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屍の声  作者: もちづき裕
船の謳
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第二十三話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「うちは朝食、夕食こみで一泊お一人一万五千円となりますので、お二人で二泊ということで6万円。お飲み物なんかを頼んだ料金は後で請求という形になるのですが、宿泊費用だけ最初に払って頂くことになっているんですよ」

 明らかに殴られている。

 明らかに誰かに殴られた跡がお母さんの顔に残っているんだけど、

「わっかりましたあ」

 僕が財布から6万を出して手渡すと、

「今、領収書をお渡しするのでちょっとお待ちくださいね」

 と言ってお母さんはフロントの奥に引っ込んでしまったのだった。


 こういう時って指摘出来ないものなんだなあと思いながら振り返ると、僕らをここまで連れて来てくれた佐藤さんが居ないではないか。

「佐藤さんは?」

 思わず天野さんに小声で問いかけると、

「役所の方が心配だからとりあえず戻って一回、確認に行ってくると言って戻っていきましたよ」

 と、天野さんもまた小声で答えている。


 おい、おい!佐藤さんは戻っちゃったのかよ!

「こちらが領収書になります、それではお部屋の方に案内しますねえ」

「「は〜い!」」


 僕らはお母さんの案内で2階にある客室へと移動することになったのだが、確かに窓から海を一望出来るので眺めが良い部屋なのは間違いないのだが、

「お茶をお淹れしますね」

 お母さんはテーブルの上に用意されたお茶のセットで二人分のお茶を淹れると、

「あの・・驚いたでしょう?」

 と、自分の青紫に腫れ上がった顔を撫でながら困ったような笑顔で言い出したんだ。


「「いや・・その・・あの・・」」

 僕と天野さんが座布団の上に座りなおすと、僕らの前にお茶を差し出したお母さんは、

「眺めが良い部屋でしょう?うちの民宿の自慢の部屋なんです」

 と、窓の外に視線を向けながら言い出した。

「うちの宿からは海に浮かぶ詞之久居島が綺麗に見えるから、お写真を撮るのが趣味だという方も良く泊まりに来るんですよ」

 そうしてお母さんは小さなため息を吐き出した。

「この詞之久居町はとっても良い町なんです。本当に、とーっても良い町なの。何しろ離婚をする人なんてほとんどいないような町ですし、うちの娘なんかも、お母さんみたいにはなりたくないと言って東京に行ったっきり、帰っても来ないんです」


 おおお・・核心へと話が近付いて行くわけか?

「熟年離婚がどうしたこうしたってテレビで特集されることもありますけど、あれはテレビの中だけの話なの。うちの方はね、絶対に、世間が離婚を許してくれないの。それと同じようにね、町おこしですか?あれだって世間が許してはくれないでしょう」


 そう言ってお母さんは手書きの観光地図を印刷したものをテーブルの上に載せて、

「歩いて20分のところに夕焼けがとっても綺麗に見える展望台があるんです、とにかく眺めが良いところだから行ってみると良いと思いますよ」

 そう言って部屋から出て行ってしまったのだが・・


「先輩・・」

 天野さんは真面目な顔で言い出した。

「舟盛りも海鮮丼も出ないのに一泊一人一万五千円って高くないですか?」

「いや、最近は民宿でもそれくらいのお値段するものじゃないの?」

「しかも、何時に夕食が教えずに行っちゃいましたよ」

「テーブルの上にある案内の冊子を見れば書いてあるんじゃないの?」

「あっ・・そうか」


 僕がお母さんが淹れてくれたお茶を飲んでいる間に、天野さんは案内の冊子を手に取って中身を読んでいたんだけど、

「先輩・・」

 天野さんは真面目な顔で言い出した。

「当たり前のように先輩と同室になっているんですけど、私たちの他には誰も泊まっているようにも思えないし、一人一部屋、別々に泊まっても何の問題もないんじゃないですかね?」

「バカだな、絶対にそれ駄目だろ」

「なんでですか?」

「さっきお母さんが言っていただろう?世間は町おこしを許さないって」

「いや、確かに言っていたけれども」

「しかも佐藤さんが妙なことを言っていたじゃないか、女子大生が一人だけ残ったらただじゃ済まないとか何とかさ」


 お茶を飲み終えた僕はしばらく考え込んだ後、

「天野さん、ボストンバックに入っている下着とか洋服とか、僕のスーツケースに入れておいた方が良いかもしれん」

 そう言ってその場から立ち上がったんだ。


 部屋の窓の端から隠れるようにして外を眺めると、見知らぬ中年男性がこちらを見上げていることに気が付いた。

「何で下着なんか」

「僕のスーツケースは鍵がかけられるからだよ」

 どうやらここの部屋を監視しているようで、目の前の道を行ったり来たりしながら誰かを待っているようにも見えるんだ。

「大きな荷物は持って行けないから、とにかく貴重品だけ持って出かけよう」


 あれだけの騒ぎを起こした奴らなんだから、客室まで上がり込んで僕らの荷物を勝手に漁るくらいのことは平気でやりそうだと思うんだよね。

「先輩のゾンビマスクを私のボストンバックに入れたら、私の荷物はギリギリスーツケースに収まると思うんですけど」

 僕の大事なマスクたちはすでに外に出されていて、天野さんは自分の荷物をきっちり、きっちりスーツケースの中に詰め込んでしまっている。

「大事なマスクは私のボストンバックに入れて持ち歩けば良いじゃないですか」

「うん、そうか、そうするか」


 こうして僕らは一旦、宿から離れることにしたのだが、玄関先で靴を手に取ったところで、

「本当にここに聖上大学の学生が来ているのか?」

「ああ、間違いない。二階の部屋に居るようだ」

 何処かの誰かの声が聞こえて来たぞ。


 フロントには誰も居ないし、民宿の中はシンと静まり返っているんだけど、

「「・・・」」

 僕と天野さんは自分の靴を手に取ると、そのまま宿の裏口に向かって移動を開始することに決めたんだ。


今度は海に移動した霊能力者二人のドタバタ劇をお送りしたいと思います!!

もし宜しければ

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