第十三話
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「さつきちゃん、とりあえずこれから詞之久居町に移動をしようか?」
手巻きタバコを携帯灰皿に押し込んだ槙野さんが有無を言わさぬ調子で言いました。
「さつきちゃんが持っているその船は危険物にも程があるし、うちの町に置いておいても碌なことにはならなそうだから、とにもかくにも現地に行って何が問題なのかをきちっと見極める必要があるみたいだよ」
いや、ちょっと待ってくださいよ!
「この船、私が持って来た船じゃなくて、先輩が持って来た先輩の船ですよ!」
「だけど今の時点でその船を触れるのはさつきちゃんだけだし」
「そんなことないですって!槙野さんでも触れますって!」
私が木製の船を槙野さんに渡そうとすると、空気中の静電気がパチパチと音を立てて爆ぜ出したので、
「無理!無理!俺には可愛い妻と子がいるから!」
槙野さんはそんなことを言いながら三歩も四歩も後ろに下がっている。
「先輩だったら触れますよね?だってこの船を持って来たのは先輩じゃないですか?」
先輩の方を振り返ると、自分の足元に倒れ込んだミス聖上をそのままにしてポケットから出したスケキヨマスクをかぶろうとしているんだから呆れちゃうよ。
「先輩!お外でスケキヨは駄目でしょう!」
「いや、でも、だって」
「警察に通報されますよ!」
「いやでも、海水浴場でゾンビマスクかぶっていても誰も何も言わなかったし!」
「これから行くのはパリピのビーチじゃなくて首切りの島なんでしょう?絶対に同族と間違われて警察に補導されますよ!」
「同族ってなんなんだよ!同族って!」
「あのー〜」
そこで騒ぎを聞いて降りてきたと思われる中村さんと佐藤さんが言い出したんですよ。
「うちの近海にある島は名前だけは『首切り島』だなんて呼ばれていますが、実際に首を切っていたかどうかは分からないと言われているんですよ」
「それにその倒れている女の子、倒れたままで良いんですか?」
「あ・・そういえばそうだった」
罵詈雑言ガール、ミス聖上を槙野さんと先輩が近くに置かれた長椅子に移動をさせると、
「それじゃあ移動しようか?」
と、槙野さんは言いました。
「人文学部民族学科としては現地調査が基本中の基本だからね」
確かに私と玉津先輩は聖上大学の人文学部民族学科に所属しておりますが・・
「槙野さん、そこで倒れているミス聖上が言っていましたけど私はまだ一年生だし、ゼミに所属している訳でも何でもない、完全なる部外者だと思うんですよね?」
「さつきちゃん、うちの学部が一体いつからゼミの募集や選考が始まるか知っているかい?」
「普通は2年生の秋ごろから募集が始まって、3年生からゼミに参加する形になりますよね?」
「普通だったらね?」
槙野さんは真面目な顔で言いました。
「人文学部民族学科のゼミの選考は一年の冬から始まるし、2年の春から参加するゼミ生を一期生、2年の秋から参加するゼミ生を二期生と神村ゼミでは呼ぶことになるんだよ」
フィールドワークがメインとなる民族学科のゼミは他の学部と比べて活動が早いという噂は聞いていたんだけど、一年の冬から選考が始まるとは思わなかったなあ。
「公務員の就職率がダントツに高い神村ゼミは競争率が高いので有名なんだけど、その神村ゼミで一期生と呼ばれる学生は神村教授自ら見出した生徒で揃えられているんだよ。ここに居る玉津くんなんかもその一期生になるんだけど、何でこの玉津くんが神村ゼミに入ったのか、その理由がさつきちゃんには分かるかな?」
「公務員に就職出来るからじゃ?」
「違う、違う、違う。神村ゼミでは教授が認めるほどの貢献をすれば、テストの点数、提出する課題、出席日数、そんなものに関係なく単位をくれるシステムになっているんだよ」
えーっと、つまりはどういうこと?
「大学生をやっていると、ヤバイ!単位が足りなさそう!という事態に陥りがちなんだけど、それを簡単に補ってくれるのが神村ゼミの恐ろしいところなんだ」
槙野さんはスケキヨマスクを装着した玉津先輩を捕まえながら言い出した。
「たとえばこいつ、玉津くんの場合はホラーマスク作りが本業みたいな生活を送っているから海外のイベントに参加をすればするほど単位が怪しくなってくる。単位が足らなきゃ留年は当たり前の世の中で、特殊技能を使って教授に貢献さえすればギリギリセーフ!留年せずに済むってわけだね!」
先輩の特殊技能・・それは・・もしかして・・
「お焚き上げですか?先輩、神社の息子だけどお焚き上げだけは出来るって言っていましたもんね!」
「それは俺にはよくわからないけれど・・とにかく今回の案件は絶対に教授から単位を貰えると俺は思う!」
「でも、私はまだ神村ゼミに入るって決めた訳でもないのに・・」
「入りたいと思う時に慌てて何かするよりも、今から準備をしておくに越したことはないし!ゼミを決める時にやっぱり別のゼミが良いってなっても支障はないんだから!大丈夫!大丈夫!」
「天野さん、天野さんはまだ一年だから分からないかもしれないけれど、単位をきちんと一つ一つ取っていくのは本当に大変なことなんだよ」
そこでスケキヨ野郎が真面目な声で言い出した。
「君は生き霊ショックの時だって大学を休むことになっちゃったじゃないか?ただでさえ巻き込まれ体質なんだから、これからも何かがあって大学を休むことになっちゃった挙句に単位が足りなくなって留年なんてことになったらさ、ただでさえ君の学費で四苦八苦している君のご両親は何て言い出すんだろうね?」
「むぐぐぐぐぐぐ〜」
ゼミを決めるのなんてまだまだ先の話だと思っていたのに、今回のお手伝いで貢献さえすれば単位が貰えるかもしれないなんて魅力的な話だし、万が一何かがあった時のために単位だけ確保しておくことが可能なのであれば、それに越したことはないとは思うけれど・・
「先輩みたいにお焚き上げが出来る訳でもないし、槙野さんみたいにハーブ系のタバコの煙を吐き出すことも出来ない私が現地に行って何かが出来るとも思えないんですけど?」
そもそも何の貢献も出来なければ単位も貰えず、くたびれ儲けで終わりそうな話よね?
すると槙野さんは大きな声で言い出した。
「君には才能がある!」
「はあ?」
「そうだよ天野さん!君には才能がある!」
「ええ?」
「だってその船を運ぶことが出来るのは君しかいないもの!」
「そうだよ!そうだよ!その船を詞之久居町に持って行きさえすれば1単位ゲットできると俺なんかは思うなあ!」
胡散臭い、本当に胡散臭いと思うんだけど、私たちのやりとりを見ていた詞之久居町役場の二人は困り果てた様子で、
「「それで、私たちはどうしたら良いのでしょうか?」」
と言い出した。完全にこれ、私の答え待ちの状態ってことですかね?
まだまだ残暑が続く日々の中、今度は海に移動した霊能力者二人のドタバタ劇をお送りしたいと思います!!
もし宜しければ
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