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屍の声  作者: もちづき裕
船の謳
81/109

第十話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 最近、インバウンドがどうとかオーバーツーリズムがどうだとか、色々と言われているとは思うんだけど、過疎化が進んだ町に観光客を集めたいし、集めた観光客を良い形で利用したいと考えるのなら『映え写真』『インフルエンサーの活用』『地元に金が落ちる仕組み作り』が重要になってくるんだよね。


 推しとか聖地巡礼だとか言われるようになって何年も経つけど、地元にお金が落ちるように出来るかどうかが重要な鍵になるのは言うまでもない。


 波羽美町の『あぱっとねえ祭り』は灯籠ではなく船を海に流して死者を弔うことになるんだけど、船の値段は地元の住民と観光客で差別化を図っている。地元の人間は漁船に乗ってまで鎮魂の船を流そうとはしないけれど、外国人観光客には漁船を利用した船流しを勧めて地元にお金を落としてもらうってわけさ。


 海外からやって来た観光客的には、

「せっかくここまで苦労してやって来たんだし!少々のお金が掛かったって何の問題もないじゃない!」

 という心理が働くようになるし、

「船に乗るのに五千円?リーズナブル!リーズナブル!乗る!乗る!」

 彼らにとって日本の物価は驚くほど安いもんだから、財布の紐だってゆるゆる状態になっているんだよね。


 あと、日本人観光客だったらホテルに宿泊した翌日には早速、次の観光地へと移動するのがほとんどだと思うんだけど、外国人観光客だったら、

「せっかくここまで来たのだもの、翌日もゆっくり回って見てみたいわ!」

 という心理が働くことが多い。


 だからこそ港を中心にして写真の映えスポット、途中で寄るべき甘味屋、昭和レトロな喫茶店を案内出来るようにしておくし、老人会館を観光客も立ち寄れる休憩所にして地元で用意した土産物、食べ物、野菜、かき氷、飲み物なんかを購入出来るようにしておくってわけさ。


 あと、インバウンドで一番の問題になるのが『ゴミ問題』ということになるんだけど、町会の人たちで有志を募り、有給でゴミ拾いを実施して貰うことにする。海外では自治体で雇用された清掃人が路上のゴミを掃除してまわっていたりするわけだけど、その制度を取り入れるってわけだね。


 今の日本は物価高、物価高、何でもかんでも値段が上昇して年金だけでは生活が苦しいし、お小遣い稼ぎになるならやっても良いという高齢者はいるので、

「お給料は出ますから」

 ということにしてゴミの清掃を地元の人に任せることにするってわけさ。


 波羽美町は国外からやって来た観光客が落とすお金で潤うし、ゴミ問題も解消しているってことで、

「これほど風光明媚な場所でインバウンドがうまくハマっているのなら、うちのホテルを建設しても需要は十分に見込めるんじゃないだろうか?」

 ということで、某高級リゾートホテルが参入を検討しているんだってさ。

 

「波羽美町さんのことは前々から噂に聞いていて、可能であればうちの町も同じように発展させたいと考えてはいるんですけれども・・」


 槙野さんに連れられて町役場の会議室へと移動をしていくと、詞之久居町からやって来た中村さんと佐藤さんという地域振興課に勤める役場の人が待ち構えていたんだ。二人は額の汗を拭き拭き言い出したってわけ。


「とにかく地元の反発が大きくて困っているんですよ」

「それはもう強烈に、猛反発と言っても良いくらいで」


 過疎化が進んでいる町では『何とかしなくてはならない!』という思いと『余所者を入れて滅茶苦茶にされたくない』という意見がぶつかり合うのは当たり前のことなんだけど・・


「詞之久居町としては待ったなしの状態なのは言うまでもないことなんです。ここ数年は黒潮が蛇行していることが影響をして漁獲量があり得ないほど下がっているところに来て、黒潮の蛇行がおさまった今現在でも!海に魚が戻って来ないのですから!」


「波羽美町さんでは漁師さんに観光タクシーのような役割を担ってもらうことでお金が落ちるような仕組み作りをしているんですよね?うちも波羽美町と同じように近海にも島が複数浮かんでいるので、観光客を招いて漁船を観光タクシーのように利用出来るのではないかと考えてはいるのですが・・」


 中村さんと佐藤さんは顔と顔を見合わせると言い出した。

「「観光客を誘致なんかしたくない!インバウンド、インバウンドと言っているけれど、外国人観光客を招き入れて犯罪が起こったらどうするんだと言い出す人が多くって!」」 

「「ああー〜」」

 僕と槙野さんは思わず揃って声を上げちゃったよね。


 黒潮っていうのは太平洋を北東に流れる強い暖流のことなんだけど、2017年から7年9ヶ月という長い期間、紀伊半島沖から東海沖まで大きく南に蛇行し続けていたんだよね。そのおかげで、いつもは獲れていた魚が獲れなかったり、獲れるべき魚ではない魚が獲れるようになったり。最悪の場合は何も獲れない、船を出しても丸坊主状態で戻って来るということが続くことで港に大打撃を与えるようなことがあったわけ。


 実際問題、波羽美町でも漁獲量がガタッと減って困り果てていたんだけど、近海に浮かぶ島々を船に乗って眺めたいという外国人観光客を漁船に乗せることで懐を潤していたってわけさ。


 今現在は気象庁と海上保安庁が黒潮大蛇行は収束したと発表しているし、実際に波羽美町の近海にも魚が戻って来ているということもあって、

『近海で獲れたフレッシュな魚の盛り合わせ!ステキ!オイシイ!ここでしか食べられない!』

 と、外国人観光客にアピールして、スペシャルな映え写真が撮れる舟盛りを用意しているレストランが波羽美町には2・3件存在する。(もちろん外国人向けにお値段は高めに設定している)


「色々と待ったなしの状態になっているみたいですね」

 槙野さんはうんうんと頷くと、

「そういう時こそ、聖上大学を使うべきなんですよ!」

 と、意味不明なことを言い出したんだ。


まだまだ残暑が続く日々の中、今度は海に移動した霊能力者二人のドタバタ劇をお送りしたいと思います!!

もし宜しければ

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