第九話
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
『情けは人の為ならず』
うちの親の口癖になっている諺なんだけど、要するに人に情けをかけると巡り巡って自分に恩恵が返ってくるのだから、誰に対しても親切にしなさいよっていう意味なんだ。
僕は天野さんの背後に取り憑く生き霊の物凄さを目の当たりにして、
「・・!」
一瞬、絶句をしたわけなんだけれども、
「このまま放っておいたらこの娘、絶対に死んじゃうかもしれない」
と思って柄にもなく声をかけたってわけさ。
今、僕は思う。本当にあの時、僕は声をかけて良かったってさ!
「センパイのこと、マジで今すぐぶち殺したくて仕方がないんですけれども」
「え〜?さつきちゃん、なんで、ぶち殺したいと思うわけ〜?」
「こんな風にしがみつかれて何時間?経過している訳ですか?汗がすごくて汗疹が出来そうなくらいの密着具合が暑苦しいを通り越してキモイになっているんですよ!」
「そりゃ大変だね〜!」
自分の後輩にもなる天野さんのことを早速さつきちゃん呼ばわりしている槙野さんは、運転をしながら後部座席に座る僕らの方をルームミラー越しで見ているんだけれど、
「玉津君ってこんなキャラだったっけか?」
昨日お別れしたばっかりだっていうのに、もう、僕のことを忘れてしまったのだろうか?
「先輩は、暇があればゾンビマスクを製作しているし、少しでも怖いなって思うことがあればゾンビマスクを装着するような変態ですよ」
「それは知ってる、知ってる。うちの海水浴場に来た時も、初日は一日中、ゾンビマスクを装着していたからね」
「ビーチでもゾンビ?暑くないんですかね?」
「いや、流石に途中で脱マスクしていたけどね!」
「脱マスクでパリピか!きっと綺麗な女の人とビーチでビーチボール片手にエンジョイしていたのに違いないですよ!」
「ねえ、玉津君、さつきちゃんは君の彼女じゃないんだよねえ?」
「違いますよ!私は先輩の彼女じゃないです!学部の後輩です!」
駅で合流をした僕らは槙野さんの車に乗って出発することになり、木製の船は荷物と一緒に車のトランクに入れたんだけど、槙野さんの車は後部座席とトランクが中央の座席を倒せば繋がるような造りになっている為、隙間から怨霊の無数の指が後部座席の方へと這い出ようと踠いている。怖い。
その真っ黒の指に触れれば呪われるほどのものであるのは分かるし、絶対に触れてはならないことも分かっている。この怨霊は天野さんには悪さが出来ない為、無自覚な彼女の恩恵に預かるためにはより密着しなければならないような状況なのだ。
「それで、これから移動するのがお祭りも行われたビーチなんですよね?」
そこで天野さんはワクワクドキドキを抑えきれない様子で言い出したんだけど、
「え?役所に行く予定だけど?」
と、槙野さんは無情にも言い出したんだ。
「実は昨日から、うちの町おこしをモデルケースにしようと考えた詞之久居町の地域振興課の人が来ているんだけどさ」
「ちょっと待ってください」
僕はピンと来ちゃったよね。
「その詞之久居町というのは波羽美町と同じように港がある町なんじゃないんですか?」
「そうそう、うちの町から60キロほど離れたところにある港町なんだけど、ずーっと黒潮が蛇行していた経緯もあって、漁獲量が年々ダダ下がっているのが問題になっていてさあ」
「そこって島がありません?」
僕はピーンと来ちゃったよね。
「港から見えるくらいの距離に島があるんじゃないですか?」
即座に自分のスマホで詞之久居町の場所を検索したら、出て来た、出て来た。
太平洋に面した片上港の地形で、港と山地に囲まれた平野部の町が詞之久居町と呼ばれる場所だ。
「玉津君の言う通り詞之久居町には居島(おり島)という島がある。江戸時代に藩で指定した罪人流刑地だったらしくって、そういう歴史もあるからか町自体が非常に閉鎖的で他所者を嫌う傾向にあるみたいなんだ」
「槙野さん、やっぱりそこが」
「いや、俺もこれが『導き』だったと君が帰った後に気が付いてさあ」
「役所に行くのは最初だけですよね?」
そこで天野さんが言い出したんだ。
「波羽美町は神村ゼミが町おこしに関わるようになって、一気に外国人たちが喜んで訪れるパリピなビーチになったんですよね?私たちは役所に行った後に、パリピのビーチに行くんですよね?」
「「いや、おそらく、パリピなビーチじゃなくて、他所者は忌み嫌うという非常に閉鎖的で怨霊渦巻く港に行くことになると思うけど」」
僕と槙野さんはほぼ同時に同じことを言ったのだが、
「え?パリピは?」
パリピ、パリピって、天野さんの頭の中はどうなっているのだろうか?
「天野さん、外国人が喜んで集うビーチが全てパリピのビーチというわけじゃないと僕は思うんだけどなあ」
「だけど、有名なDJが来たってネットの案内で見ましたけど?」
「有名っていうか、東京の方で有名な?一部の界隈で有名な?みたいな人をお呼びする機会に恵まれたっていうだけの話でさあ」
「スイカ割りは?ビーチボールは?」
「ごめん、さつきちゃん。詞之久居町には港はあるんだけど、海水浴場はないんだよ」
槙野さんの言葉に衝撃を受けた天野さんは僕の腕を掴みながら言い出した。
「え?私の夏休みは何処に?何処に行っちゃうというのですか?」
「あー、たぶん、江戸時代に罪人の流刑地だった島がすぐにある、三方山に囲まれた閉鎖的な町に行くってことになるんじゃないかなあ」
その時、天野さんは僕の頭を引っ叩いた。
容赦無く引っ叩いたんだけど、
「先輩のバカ!なんで私が先輩と一緒に流刑地なんかに行かなくちゃいけないんですか!」
申し訳なくって僕自身、何も言えないような状態だよね!
まだまだ残暑が続く日々の中、今度は海に移動した霊能力者二人のドタバタ劇をお送りしたいと思います!!
もし宜しければ
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