第54話 もらい事故
もらい事故だった、と二宮ほのかは思った。
新潟の高校に転校してきて数日後のことだった。
とあるクラスメートの男子に、いきなり告白されたのだ。
もちろん、よく知らない男子と付き合いたいと思うタイプではなかったので、やんわりと、でもきっぱりと断った。
だけど、その男子生徒は学校の中でもリーダー的立ち位置の生徒で――。
そこから、いじめは始まった。
学校の玄関、靴箱を開けると、そこは菓子パンの空袋、くしゃくしゃに丸められたティッシュ、それに土と泥。
「このティッシュ、なんか変な匂いがする……」
ぞっとした。
いったい、なにを拭き取ったティッシュなのだろう?
ガビガビになったティッシュやその他のゴミを、ゴミ箱に捨てる。
内靴を取り出し、中を確認する。
もちろん、画鋲が入っている。
それを取り出そうと靴を手に持つと、靴底が剥がされていてペロンと垂れ下がった。
通り過ぎる他の生徒たちはほのかのことをガン無視だ。
鼻の奥がツーンとした。
しかたがない、職員室に行ってスリッパを借りるしかないか……。
靴下のまま、とぼとぼと廊下を歩く。
向こうから歩いてきた金髪の女子生徒が、わざと肩をドンッとほのかにぶつけた。
よろけて手をつくほのか。
「きゃはははっ! だっせー」
笑い合って去って行く女子生徒。
職員室に行くと、先生たちもほのかに冷たい。
「なにい? 靴が壊れたぁ? ちゃんと管理していないからそうなるんだ。今日は靴なしで過ごしなさい」
中年の男性教師はそう冷酷に言い放つ。
ほのかが振ったあの男子生徒は、この学校の理事長の息子なのだった。
学校ぐるみでのいじめだった。
仕方がないので、靴下のまま教室へ向かう。
「ぷっ、なにあの子。靴も履いてないよ? ぷっくすくす」
行き交う生徒たちがみなほのかを笑う。
目尻が熱くなって涙が零れそうになる。
泣くな、泣くな。
自分に言い聞かせ、教室の自分の席へ。
椅子にばらまかれている画鋲をかたづけ、机の中に教科書を入れようとしたとき。
「なに、これ……」
机の中に入っていたのは、……これは、まさか、……犬の糞?
もう我慢できなかった。
「うう……ひっくひっく」
思わず嗚咽が漏れ出る。
クラスの中にさざめくような笑い声が起きる。
だれもほのかをかばわない。
そこに、担任の女性教師が教室に入ってくる。
「さあ、ホームルームを始めるわよ」
「あの! 先生! ちょっと、机を掃除していいですか?」
ほのかは言ってみるが、女性教師の答えも冷たいものだった。
「駄目です。ちゃんと普段から片付けていないあなたが悪いんでしょう? いいからホームルームを始めるわよ」
ほのかは、犬の糞の臭いのする机に、そのまま着席するしかなかった。
「くっせー」
「くせえよな」
「なんだよあの女」
クラスのあちこちから、そんな声が聞こえてくる。
「う、う、うぅ~~~っ」
ほのかは顔を覆って泣くことしかできなかった。
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異世界転生したおっさん、救世主認定されたけど、最強魔法のトリガーが俺への好意なんだが!?世界を救いたければ俺を好きになってくれ。
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