第六話
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
ツーリストが何を望むってそりゃ、それぞれあるとは思うんだけど、共通して願うのはやっぱり、その時に撮った素晴らしい写真なんじゃないのかな?
用意された供物を載せた船たちは7月盆の最終日の夜に海に流されることになるんだけど、海に流す時には火を灯した蝋燭も一緒に流すんだ。
小さな船はもちろん波をかぶることもあるから、すぐに消えてしまう火でもあるんだけど、長々蝋燭の火が燃えていたりもするので、浜辺でこの船流しを眺めている人たちは映え写真を求めてシャッターを押しまくっているのに違いない。
『 Everyone! Are you ready?(皆さん!用意は出来ましたか?)』
「皆さ〜ん! これから映え写真を撮るために3分間だけ花火が打ち上がりまーす!3分間ですよ!皆さん!カメラの準備は出来ましたか〜?」
マイクを持つ僕の隣では、ゼミの中では一番の美人と言われる先輩が集まった日本人向けにマイクで声を掛けているんだけど、
『これから3分間、花火が上がるのでシャッターチャンスを逃さないで!!』
ジョアンが僕からマイクを奪い取って声をあげているし、
『三分だよ!三分!みんな!そろそろ打ち上がるぞ〜!』
ジョアンからマイクを奪ったカミルが皆んなのテンションを上げるように声をあげている。
この時の僕は・・実はあまりの暑さにマスクを外していたんだ。
信じられない、この僕がだよ、ゾンビマスクもなしに聴衆の前に立っていたんだ。
正気じゃない、いくらジョアンやカミルが居たって、普段の僕だったら絶対にしないことだよ。
ホラーマスク愛好家である僕の友人たちだけど、陰気でオタクというよりも陽気なオタクといった感じの人達だから、あっという間にゼミの先輩たちとも仲良しになっていたんだよね。
最初の方でこそ自分達の推しとするホラーマスクの品評会をしていたわけだけれど、場所が海水浴場で連日茹だるような暑さが続いていたとしたら、ホラーマスクどころではなくなってしまうのは仕方がないことかもしれないけれど。
『3・2・1!』
海上では漁船から供養のための小舟が海に流されている最中だったんだけど、陸上では早速カウントダウンが始まり、約七十発の花火が夜空に打ち上がることになったんだ。
教授曰く、
「写真が撮れればそれで良いんですよ」
ということでたったの三分で60万円。これも波羽美町から車で2時間ほどの距離にある花火会社に依頼したもの。この花火会社も、中国から仕入れられる格安花火に追いやられる形で経営が青息吐息状態だったところ、教授に声を掛けられるようになったことで、息を吹き返して来たという話で、
『『 Fantastic! 』』
僕の友人二人が喜んでいるから良いんだけれども・・
そうじゃない、そうじゃない。
僕はその後、スイカ割りを楽しみ、ゼミの先輩たちと手持ち花火を楽しみ、翌朝にはビーチボールを楽しみ、浮き輪を使ってぷかぷか浮かぶという決して正気ではない心霊ハイ状態になっていたんだよ。
だってだよ?
『『『All together now! (いっせいのせ!)』』』
カミルとジョアンと一緒に岩場から海へダイブしているんだよ?
ありえないよ、普段の僕だったら絶対にしないよ!
そこで海に飛び込んだ時に、ようやっと正気に戻ったよね。
ジョアンは口癖のように
「Acabou a Festa (祭りは終わった)」
と言うんだけどさ、この瞬間、僕の祭りは完全に終わりを遂げることになったんだ。
海に飛び込んだ瞬間にさ、僕の足を誰かの手が掴み、僕の手を誰かの手が掴み、僕の腰に誰かがしがみつき、
「うぅぅうううううううううぉおおおおぉおおおおおお」
すんごい怨念が僕に囁き掛けて来たんだよね。
ああ、分かってる、分かってる。
元々僕は陰キャのオタクで、パリピみたいにアルコールも飲まなければ、スイカ割りなんかするわけがないんだよ。
騙された、騙された、完全に、完全に騙された。
やばい、やばい、やばい、絶対にやばい。
僕は無理やりカミルとジョアンの腕にしがみつきながら何とか陸地まで到着したんだけど、浜辺に打ち上がった時には半死半生状態だよ。
『タク?どうしたんだよ?』
『あんな程度でビビったのか?』
ビビるとか、ビビらないとか、ビビるとか、ビビらないとかじゃなく、
『僕・・とにかく今、物凄く呪われたかもしれん』
僕の言葉をキョトンとした顔で聞いた二人は、
『That’s a great joke! (すっごい上手なジョークだったね!)』
なんでちょっと褒められるような形で言われなあかんねん。
『待ってくれよ!本当だって!本当に呪われたんだって!』
日焼けするとすぐに赤くなる僕は上にラッシュガードを着ていたんだけど、それをめくりあげながら二人に見せたよね。
『見てくれよ!絶対!無数の手の平が付いているだろ!なあ!見てくれよ!』
『Nossa Senhora (ああ、マリア様)』
『Niemożliwe! (信じられない!)』
ラッシュガードをめくりあげた僕の肌には、それはそれは恐ろしい数の手の平がアザのように残っていたんだ。僕がラッシュガードなんか捲りあげているものだから、目ざといゼミの女の子たちが、
「玉津くーん!」
「どうしたの?」
「さっきダイブしていたのを見たけど怪我でもしたのお?」
と、声を掛けて来たんだけど、僕のラッシュガードの下の恐ろしい状態を見るなり皆、真っ青な顔をして黙り込んだよね。
こんな状態だから、周りの人たちもなんだ、なんだと言いながら僕の方に視線を向けだしたんだけれども・・
「玉津君!君!それは昨日、夜中に罰ゲームでついた跡でしょう!」
と、うちの大学のOBである槙野さんが言い出したんだよね。
うちの教授は失われてゆく歴史とか文化とか祭事とか、そういったものを継続的に後世へと繋げていく為には情報発信力と金が必要だって常々言うんだけれども、槙野さんは波羽美町のあぱっとねえ祭りの企画に初期から関わり、祭りに魅了され、結局、教授の伝手とコネで波羽美町の役場に就職をして、結婚して、すでに一児の父でもあるんだ。完全に教授の都合の良いように転がされた人だなって思うんだけど、
「馬鹿なことを言ってないで!早くこっちを片付けるのを手伝って!」
と、大声で言って手招きしているんだ。
ちなみに槙野さんも僕と同様、見える系の人なので、声が馬鹿みたいに明るい割には顔は真っ青だし、手招きする手だってガタガタ震えているんだけど、
「なーんだ!玉津のジョークだってさ!」
ゼミの先輩が言って、その言葉を訳してもらったカミルとジョアンも納得した様子だったんだけれども・・
僕の後ろには体の半分以上が腐り切った女性の無数の体が、海から続く形で影のように伸び切っているんだ。
本日も18時と19時に更新します!!せっかくの三連休なのに外にも出れず、家に居るしかないってこともありますよね〜。そんな貴方の暇つぶしに!!今度は海に移動した霊能力者二人のドタバタ劇をお送りしたいと思います!!
もし宜しければ
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