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屍の声  作者: もちづき裕
船の謳
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第十四話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 槙野さんの言う通り神村ゼミでは2年の春から参加する学生を一期生、秋から参加する学生のことを二期生と呼ぶ。

 天野さんをさっさと波羽美町から追い出そうとしている槙野さんは、リュック一つで世界各国を旅して回るバックパッカーだったんだ。旅行中にタイの山奥にある呪術の村と呼ばれる場所に洒落で行ってみたところ、

「あんたにこれから絶対に必要な技術を教えてやるよ」

 と、ギャングに頼まれて呪い殺したり、験担ぎをしたり、祈りを捧げたりするヨボヨボのおばあちゃんから、

「ただし現金で三万円、日本円で良いから今すぐ出しな」

 と、言われた槙野さんは、腹巻財布からなけなしの三万円を出して、これから絶対に必要になる技術というものを伝授してもらうことにしたってわけ。


 おばあちゃんは家の裏に色々なハーブ(日本でも購入は可能、決して脱法ハーブではない)を育てており、乾燥させた複数のハーブを手巻きタバコの紙で巻いて火をつけ、精霊を呼び出す文句を呟き、煙を大きく吐き出すことで退魔を行うという精霊使いの退魔方法を教えてくれたというのだが・・


「精霊使いって・・ファンタジーか!」

 と、槙野さんは思ったものの、虎の子の三万円を払っているだけに、

「せっかくだから完璧に覚えて日本に帰ってやるわい!」

 二十日間村に滞在し続けた槙野さんは(滞在費用はまた別料金)最後には村に来た除霊希望のタイ人相手に災避けや退魔を行うようになり(謝礼金は全ておばあちゃんのものになった)一人前として無事に日本に帰国することになったのだが、

「ふっ・・精霊式退魔師って何をやっているんだろう・・」

 一年の夏休みを退魔修行で終えて、大学に通い出したところ、

「槙野君、神村教授に呼ばれているみたいだから、教授室に行って来た方が良いよ?」

 と、友人から声をかけられたっていうんだよね。


 ちなみに槙野さんは煙を吐き出す時には必ず何かを呟いているんだけど、あれってタイ語なんだ。


「今現在、聖上大学の生徒が何人かはうちの町に来ているのですが、今の詞之久居町に必要な学生は玉津くんと天野さんだと俺は思うんです」

 聖上大学OBである槙野さんは胸を張って僕らのことを薦めだしたんだけど、胡散臭いにも程があるよ。

「えっと・・それはどういうことでしょうか?」

「だってですね・・」

 槙野さんは前のめりになりながら言い出した。

「ここにいる玉津くんは、ちょっとここらじゃ見ることが出来ないレベルの!驚くほど顔が良い男ですし!天野さつきさんは彼のサポートをするのにピカイチの子ですから!」


 聖上大学の学生と思しき一人は長椅子の上で失神しているし、もう一人は未だにトイレでゲコゲコ吐いている音が聞こえて来ているんだけど、槙野さんときたらゴリ押しにも程があるよ。


「町おこしと言えば聞こえは良いですけど、軌道に乗るまでの間は反対意見との戦いになるのは間違いないんです。その反対意見を少しでも減らすためには、やっぱり顔が良い大学生を連れて行くのが一番手っ取り早いんです!」

 クソ調子が良い槙野さんは僕の肩を叩きながらニコニコ笑っているんだけど、そこで僕に向かって小声で囁いて来たんだ。

「早く移動しろよ!そうじゃないとさつきちゃん、呪いの船片手にうちのパリピのビーチに移動すると言い出すことになるぞ!」

 それはマジで無理。


「でも、なんか変なマスクをしているし・・」

「いや、これは趣味でかぶっているものでして」

 僕は即座にスケキヨマスクを外すと、

「ご婦人へ説明する時には、マスクは着用しません!」

 ニコニコ顔で町役場から来た二人のおじさんに向かって言ったんだよね!

「だから大丈夫ですよ!言いくるめるのは得意です!」


 珍しく前のめりになっている僕の姿を見た天野さんは、呆れた表情を浮かべているんだけど、

「それじゃあ善は急げで!早速!詞之久居町へ移動しましょう!」

 と僕は言って、外へと飛び出して行ったわけさ。


 何が怖いって、天野さんが持っている船の中の怨霊なんだけど、女性への親和性が非常に高いみたいで隙あらば魂へと浸潤しようと動き出す。船から細い糸みたいな物を伸ばしているし、それに捕まった寒河江先輩なんかは完全に乗っ取られているような状態になっていたもんなあ。


 これが四方八方に伸びて行ったら収集がつかなくなるのは目に見えているから、すぐにでも本拠地である詞之久居町に移動する必要があるわけで・・

「ああー〜!」

 僕らは詞之久居町役場で所有するワゴン車に乗せてもらうことになったんだけど、途中、波羽美海水浴場の横を通ることになったものだから、天野さんが窓にへばりつきながら声をあげたんだ。


 お祭りもあったし、外国人観光客がまだまだ滞在しているような状態だから、ビーチにはズラーッと純白のビーチベットが並べられているし、パラソルもズラーッと並んでいるし。白人金髪の女性がビキニ姿で闊歩しているし、ふくよかなマダムがビーチベッドに寝そべって、和紙で出来た小さな傘でデコレーションしたカクテルなんかを飲んでいるし。


 ここのビーチはバックパッカーだった槙野さんプロデュースの元、完全なる外国人向けのビーチ(ビーチベッドで寝そべって、時々泳いだり、泳がなかったり、だらだら飲んだり食べたり出来るシステム)にしているものだから、スピーカーから流している音楽なんかもここぞとばかりにレゲエ、レゲエ、レゲエ(ベタすぎると僕なんかは思うんだが)。


「これがパリピのビーチなのかあ!」

 車はあっという間に海水浴場を通り過ぎ、山と山に挟まれる国道へと移動して行ってしまったのだが、

「パリピのビーチー・・」

 後ろ髪引かれまくっている天野さんに対して、僕は心の中で謝りまくることにしたんだ。


まだまだ残暑が続く日々の中、今度は海に移動した霊能力者二人のドタバタ劇をお送りしたいと思います!!

もし宜しければ

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