第十五話
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
詞之久居町の町役場から波羽美町へと視察にやって来た中村さんと佐藤さんだけど、町おこしに積極的なのは年齢も若い佐藤さんの方で、年配の中村さんはそんな佐藤さんに引っ張られるような形で連れて来られたみたいなんだけど・・
「民俗学と町おこしを見事に繋いで成功に導いたっていう噂話は良く聞いていたし、実際に波羽美町に大手のリゾート会社が参入するという話を聞いて、それじゃあ波羽美町と同じく近海に島があるうちだって同じように成功する道もあるんじゃないかとは思ったんだけど・・」
車を運転していた中村さんは、大きなため息を吐き出しながら言い出したんだ。
「うちは海水浴場がないからパリピのビーチを実現することは出来ないし、槙野さんが言うように財布の紐が緩みきった外国人を誘致するって言ったって、どうやって誘致すれば良いのか皆目検討がつかなくて」
遂に中村さんまでパリピのビーチとか言い出しているんだけど、すると助手席に座っていた佐藤さんが言い出したんだ。
「うちには海水浴場はないですけど、風光明媚な素晴らしい景色はあるじゃないですか?槙野さんも財布の紐が緩んだ外国人は、島の近くを巡るために余裕で漁船に乗り込むって言っていましたし、パリピの漁船ツアーを企画したら当たるんじゃないでしょうか?」
遂に佐藤さんまでパリピ、パリピと言い出したぞ。
「パリピの漁船ツアーだなんて、漁業組合が許すわけがないよ」
「ですが、魚が獲れないんですから別の道も模索しないと!」
「あのー、お魚が獲れないとさっきも言っていましたけど、どれくらい獲れないんですか?」
そこで呪いの船を抱えた天野さんが質問をしているんだけど、
「いや・・それが・・」
温暖化で海水温が上がっているとか、黒潮が蛇行していたからとか、その黒潮の蛇行が止まったとて、
「「本当に獲れなくなっちゃって」」
本当に深刻な問題になっているし、
「魚が獲れないなら獲れないで、観光客を誘致してタクシーとして利用する未来も考えていかなければならないとは思うんですが!」
役場の人間としても大きな危機感を抱いているのは間違いないんだけど、
「だけど一筋縄でいかないのは間違いない事実なので・・」
実際に船に乗っているのは役場の人間じゃないからね。
魚が獲れないんだったら漁業をやめれば良いだろうと簡単に考えてはいけない。漁獲量が見込める時に船を買い替えた人だっているだろうし、船のエンジン部分を取り替えている人だっているだろう。お魚が獲れない間もローンを払っていかなきゃいけない人だっているだろうし、ガソリン代だって払わなくちゃならんのだ。
魚が獲れなければ船を使わなければ良いじゃないと言い出す人もいるかもしれないが、そうしたら収入は完全に無くなってしまうことになる。だからこそ、魚を求めて遠い海へと船を移動させることになるのだが、そしたらそしたでガソリン代がかさむことになる。
「魚が獲れさえすれば良いんだけれども」
温暖化が問題なのか、黒潮が問題なのか。
何が問題なのかは分からないけれど、他所の港に魚が戻って来たという噂話を聞くばかりで詞之久居町の港には魚が戻って来ないような状態らしい。
「噂によると、聖上大学の生徒さんが来ると、町として抱えている色々な問題が不思議なほどに解決していくという噂話を聞きまして」
佐藤さんの方が期待混じりの眼差しで僕らの方を振り返りながら言い出した。
「若さの力というか発想力という奴なのでしょうか?古い考えに雁字搦めになっているうちの町にも波羽美町さんほどとまではいわなくても、新しい風が吹いてくれたらなと考えておりまして」
「あああ〜、そうですよねえ、皆さん、同じようなことを仰るんですよね〜」
僕は適当に返事をしながら、天野さんが抱える呪いの船が気になって仕方がない。
天野さんが持っているものだから怨霊が外に出て来ることはないんだけど、中に居る怨霊の奴、詞之久居町が近づけば近づくほどガタガタと音を立てて暴れ出しているんだよ。
船が勝手にガタガタ小刻みに動いていることに何で気が付かずに居られるんだろうと天野さんの方を見れば、
「こいつ・・寝ている」
激ヤバ怨霊が詰まった木製の船を抱えながら寝ている!
確かに今日は朝早くから移動だったけれども!
「なんで寝られるんだよ」
鈍感力が凄い、凄すぎるけれども、隣に座っている僕はもう限界点を超えそうだよ。
「あの〜、まずは町役場じゃなくて、パリピの方々が気にいるかどうかを確認するためにも近くの島が見える場所まで移動して貰っても宜しいでしょうか?」
僕が声をかけると、
「港からは離れた場所が良いだろうな」
と、運転をする中村さんが言い出し、
「あいつらに見つかったら大変なことになりますからね」
と、佐藤さんが答えている。
「一応、うちの町にも展望台があるんですけど、そこに移動することにしましょうか?」
「展望台というと山の上とか丘の上にあるんですよね?」
僕は前に乗り出しながら言い出した。
「まずは丘じゃなくて海に行きたいんです」
「「海ですか?」」
「そうです!海です!」
どうやら二人は漁船が停泊している港の方には行きたくないようで、堤防の端の方に車を停めて僕らに降りるように声をかけてくれたんだけど、
「先輩?もう到着したんですか?」
寝ぼけた天野さんは膝の上に乗せていた木製の船を足元にガタンと落としてしまったんだ。
丁度、僕がスライドドアを開けたところだったんだけど、落ちた船から真っ黒な蛇のようなものが飛び出して来たため、
「ギャアアアアッ!」
僕は自分の足を慌てて座席シートの上に移動させたんだ。
「天野さん!ちゃんと持っていてくれないと困るよ!」
触れれば即死の災害級の怨霊は真っ黒な蛇となって蛇行しながら移動をすると海にポチャンと音を立てて飛び込んだ。
「うわぁああああ!」
怖い!怖い!怖い!怖いけど怨霊がどっちに泳いで行ったのか確認しなければならない!僕の予想通りなら江戸時代には流刑島だったと言われる島に移動していると思われるのだが、車から降りる時にも足がもつれて転びそうになってしまった。
災害級、災害級、触れたら即死!
「怖いよー!見たくないよー!」
そんなことを言いながら僕が堤防から乗り出して海を見下ろそうしていると、見知らぬ強面のおじさんがグイッと僕の肩を掴みながら、
「おい、おい、何が見たくないって言うんだよ?」
と、言い出したんだ。
まだまだ残暑が続く日々の中、今度は海に移動した霊能力者二人のドタバタ劇をお送りしたいと思います!!
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