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屍の声  作者: もちづき裕
水の嘔
71/116

第十八話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 その日は玉津先輩のお父さんもお母さんも遅くまでお仕事に出掛けていた関係で翌日に顔を合わせることになったんだけど、

「「あああ!取れてる!取れてる!」」

 お二人はレーザー治療をして大きかったシミがすっかり取れているわ!みたいな調子で言いました。


「取れてる!取れてる!」

「すごい!すごい!」

「え〜?本当ですかあ?だったら嬉しいんですけど〜!」

「それじゃあ生き霊もすっかり取れているし、天野さんは家に帰っても大丈夫だよね?」

 先輩が自分の両親に駄目押しするように言うと、

「大丈夫!大丈夫!」

「もう、お家に帰っても大丈夫よ!」

 と、お二人は太鼓判を押してくれました。


 海外メディアの報道で一時期は佐竹さんについての報道は加熱したものの、その後、有名タレント夫婦が離婚したり、有名俳優の息子が覚醒剤所有で捕まったりしたのであっという間に報道の熱も鎮火。


 一時期は私のアパートの周囲にマスコミの人間が張り込んでいたこともあったみたいなんですけど、今は誰も居ないような状況です。


「はあー〜、久しぶりの我が家だわー〜」

 佐竹さんに襲われて以降、一度も帰って来ることが出来なかった自宅へと無事に帰って来たわけですけれど・・

「はあー〜」

 ゆっくり出来るわけがありません。


 室内に干しっぱなしの洗濯、冷蔵庫の中で腐った納豆。それ以外にも廃棄確定の食料品の処分をしなければならないし、一度、生き霊の汚染を食らった室内は徹底的に掃除をしなければなりません!


 玉津先輩のご両親は、

「昨今は電気代も高いし!夏の間だけでも節約のために離れの家に残ったら?」

「そうだよ!そうだよ!食事代だって浮くことになるわけだし!」

 と、声をかけてくださったんだけど、

「そろそろ家に帰って掃除もしなくちゃならないですし〜」

 と言って、自宅へと帰って来ることにしたのよね。


 本当はもう少し居ても良かったんだけど、先輩が大学のゼミでフィールドワークに行くことが決まっているので、本人不在の間もあのゾンビの屋敷に滞在するのはどうなのかなあ・・と思って帰ることにしたわけです。


 玉津先輩は潔癖なところが少々あるけれど、節度を守って生活をすれば衝突することも少ないし、ルームシェアをするにはちょうど良い無害な変態だったけど、

「スケキヨマスクが怖いからなあ・・」

 先輩がかぶっているスケキヨマスクって、通販で購入したものではない完全なる自作のマスクだったのよ!しかもこのスケキヨマスク、裏の部分に謎の呪文(神社のお札に書いてあるような不気味な文字)が無数に書いてあって、本当の本当に、ゾンビマスクよりも不気味なの。


 滞在中は真面目にゾンビマスク作成のアシスタントをしていたので(ピンセットで髪の毛を埋める作業など)ゾンビには愛着すら湧いて来ているような状態だったんだけど、スケキヨはちょっと・・気味悪すぎるかなあ・・


 そんなこんなで、

「さつき!お願いだから無理はしないで!」

 と、親からも言われた私は三日ほど家の掃除に没頭したわけなんだけど、

 ピンポーン

 先輩の家から帰って来て四日目のこと。突如、家のインターフォンが鳴るという事件が起こったのよ。


 私の家はボロアパートなのでカメラ付きのインターフォンじゃないし、ただ、ただ、押したらピンポーンとだけ鳴る仕様になっているんだけど、誰やねん!こちとら学生の身分でN◯Kだってまともに支払いを済ませているんだぞ!


 ピンポーン

 無視し続けても何度も鳴るのは何故?マジで怖いんだけど!


 慌てた私はスタンガン片手に、

「誰ですかあ?」

 と、玄関の扉越しに声をかけたんだけど、

「僕だよ、僕」

 と、扉の向こう側から声が聞こえてくる。僕って誰?新手のオレオレ詐欺ならぬ、ボクボク詐欺とか?

「誰ですか?不審者だったら警察に通報しますけど!」

「僕だよ!僕!学部の一年先輩である!玉津たくみだよ!」

「玉津先輩?」


 命の恩人である先輩なら話は別だよ!

 私は慌てて玄関の扉を開けたんだけど、外に立っていた先輩は驚くべきことに、頭の先からつま先までずぶ濡れ状態で、

「天野さん!僕!呪われたかもしれん!」

 と、マスクすらつけない先輩は必死の様子で言い出した。

「・・・え?」

 全身ずぶ濡れ状態の先輩の足元にはずぶ濡れ状態の小型のスーツケースも置いてあるんだけど、

「このまま家に帰ったらまずいレベル!申し訳ないけど今日、君んちに泊まらせてくれないかな?」

 と、言い出したのよ。


 みなさま、お分かり頂けただろうか?

 今、先輩の口からは思ってもみないパワーワードが山ほど出て来ていたということを。


「先輩、うち、ワンルームなんですよ」

「知ってる!知ってる!」

「先輩の家のように幾つも部屋があるわけじゃないんですよ」

「知ってる!知ってる!」


 先輩の言いたいことは分かりますよ。

 カケラも分かりたくないけど、分かりますよ。

「まあ・・私も今まで山ほど先輩に迷惑をかけて来たわけですし・・」

 ずぶ濡れ状態の先輩を改めて見て思いましたとも。

「だけど私、まだ彼氏も出来たことがないのに、異性の先輩を宿泊させるなんて・・親にだって顔向け出来なくなっちゃう!」

「親にだって顔向け出来なくなっちゃうじゃねえよ!」

 先輩は激怒しながら言いました。

「とにかく!お前んちに入れろー!」

 無理やり先輩は我が家に上がり込んで玄関の扉をバタンと閉めると、扉の覗き窓から外を眺めて真っ青な顔でこちらを振り返る。


 お前も覗き窓を見てみろ!みたいな素振りをするから覗き窓を見ても誰も外には居ませんって。だけど・・だけどだけども・・先輩には私が見えない何かが見えているってことなのかな?


「先輩、私は霊感ないんで何も見えないんですけど」

 先輩は鼻で笑っているんだけど、頭にくるなあ。

「この船ってなんですか?」

 まるで地方のお土産屋さんで売っているような木で出来た船を先輩に見せると、

「ぎゃああああああ!」

 先輩はその場で悲鳴を上げたのだった。



                    〈  水の謳  了  〉   


さつきベースのお話はここで終わりとなりますが、次はたくみベースの『船の謳』が始まります。フィールドワークに出掛けたたくみに一体何があったのか?漁師さんたちを巻き込んだ騒動は止まらない!! ちょーっとお待ち頂ければ幸いです!!

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