第十話
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
「・・・」
部室の扉を開けた先輩はゾンビのマスクをかぶっていた。
今日のゾンビは皮膚が青色に変色していて、頬の大部分は爛れ、大きな穴からは歯茎まで露出しているようなこだわった一品で、
「・・・」
ゾンビは不機嫌そうに私と由美ちゃんを見下ろしていたんだけど、
「先輩!ごめんなさい!」
私は潔く頭を下げましたとも。
「先輩のスタンガン!借りっぱなしでごめんなさい!」
ソンビは私と由美ちゃんを交互に見ると、呆れたように肩をすくめながら、
「君、良くもまあソレの腕を掴んでいられるよね?」
と、由美ちゃんの方を見て言いました。
「執着されて呪われ続けて、偉いことになっちゃっているというのに、良くもまあ!」
呆れた様子で先輩が大きなため息を吐きだすと、
「え?呪われ?え?」
と、言いながら由美ちゃんは私の腕をパッと離していますもの。
「由美ちゃん酷いって!それに先輩も!いくらスタンガンを今まで借りパクしたからって、嫌がらせ発言にしても程がありますって!」
「うわっ!まさかの無自覚!」
先輩は嫌そうに後ろに仰け反っているんだけど、それに追随するように由美ちゃんは変なことを言い出した。
「先輩!私はさつきから直接聞いています!彼女は浴びるように霊障を受けています!」
「待って!待って!自分の家の中で、私以外誰も居ないのに足音がするって言っているだけじゃん!」
「それが霊現象なのよ!」
「高まっている!高まっているのにも程があるって!」
二人はバイキンから逃れるように離れるんだけど、バイキン扱いは酷くない?
「天野さん、君、その足、少しでいいからめくって見せてよ」
「はあ?」
私はワイドパンツにTシャツ姿だったんだけど、そんな私の足元を指差しながら先輩は言い出した。
「足?私の足がなんだって言うんですか?」
私がワイドパンツの裾をグイと引き上げると、由美ちゃんが息を呑み込んだ。
何?何?何?一体なんなのよ?
慌てて私も自分の足首を見たんだけど、驚くべきことに、私の右足の足首にはベッタリと人に掴まれたような跡が残されていたのよ。
「「キャーッ!」」
私と由美ちゃんは驚きのあまり互いに抱きついたんだけど、
「キャーッ!」
と言って由美ちゃんは私から飛び退いた。酷くない?由美ちゃんそれは酷くない?
「この前も死にそうだったけど、なんで今日も死にそうなんだよー?」
先輩は窓の外を眺めながら、
「今日は雨も降っていないのにー!」
と、意味不明なことを言い出した。
「あの、その、あの!」
由美ちゃんはそこで小さく手を上げると、
「すみません、私はこの後用事があるので!さつきのことは先輩にお任せしても宜しいでしょうか?」
と、非常に薄情なことを言い出した。
「ああ・・ああ・・ああ!分かったよ!」
先輩はゾンビのほとんどハゲた頭を掻きむしりながら、
「これ以上一緒に居ても巻き込まれるだけだから!貴女はもう帰った方が良いと思う!」
と、由美ちゃんに向かって言い出したの。
「巻き込まれるってどういうことですか?」
私の言葉に、ゾンビ姿の先輩は心底嫌そうにしながらも、
「とりあえずスタンガンについてはLEDライト付きの新しいものを購入したから、君は気にしなくてもいいよ!」
と、神様みたいなことを言い出した。
玉津先輩の部室に来るのは実に十日ぶりということになるんだけど、
「君が僕のスマートフォンを使ってアルバイト先の事務所に連絡して以降」
玉津先輩は不機嫌そのものの様子で、
「毎日のように無言電話がかかってくるようになったんだよ」
と、言い出した。
「えええ!無言電話!」
「しかも毎回ご丁寧に公衆電話を使ってかけてくる」
「公衆電話?」
「霊障による電話も加わるから非常に厄介だ」
「霊障による電話って!二人で居る時にかかってきた、呻くような声が入ったあの恐ろしい電話がかかって来るってことですか?」
玉津先輩は作業用に使っている自分の椅子にドカリと座ると、ゾンビの頭を抱えながら、
「僕は心霊現象が大嫌いなんだ」
と、見ているだけでもお腹いっぱいなのに、シュールそのものの言葉を吐き出した。
「僕は怖いのも気持ち悪いのも大嫌いだし、とにかく放っておいて欲しいんだ。なんなら君たちと僕は同じようなものなんだから、僕のことなんか気にしないで!お願い!という気持ちも込めて!常日頃からこんなマスクをかぶって生活をしているんだ!」
ちょっと・・訳が分からないわ。
深刻ぶって良く分からないことを言っているんだけど・・
「先輩、これだけは質問しておきたいんですけど、私に今起こっている現象は『ヒト怖』なの?それとも『心霊現象』なの?どっちなんですか?」
「言うまでもなく両方でしょ」
「両方かあ〜・・・」
ガックリと落ち込んできたわ。本当に、心底落ち込んできたわ。
「そもそも君は、そういった現象を受け付けないタイプの人間なんだよ」
先輩はゾンビ姿のまま真面目な声で言いました。
「そんな君がそこまでダメージを受けているということは、相手がそれだけタチが悪いっていうことでもあるわけで」
先輩はゾンビの頭を再び抱え込むと、
「本当に嫌だー〜!」
と、苦悶の声を上げている。
さつきとたくみの出会いはこんな調子ですが、心霊なのか?ヒト怖なのか?懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!毎日十二時に更新しています!!
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