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屍の声  作者: もちづき裕
船の謳
97/109

第二十六話  

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 勇さんの家は漁港から車で5分ほどの距離にある平屋の一戸建てだったんだけど、

「今日はうちのお母さんは隣町の実家に帰って居ないから、大したもてなしは出来ないんだけどねえ」

 快く僕らを家に招き入れてくれたんだけど、そこで天野さんが、

「あの・・その・・あの・・」

 挙動不審になりながら、

「まさか・・別居的なアレですか?」

 と、無茶苦茶余計なことを言い出したんだ。


 大きなテーブルが置かれた居間の電気を付けていた勇さんはキョトンとした表情を浮かべると、快活に笑いながら言い出した。

「いやいや、別居とかじゃなくて、お義理母さんが腰やっちゃったものだから数日おきに介護のために通っているんだよ」

「はあ〜、だったら良いんですけど。民宿のお母さんが詞之久居町は離婚も許されない町だって言っていたので、離婚が許されないからこそ逃げ出しちゃうこともあるのかもと思って」

 またまた天野さんが無茶苦茶余計なことを言い出すと、勇さんは気を悪くした様子もなく言い出した。


「ええ〜?船駒さんとこの奥さんがそんなことを言っていたの?一応、日本は法治国家だから離婚は全く出来ないなんてフィリピンみたいな話にはならないと思うんだけど」

「え!フィリピンって離婚が出来ないんですか?」

「厳格なカトリックの国だから結婚を神聖視していて離婚できないらしいよ」

「じゃあ、詞之久居町も厳格なカトリック信者が多いから離婚が出来ないとか?」

「そんなわけないでしょう〜」


 全く気を悪くした様子はない勇さんは僕らのためにお茶を用意し始めたんだけど、僕は座布団の上に座りながら隣に座る天野さんに言ってやったよ。

「初対面の人に別居しているんじゃないかと訊くなんて、失礼にも程があるだろう」

「だって気になったんだもーん」

 どうやら天野さんにとって、民宿のお母さんの言動は到底見過ごすことが出来ないものだったらしい。

「僕としては町おこし反対派の方が気になって仕方ないんだけどな」

 通りかかった車を止めてまで中を確認しようとしているんだもの、どう考えてもおかしいだろう。


「まあね、うちの町が他の所と比べて飛び抜けて閉鎖的だというのは間違いない事実だよ」

 台所でお茶を用意して来た勇さんは、僕らの前にお茶を置きながら言い出したんだ。

「たとえばだけど、今の現役町長さんである村上さんのご両親だけど、町長さんが子供の時に突然、庭で頭からガソリンをかぶったかと思うとマッチで火をつけてその場で燃え上がったそうなんだよ」

「「・・・」」

「二人揃って笑いながら燃え上がったらしいんだけど、警察は無理心中と判断して処理したんだよね」

 なんなんだ、その恐ろしい話は・・


「当時、町長さんの両親は詞之久居島のリゾート誘致に深く絡んでいたんだ。誘致を決定した菅原本家の当主なんかは、裏山で内臓を引き摺り出された状態で発見されて、どうやら熊に生きたまま食われたらしいんだ」

「山間ではそういう熊の被害って年々多くなっていますよね」

「そうそう、最近では街に出て来ることも増えているみたいだし」

「いや、熊が恐ろしいというよりも検死の結果が恐ろしくて。熊に襲われた本家の当主だけど、どうやら熊に襲われた後も三日に渡って生きていたらしくてさ。そういう生体反応っていうの?警察でも信じられないって話になったみたいで」


 僕と天野さんは思わず目と目と見合わせたんだけど、黙って勇さんの話の続きを聞くことにしたんだ。

「年取った当主が亡くなったんで長男が後を継ぐことになったんだけど、当主の49日まであと1日ってところで湾岸道路で車に轢かれた状態で発見されてさ。しかも、胴体が分断っていうの?当時、トラックに轢かれたにしては状態がおかし過ぎるって話になってさあ」

 こえー〜。

「それ以外にも大奥様が突然、朝になったら死んでいたり、分家の方でも事故が多発するようになって、間違いなく呪いだろうっ話になったんだ。そこで本家では有名な除霊師とか霊媒師を呼んだらしいんだよね。そうしたら誰も彼もがウチでは手に負えないと言って帰って行ってしまって、そうこうするうちに詞之久居島のホテルが大火災を起こすことになって、本家は多額の借金を抱えることになって一家は離散。そんなことがあったものだから、島が絡んだり、町おこしなんて話になると拒絶反応が凄いのかもしれないな」


「お爺さんは本家の呪いを解いたからお亡くなりになったんじゃないんですか?」

「火災後も色々とおかしなことが起き続けることになって、それで爺さんが前に出て行くことになったんだ。今でも虎の威を借る狐じゃないけど、菅原姓の人間はああやって偉そうに命令して来るようなことがあるんだけど、爺さんのことがあるから菅原の人間はうちに対しては何の手出しも出来ないということになるんだよね」


「それじゃあ民宿のお母さんは菅原姓の人と関係があるってことですか?」

 天野さんは民宿のお母さんのことが気になって仕方がないんだな。

「あそこの旦那さんは分家筋の三男で、家から離れるために苦労して自分で民宿を開いて、最初でこそ夫婦仲良く経営をしていたんだけどねえ。次第に自分の父親と同じように暴力を振るうようになっちゃったみたいで」

 こえ〜って。

「まあ、皆さ、何かしら後ろ暗いところがあるから外からやって来た人に対して忌避感が強いんじゃないのかなあ」


 そう言って勇さんは、

「十年も前に日本一周を挑戦中の中学生を泊めた話を今でも執拗に言って来るだけでも分かるだろう?」

 と、ため息を吐き出しながら言い出したんだ。


今度は海に移動した霊能力者二人のドタバタ劇をお送りしたいと思います!!

もし宜しければ

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