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屍の声  作者: もちづき裕
船の謳
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第一話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「先輩、この船は一体何なんですか?」

「ヒイッ」

「先輩、この船は何なのですか?」

「ヒイイイッ」


 ずぶ濡れのままスーツケース持参で現れた玉津先輩は私が持つ小さな木製の船から遠ざかるように体をのけ反らせると、

「はっ・・はっ・・ハックション!」

 盛大にくしゃみをぶちかまして、

「寒い!寒い!寒い!お願いだから風呂に入れさせてくれよ〜!」

 と、顔を真っ青にしながら言い出した。


「分かりましたよ」

 玉津先輩は私の命の恩人でもあるので、

「とにかくシャワーを浴びて、着替えをして来てください」

 ずぶ濡れの先輩を我が家の狭い浴室に押し込んで、狭い玄関に突っ込まれた小型のスーツケースのタイヤを拭いて、我が家の狭い脱衣所に突っ込んでおきました。


 旅館の船盛りに使えそうな大きさの木製の船は玄関の端に安置して、凍えた先輩の為に温かいお茶を用意していると、

「ギャアッ!」

 玄関入ってすぐ左に狭い浴室という我が家の構造から、脱衣所から出て来た先輩が床に置かれた船を見て叫び声を上げている。


「ああ〜、嫌だ、嫌だ〜」

 我が家は手狭なワンルームなので、脱衣所から出て左を向けばそこがベッドも置かれた私の部屋ということになるんだけれど、

「本当に嫌だ〜、誰か助けてくれ〜」

 先輩はベッドの横に置かれた小さなちゃぶ台の前に陣取ると、ゾンビマスクをかぶりながら大きなため息を吐き出して、

「なんでこんなことになってしまったんだ〜」

 シクシクと泣き出したのですよ。


「泣くならゾンビマスクを外した上で泣いた方がいいんじゃないんですかね?」

「泣いてなんかいないよ!」

「いや、泣いているじゃないですか!」


 私は霊感とかあんまりないので(たぶん)木で出来た船に因縁やら怨念やらが取り憑いているのかどうかも分からないんだけど、

「ヒィイイイッ」

 船を近付けるだけで怯えるこの有様を見ると・・やっぱり何かしらの問題があるってことになるのでしょう。狭い玄関の端の方に木製の船を安置した私は温かいお茶を運んでいると、

「そもそも何の憂いもなくゼミの合宿に行こうと考えた時点で嵌りこんでいたんだ」

 と、先輩が言い出した。


「先輩が行ったその合宿って自由参加だったんですか?」

「自由参加なんだけど、単位が付くから誰もが参加したくなるものなんだよ」

「単位の為に行ったんですよね?山の中の廃村とか、廃病院とか、廃結婚式場とか、頭の部分に廃が付くような場所にフィールドワークに行って、祟りにあって戻って来たということなんですよね?」

「まさにそれなんだよ」


 ゾンビマスクをかぶった先輩は怯えながら言い出した。

「この僕が海の家で焼きそばを作り、ゼミの先輩方々とビーチボールを使って遊び、カクテル片手に浮き輪を使って海でプカプカして遊んでいたこと自体が祟りの前触れだったんだよ」

 この人は何を言っているのだろうか?


「この僕がゼミの先輩が差し出すハイボールを何の疑いもなく飲み、ポテトチップスを食べ、パラソルの下でかき氷を食べていること自体が異変の始まりだったんだよ」

 この人は何を言っているのだろうか?


「えーっと、つまりは、先輩が参加した神村教授のゼミ合宿は、パリピ達が楽しく騒ぎまくるような小洒落たビーチで行われたってことですよね?」

「なんで分かったの?」

「いや、普通、海の家で出されるのってビールですよ!ビール!」

「えええ?」

「真っ黒に日に焼けた子供とその親が集うような板の間にゴザが敷かれたような海の家で出されるアルコール飲料は、缶ビール一択なんですよ!だというのにカクテル?ハイボール?きっと缶とかじゃない奴でしょう?挙げ句の果てにはパラソルとか言い出していますよねえ?」


 親子連れが多いビーチを埋め尽くすのはタープやワンタッチテント、ポップアップテントと呼ばれるものだもの!パラソルやビーチベッドなんかを用意しているのはパリピが集うような小洒落たビーチに決まっているじゃない!

「生き霊の祟りに遭った私が、ようやっと災いを吹っ切ることが出来たものの、あまり無理をするのは良くないとか、今はまだ心も落ち着かないから家で静かにしておいた方が良いとか言われることになって、仕方なしに家の掃除を毎日、毎日続けている中で、先輩はパリピのビーチで連日のようにハシャイデ楽しく過ごしていたというわけですよね?ねえ?」


「やめてくれよ!そもそも僕が!パリピ達と楽しくはしゃいで踊るような人間に見えるっていうのかよ!」

「はしゃいで踊っていたんですか?マジですか?すげえムカつく!私だってせっかく大学生になったんだから生き霊なんかに怯えず驚かず、はしゃいで踊りまくりたいですよ!」

「待ってくれ!はしゃいで踊りまくるとか怖いこと言わないでくれ!」

 ゾンビマスクを被った先輩は部屋の中のあらぬ方向を凍りついたように見つめると、

「ギャーッ!」


 先輩は隣近所も迷惑に感じるほどの叫び声をあげ、あっという間に私を抱っこすると頭(髪の中)に自分の顔を(ゾンビマスク)を突っ込み、まるで猫吸いするように大きく深呼吸を始めているのだけれども、

「何?今のこの状況?」

 何処からツッコミを入れるべきなのか、何処から怒るべきなのか分からない状況だよね!


本日、18時 19時にも更新します!!せっかくの三連休なのに外にも出れず、家に居るしかないってこともありますよね〜。そんな貴方の暇つぶしに!!今度は海に移動した霊能力者二人のドタバタ劇をお送りしたいと思います!!

もし宜しければ

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