前、女のあそこ、見たことある?」

「ねえよ! ……見たい」

「あのスカートめくれば見れるぞ」

「やってみるか?」

「それに見てみろよ、ノーブラだってよ」

「夏服だからな、透けてるんじゃね?」

「乳首見えるだろこれ」

「エロいわ……」


 そんな男子生徒たちの声が聞こえてくる。

 女子生徒たちはにやにやとしてそれを見ている。

 ほのかは自分の手で胸とスカートをしっかり抑える。


 今日はあとHRだけだ、耐えるんだ。


 と、そのとき、ほのかに声をかけてくる男子生徒がいた。

 金髪の、いかにも意地の悪そうな顔をしている、背の高い生徒だった。


「よお。なんか、お前、いじめられてるんだって? くっくっくっ」


 それは、ほのかに告白してきて振られた男。

 理事長の息子、清野せいの市生いちおだった。


「なあ、おい、今お前、下着はいてないってほんとか?」


 ほのかは無視する。だが市生はなおも話してくる。


「なあ、お前、今からでも俺と付き合わねえか? いやいや、今さら俺の彼女になれとはいわねえよ。そんな権利はお前にはねえ。ただなあ、ほら、俺の好きなときにいろいろ遊ぼうぜ。あれだ、セク友ってやつな。そしたらこんないじめ、すぐにでも俺がやめさせてやるよ」


 つまり、欲望のはけ口になれ、と言っているのだ。

 これからの高校生活を、市生(いちお)の性欲処理係になれ、と言っているのだった。


「ぜったい、やだ」


 ほのかはきっぱりと言う。


「そっか。じゃあしょうがないよなあ。断ったお前が悪いんだからな?」


 そして市生(いちお)は透明のビニール袋に入ったなにかを取り出す。

 ピンク色の花がら。

 それは、盗まれたほのかの下着だった。

 

お読みいただきましてありがとうございます!

こちらの方の新連載もはじめましたのでよろしかったらどうぞ読んでください!


異世界転生したおっさん、救世主認定されたけど、最強魔法のトリガーが俺への好意なんだが!?世界を救いたければ俺を好きになってくれ。


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