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第50話 軽いなー

 手の平をおわんにしたご先祖様。

 そこに、ほのかさんがハッピーターンを指でなぞるようにしてはたいて粉を落とす。

 その落ちてきたハッピーターンの粉を受け止めてぺろぺろなめているご先祖様、本体のハッピーターンをパリパリ食べるほのかさん。

 それでいいのか、ご先祖様。

 知力-58でももう少しなんとかならないのか。

 

さてそれはともかく、俺はものすごいことに気づいてしまった。

 これ、麗奈さん、多分……。

 ってことは、死んじゃって遺骨しか残ってない久美子さんのことも、なんとかなったりしないかな?


「麗奈さん、ちょっとよろしいですか」


 俺は麗奈さんに話しかけた。


「何かしら」

「あの、……さきほどステータス見させていただいたんですけど、特殊能力のところの、『経験値二倍(マジックアイテムによるボーナス)』ってありますけど」


 このアイテムの効果、ものすごく見覚えがある。


「そうそう、イタリアのダンジョンを攻略したときにゲットした、超レアアイテムよ。この世に数個しかないそうよ。売れば2~3億円くらいになるそうだけど、まあ冒険者としてはこれは売らずに身につけておきたいわよね」

「それって……少々お見せいただけませんか?」

「あんた、高校生にしては丁寧な言葉遣いできるのね。偉い偉い。ご褒美にちらっとみせたげるわよ」


 麗奈さんが胸元からとりだしたそれは、真っ赤な宝石。

 みたことあるやつだ。

 つまり、マゼグロンクリスタル。


「ご先祖様」

「なんや、今、粉の依存症になって大変なんや、手短に話せよ、ぺろぺろぺろ」

「あの久美子さんの遺骨とこのマゼグロンクリスタルとご先祖様の呪文で久美子さんを復活できません?」

「ほのかみたいな完全復活は無理やろな、……でも、どうやろうね、なにかしらはおこるやもしれん……なにしろマゼグロンクリスタルはあまりに希少すぎて、あたしも試したことないからなー。やってみるかー? ちょうど和彦たちの魂もあることやし」


 ……結局、和彦たちの魂は利用されることになったのだった。

 まあ悪人の行きつく先はこんなもんでよいだろう。


「なになに、このアイテムでどうにかなるの? 妹の命のためだったらアイテムなんていくらでも差し出すけど」


 麗奈さんに、俺たちはマゼグロンクリスタルについて説明をした。


     ★


 描かれた魔法陣。

 その真ん中に置かれた久美子さんの遺骨とマゼグロンクリスタル。


「洋風な魔法陣でも呪文は和風なんですよね……」

「慎太郎、お前間違っとるぞ、魔法陣が広くエンタメでつかわれるようになったのは日本発なんや」


 まじですか!

 ファンタジーとかでよくみるから、西洋魔術由来かと思ってた!


「あの鬼太郎の水木しげる先生が広めたらしいで」


 へーへーへーへー!

 メロンパン入れゲットできるわこれ。


「まったく、慎太郎はものを知らんで困るわ。例えば、今使ってるこの魔法陣はとかげのしっ」

「それ以上いけない……ってかいろいろネタが古いですよね今更だけど」

「うるさいわ、あたしくらいの年齢になると二十年前のことがおととしくらいに感じられるんや。十年前のことが去年で、五年前だと脳内の整理箱の『つい最近』に入るんやで」

「俺はまだ高校生なので、その辺の感覚はわからないですね」

「いや、やばいほどついてきとるで……」


 さて、ご先祖様は先ほどと同じく、両手を大きく上げて、呪文の詠唱をはじめた。


「ぎゃ~~~~~て~~~~~~ぎゃ~~~~~~てぇ~~~~~~~」

「待って待って待って、ちょっと待って」

「なんやねん、寸止めすると仏様も怒るでしかし」

「いやいやいや、さっきと呪文違うくないですか?」

「なんやねん、日本は神と仏の国なるぞ」

「……アンデッドキングって神様と仏様信じてるんだ……いいのかなあ」

「もう邪魔するなよ」


 もう、ほんと、いろいろな方面から怒られそうなので俺はだまっておくことにする。

 改めて呪文(?)の詠唱をするご先祖様。


「~~~~~~だ~~~~~~~ぶ~~~~~~~」


 呪文の詠唱を終えると、ご先祖様はいつのまにどこかから持ってきていた《《おりん》》をチーンと鳴らした。

 これ、間違ってご先祖様成仏しちゃったりしないだろうな……いやまあそれはそれで正しい姿の気もするけど。

 《《おりん》》の響きが鳴り終わると、魔法陣がさっきと同じく発光を始めた。

 まぶしい光があたりを包む。

 そして。

 シュバッといっそう大きく光が輝くと、それは急速に消えて行って――。

 マゼグロンクリスタルがパリンと割れて細かく砕かれ、それは煙となって宙に消えた。

 そしてそこに、一人の人影が現れた。

 人?

 いや、人じゃないな、なんか向こう側が透けてる。

 これは……幽霊、だな。

 この地球上に数個しかないという超絶貴重宝石、マゼグロンクリスタルと、そしてご先祖様の力があわさったことで、骨のかけらから人ひとりの魂をあの世から呼び出すことに成功したのだ。


「久美子ぉぉっ!」


 絶叫する麗奈さん。


「久美子ちゃーーーーーーんっ!!」

 同じく絶叫するほのかさん。

 その幽霊は、その声に反応して、


「よっ! 姉ちゃん、ほのか、おっひさー!」


 とかるーく返事をしたのだった。

 背はちいさめで、天然パーマのもさっとした短めツインテール。

 っていうか、幽霊の髪型ってどうやって決めてるんだろうね。


「えー、これ、うちさー、いきかえったわけじゃないんかー。霊? 幽霊? レイスとして蘇ったこと? え、なんでほのかだけ生き返ってんの? ずるっ! あのドクターパッペーだよね、毒はいってたの、和彦はどこいった? 殺してやりたいんだけど」


 なんか一気にしゃべり始めた。


「大丈夫、和彦たちはお姉ちゃんが殺したよ」

「そっか、ならよし。あとなんか食い物ない?」


 軽いなー、軽い!

 ほのかさんのパーティのリーダーって、こんな軽い感じの人だったんだなー。


「ハッピーターンの粉舐める?」


 桜子が久美子さんの頭上からハッピーパウダーを振りかけた。

 久美子さんは実体のない幽霊なので、ハッピーパウダーはそのままパラパラと床に散らばった。


「うーん、味しないなー」


 残念そうに久美子さんがそういうけど、ほんと、軽いなー。


次回で最終回です!!

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【奴隷買いの救世主】
― 新着の感想 ―
[一言] 取り敢えず、ダークサイドは終わったから、ゆるくやっていくスタイル
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