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屍の声  作者: もちづき裕
船の謳
95/109

第二十四話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 僕と天野さんは勝手を知らない民宿の裏口と思しき扉から抜け出して狭い裏路地を展望台に向かって歩き出したんだけど、通りの向こう側では人が集まっているような気配が増えていることには気が付いていた。


「やっば〜!恐ろしい〜!」

 心底恐ろしくなった僕が早歩きで展望台への坂道を登り始めていると、後ろからついて来た天野さんが言い出したんだ。

「先輩、私、ちょっと冷静になって考えてみたんですけど、私自身、一度も詞之久居町の町おこしをしたいだなんて一言も言っていないんですよ」

「それな」

 僕は車が一台、ギリギリ通れるような細い坂道を登りながら言ったんだ。


「僕だって詞之久居町の町おこしを積極的に、絶対にしたいだなんて言ってない。そもそも、今回の神村ゼミの合宿は、あぱっとねえ祭りが行われた波羽美町で行われたし、僕は教授から直々に今年の合宿には参加してねって言われただけで、縁もゆかりもない詞之久居町については一言だって言われていないからね!」

「そもそも先輩が呪われたのが問題なんですよね?」


 坂道を登りながら天野さんが真面目な顔で言い出したんだ。

「先輩がパリピのビーチではしゃぎ回って、スイカ割りに興じて、海にバシャーンと飛び込んでキャッキャ、ウフフとやっている間に呪われて、その呪った根元がどうやら詞之久居島にあるって言うんでしょ?それで先輩は呪いを解消するために詞之久居町までやって来たということですけど、その中の何処に町おこしってワードが出て来るんですかね?」


「それは!町役場に勤める佐藤さんと中村さんがジリ貧状態の詞之久居町を波羽美町のように盛り上げたいって考えていたからで!」

「先輩、今から先輩だけ民宿に戻って、正直に、自分たちは町おこしなんか実はする気はないんだって告白してきたらどうですかね?自分はうっかり詞之久居島の何かに呪われちゃったものだからそれを解消するために来ただけだって正直に言うんですよ!」

「無理だろ!それ〜!」


 聖上大学の学生だって言うだけで半殺しにでもしそうな勢いの連中の前へ、ちょっと呪われちゃったものだから詞之久居町までやって来たんですなんて言い出したところで、半殺しされる未来に変わりはないだろう!


「そもそも何であんなに町おこしが嫌なんだよ!理由が分かんないよ!」

「それは、何かやましいことがあるんじゃないですかね?」

「やましいことか・・ありそうだな〜」

「そもそも民宿のお母さんの話からして怖いですよ。詞之久居町は他と比べて離婚率が低い?世間が離婚を許さない?マジすかそれ!」

「お母さんみたいにはなりたくないって娘さんは家を出て行ってから帰って来ないとも言っていたよな」

「娘は帰って来ず、自分は離婚も出来ずに殴られているってどんな地獄なんですかね?」

「うわ・・やめて〜」


 天野さんが核心を突いたことを言い出したので、急に気分が悪くなって来たぞ〜。

「僕は思うに、この町、物凄く男性優位な風潮にあるんだと思うんだよ」

「男性優位というか、菅原家優位ですか?」

「本家は滅んで分家しか居ないんだろ?」

「それでも漁協組合を牛耳っているとか何とか言っていませんでしたっけ?」

「うわ〜、島まで船で渡りたいのに誰に頼んだらいいんだよ〜」

 この呪い、一週間を待たずに死に至るとんでもなくヤバい奴なのだが・・

「もう面倒臭い、早急に島に渡って呪いだけ何とかして解決したい」

「そもそも島に渡れば何とか出来るものなんですか?」

 そこで天野さんが心配そうに、

「こういった場合って個人で何とかしようとはせずに、有名な霊媒師とか除霊師とか、そういった人を頼んだ方が良いんじゃないんですかね?」

 検討はずれなことを言い出したんだ。


「天野さん、天野さんは自分のこと、全然分かっていないよね」

「はあ?」

「天野さんはさ、おそらくご先祖様がすんごい力を持った巫女様だったんだよ」

「はあ」

「だから君さえいれば何とかなるんだよ!」

「また先輩は胡散臭いことを言い出していますけど、私、沖縄出身じゃなく秋田出身なんですよ」

「だから!秋田出身でも巫女さんはいるんだって!」

「うさんくさ〜」


 天野さんって巫女さんは沖縄にしか居ないもんだと考えている節があるんだよなあ。たしかに沖縄は巫女さんの逸話が多いけども、何で僕の言うことを信じてくれないんだろうか。


 こうして僕らは観光案内の地図に従って民宿から徒歩で20分の場所にある展望台まで移動をすることになったのだが、意外にも展望台は綺麗に整備されているし、民宿のお母さんの言う通り眺めは素晴らしいものだった。


 小高い丘の上からは問題の詞之久居島とその隣にある首切り島まで眺めることが出来たし、周辺の地図と一緒に首切り島に残される神話の内容まで丁寧に記されていた。

 佐藤さんが教えてくれたようにこの地には素戔嗚尊伝説が残されていて、素戔嗚尊の妻であるクシナダヒメが自分の親の元に白鷺を使って手紙を送ろうとしていたところ、嫉妬に狂った素戔嗚尊が白鷺を捕まえてその首を切って落としたとされている。その白鷺の首を切ったのが今現在、首切り島と呼ばれる場所になると書かれていた。


「素戔嗚尊ってそんなに嫉妬深い神様なんですか?」

 説明文を読んでいた天野さんが疑問の声をあげたので、

「一説によれば嫉妬深いと言われているよ」

 と、僕は教えてあげたんだ。


「素戔嗚尊は八岐大蛇を倒す際にクシナダヒメを櫛の姿に変えてしまったんだけど、手足を撫でさすって育てた愛娘を櫛にした、手足のない姿に変えてしまったんだ。自分からは逃げ出せない姿に変えてしまったと解釈することも出来るわけ」

「え?それってちょっと怖い話になる感じですか?」

「物凄く怖い話に発展することになるんだよ」


 丘の上から見ているだけで詞之久居島が大変なことになっているのが良く分かる。

 島の中には1970年に火災を起こしたと言われる建物の残骸が今なお残されたままなのが良く分かるんだけど、何でこんな場所に昔の人はホテルを建てようと思っちゃったのかな?


 自分たちが犯した罪に対してはすっかり忘れたものとして、我が世の春を再び楽しもうとしたのは良く分かるけど、

「罰当たりな話だろう?」

 僕らが揃って丘の上から詞之久居島を眺めていると、後ろから声をかけられて思わず飛び上がりそうになってしまったんだ。


「当時の火災で亡くなった人は三十人を超えることになるんだが、いまだに一度も鎮魂祭すら行ったことがない。しかも燃えたホテルの残骸はそのままの状態なものだから、いつ崩れ落ちてもおかしくない状態のまま放置されているんだ」

 港を訪れた時に最初に顔を合わせた第一町人であり、ビーチクリーン活動をしているおじさん、辰野勇さんが海上に浮かぶ島を眺めながらそんなことを言い出したんだ。


今度は海に移動した霊能力者二人のドタバタ劇をお送りしたいと思います!!

もし宜しければ

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