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屍の声  作者: もちづき裕
水の嘔
62/103

第九話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 結局、私は交通誘導のアルバイトを辞めました。

 交通誘導の他にも賄い目的で蕎麦屋のアルバイトも入れていたのですが、こちらのアルバイトだけは続けています。


 ただね、厳しい。生活が厳しいのよ。

 親は大学の費用とアパートの家賃を出すだけで精一杯なので、私が自分の生活費を賄うのは、まあ、仕方がないとは思うんだけど、

「交通誘導のアルバイトが消えたのは痛かったな〜」

 驚くほどにガッポガッポと入っていたお給料がストーンと無くなったお陰で、懐事情が寂しくなってしまったのは言うまでもありません。


 だけど・・だけどね?

 私は親の扶養の範囲内で仕事をしなければならない関係から、年間の所得が103万円を超えると困っちゃう。うっかり103万円を超えてしまったならば特定扶養控除が使えなくなってしまうのよ。もしも特定扶養控除が使えなくなってしまえば、私の親は所得税と住民税を合わせて年に十万九千円ほど負担をしなければならなくなってしまうのよ。


「大学の奨学金はただの借金だ、将来的に借金を背負うだけだから貰わない方が良いって言うじゃない。それじゃあ奨学金を使わないように親に負担して貰って生活費だけは自分で稼ぎますとなった途端に103万円の壁?特定扶養控除がなくなる?挙げ句の果てには壁をなくして強制的に税金を支払わせる形も検討するから心配しなくて良いですよって?いやいや結局お金をお国に支払う形になるんじゃない!地方から出て来る学生の気持ち!なーーんにも分かってない!どんな罰ゲームなのよーーー!」


 結局、交通誘導で稼ぐだけ稼いでもいずれは頭打ちとなるため、

「今から辞めても結果オーライか?」 

 と、思い込むことにしたってわけ。


「さつき!今週末はようやっと天気になるっていうし、うちのサークルでバーベキューするんだけど、さつきも来る?」

「由美ちゃん、今は無理、私は今、生きることで精一杯なの」

「さつき!どうしたの!目の下が真っ黒じゃない!」


 交通誘導のアルバイトを辞めることになったのはまあ、良かったんだけど、

「由美ちゃん、私、最近悪夢を見続けて夜も眠れないの」

 今の私、本当の本当に、生きるのに精一杯の状態になっているの。

「悪夢を見るって?どんな悪夢を見るって言うのよ?」

「いやあ・・それがあ・・」


 交通誘導のアルバイトを辞めたことでスッキリさっぱりしたはずなのに、夜になると必ず佐竹さんが夢に出て来るようになったのよ。


「由美ちゃん、私、夢の中でも自分のベッドで寝ているんだけどね、そうしたらお布団の上からおじさんがガバッと覆い被さるようにしてやって来てね、それで私の首元、ここ、首元に顔を埋めながらこう言うのよ『さつきちゃん〜、これで僕たち、ようやっと一緒になれるね〜』って」


 由美ちゃんはマジマジと私の顔を見ると言い出した。

「その調子じゃ他にも見ていそうよね?この由美ちゃんに言ってみなさい?」

「いや、それが、これは夢とかではない『なにそれ?』って感じの話なんだけど」

 聖上大学に入学して以降、晴れて一人暮らしが始まることになったのですが、案外壁が薄かったりするので隣の話声が聞こえて来たり、上の住民の足音なんかは聞こえて来るんですけども・・


「私が住んでいるアパートってボロアパートだから近隣住民の音が良く聞こえて来たりするんだけど、こう、私がトイレに入っていたりするとね?扉の外からギシ、ギシ、と、部屋の中を歩き回るような音が聞こえてくるんだよね?」

 優しい由美ちゃんは黙って私の話を聞いている。

「トイレに座ってその足音を聞いている私は、どうしても2階の住人の足音ではないなって思うわけ。だってお2階さんの足音だったら上から聞こえて来るはずでしょう?」

優しい由美ちゃんは黙って私の話を聞いている。


「トイレに入っている私としては、完全に目の前の部屋を歩いているでしょレベルで足音が聞こえるんだけど、トイレから出ると足音が止むのよ。もちろんベッドの下やクローゼットを探しても誰も隠れていやしないし、上からも何の物音もしないの」

優しい由美ちゃんは黙って私の話を聞いている。

「そのうちベッドの上でスマフォを見ている最中に、ギシ、ギシ、ギシ、と人が歩く音が聞こえてきてね」

優しい由美ちゃんは黙って私の話を聞いている。


「挙げ句の果てにはこの前、自然にキッチンの水道が流れ始めたのよ。うちの小さなキッチンてあれよ?洗面所兼炊事場みたいなもので蛇口がセンサーで動くわけがないの。昔からあるハンドル式の単水栓と呼ばれるタイプのものよ?」

 黙って話を聞いていた由美ちゃんは、

「もうそれ、お祓いレベルだと思う」

 と、言い出した。


「元々玉津先輩に相談していたんでしょう?もう一度、相談しに行きなさいよ?あの人、ああ見えてその道のプロだってサークルの先輩も言っていたもの!」

「いやー・・玉津先輩は・・ちょっと」

「何?何?どうしたの?何かあったの?」

 玉津先輩は、見かけがどうかしている割には人見知りが激しいので、

「玉津先輩と何かあったの?教えて!教えて!」

 皆が皆、その生態に興味を持ちまくっているところがあるのよね。


「いや、その、あの」

「なに?なに?なに?なにがあったっていうの?」

「いや、その、スタンガンを・・」

「スタンガンを?」

「スタンガンを先輩から借りパクしたままで、まだ返していなくって!」


 そうなのよ。私はまだ、先輩から借りたゴツくて重くて本格的すぎるスタンガンを返していないのよ。最近ネットで充電器まで購入しちゃったんだもの。絶対に、絶対に、返すつもりがなくなっちゃっているのよ。


「さつき、それはもう窃盗のレベルになっちゃっているわよ」

 由美ちゃんは呆れ果てた様子で私を見ると言いました。

「切羽詰まった状況なのはさつきの顔を見るだけで十分に理解できるし、事情を話して専門家に助けて貰った方が良いわよ!」

「でも返したくない!今はあのスタンガンだけが心の支えなんだもの!」

「それじゃあ新しいものを買って先輩に返したら?」

「今はお金がないんだよ〜」


 高校生の時にはちっとも分かっていなかったけれど、世の中はお金によって回っていたのよね!お金がなければ何も出来ないし!お金がなければ心だって荒んでいくのよ!

「さつき!いい加減にして!」

 怒った由美ちゃんは私をむんずと捕まえると、

「私が強制的に玉津先輩の部室まで連れて行ってあげるわよ!」

 と、言い出したのよ。



さつきとたくみの出会いはこんな調子ですが、心霊なのか?ヒト怖なのか?懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!毎日十二時に更新しています!!

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