第八話
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
私の安アパートに成人男性が一人寝転がった時の圧迫感たら、そりゃ凄い(邪魔な)ものなんです。先輩はベッドの下に寝転がって居たのですが、
「いやだ〜、行きたくない〜、戻りたくない〜、行きたくない〜」
夜中なのに玉津先輩がうるさくて!うるさくて!
「もう!うるさくて眠れないじゃないですか!さっさと寝ないと外に叩き出しますからね!」
思わず怒りの声を上げると、
「酷い・・」
先輩はメソメソ泣きになりながら言い出すんですよ。
「君が生き霊に取り憑かれている時に、命の危機にある君を僕は快く自分ちに泊めてあげたっていうのにさ」
「くうー〜!」
佐竹さんという生き霊に取り憑かれて急死に一生スペシャルを体験している最中、先輩にはとんでもないほど世話になっているのは間違いない事実。
「それでも静かにしてくれないと眠れないんですよ!このまま眠れなかったら、私、絶対に波羽美町までついて行かないですからね?」
「そんな〜」
そこでようやっと先輩は静かになったんだけど、本当の本当に、なんで私が電車で片道4時間近くかかる波羽美町なんていう場所まで行かなくちゃならないわけ?乗り換えの数なんて七回!七回!しかもローカル線を乗り継ぐ形になるから一本逃すと所要時間が1時間単位で増えていく計算。
「くうー〜!」
絶対に私だって!海で!遊んでやるんだからー〜!
こうして朝の四時半に飛び起き、始発の電車に乗って出発するためにアパートを出ようとしたところ、
「あら、雨がすっかり止んでいるわ!」
昨日の線状降水帯が嘘のよう!まだ日は出ていないけれど空は雲ひとつない状態なんだもの。私は旅行用のボストンバックを担ぎ、片手に木製の船を抱えていたんだけれども、
「ヒィイイイイッ」
またまた、私には見えない何かが見えている様子の先輩が怯えた声を上げると、せっかく履いた靴をうちの狭い玄関で脱ぎ、そのまま私の部屋へ退散しようとしている。
「先輩、そのままうちから出て来ないないのなら、この船、部屋に入れた上で玄関の鍵を施錠しますから」
「天野さん!僕を殺す気か!」
私には舟盛りに使うには底が深すぎる木製の船にしか見えないのだけれど、先輩は本気でこの船に対して恐怖を感じているらしい。
「いや、私、霊感がないんでそういうことが良く分からないし」
「霊感ないとか言うな!霊感ないとか!」
船と家の鍵を掲げたところでようやっと先輩はうちの狭い玄関から出て来たんだけれど、なんて手がかかる人なんだろうか!
流石に公共の交通機関に乗るとあってスケキヨマスクは外して来た先輩だったけれども、
「怖い・・怖いよ〜!」
大きな体で私の右腕にしがみつきながら器用に小型のスーツケースを引っ張って歩いているものだから、本当の本当に歩きづらい!
急な坂道をどんどん降って駅の方へと向かって行くと、丁度駅の手前の道路に見たことがあるような車が停車していたわけ。見たことあるなあと思っていたら、
「さつきちゃん!うちのバカがごめんね〜!」
先輩のお母さんが助手席から降りて来たんですよ!
先輩のお母さんは先輩によく似た美人さんなのですが、私が左手に抱え持つ木の船と、私の右腕にしがみつく息子の姿をまじまじと眺めて、
「あ、これうちじゃ無理な案件だわ」
と、言い出したのですよ。
「いやいやいや、無理な案件ってなんですか、無理な案件って」
「ねえ!お父さん!これはうちじゃ無理な案件よねえ!」
お母さんが車の運転席の方を振り返って言うと、運転席の窓から顔を覗かせた先輩のお父さんが、
「あっ!完全に無理だね!」
と、言い出したのですよ。
「え?何が無理なんですか?全然わかんないんですけど」
「「いや、無理なものは無理なんだよ」」
先輩のお父さんとお母さんは声を揃えて言うと、
「現地に行かなきゃ駄目な奴だし、うちの息子、完全に呼ばれちゃっている感じだから」
と、お母さんが言い出しす。
「えーっと、現地に呼ばれちゃったのは分かるんですけれども、だったら現地まで車で送ってくれるってことには〜」
「無理!無理!」
先輩のお母さんはカラカラと笑いながら言い出した。
「まだ死にたくないもの〜!」
もう、訳分かんないって!
「電車で行った方が安全に行ける類のものだから、これ、うちの交通安全お守り、肌身離さず持って行ってちょうだい!それとこれは二人の旅費よ!」
先輩のお母さんはお金が入った封筒と神社の交通安全のお守りを私の右手に握らせると、
「たくみ、あんた男でしょう?男らしくさつきちゃんの荷物くらいは持ってやんなさい!」
先輩の前髪を鷲掴みにしながらどすの利いた声で言い出したのです。
こうして先輩は私の旅行用のボストンバックを担ぎ、器用に片手で小型のスーツケースを引き始めたのですが、
「・・・」
私の右腕にしがみついたまま。何でも怨霊のような物は木製の船の中に入り込んでいるらしく、先輩が私から離れようとすると真っ黒の腐った手を伸ばして先輩に取り憑こうとしてくるらしいんです。
「いや、それって本当かよ!」
見えない私にはさっぱり良く分からない。
こうして私たちは七回乗り換えの旅に出かけることになったのですが・・
「きゃあ!あの人!格好良くない!」
「嘘!ほんとだ!」
「だけど何?一体何なの?」
「何なの?あの女?」
見知らぬ赤の他人からあの女呼ばわりですよ。
とにかく玉津先輩は顔だけは美しいんです、本当にどうかしているなって思う程、整っているんです。そこらの芸能プロダクションだったら行列になってスカウトに来るレベルでしょうし、普段はホラーマスクをかぶって生活をしているという変態ぶりを知らなければ、誰もが一日だけでもいいから付き合ってみたい!と思うような容姿の持ち主なんです!
そんなクソアホトンマな変態先輩が、取り憑かれるの怖さで私にしがみついているものだから、
「「「「何なの・・あの女・・(どうしてあんなイケメンを連れて歩いているのよ?)」」」」
先輩の素顔に気が付いたレディたちが、素朴な秋田県出身の私の素性を即座に怪しむという事象が無限ループのように続くことになった訳ですよ。
こうして最終目的地に到着した頃には、先輩のことをほぼほぼおんぶしているような状態ですよ。
「はえー〜って!」
私たちを出迎えてくれた大学のOBの人が呆れ返った様子で言い出すほど電車の繋ぎだけは良かったので、はやーく波羽美町まで到着することが出来ましたが、これ、繋ぎが悪かったら絶対に途中で先輩も木製の船も何処かの駅で捨てて来たと思います。
残暑が厳しい日々の中で、貴方の暇つぶしに!!今度は海に移動した霊能力者二人のドタバタ劇をお送りしたいと思います!!
もし宜しければ
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