第八話
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
「天野さつきさん」
「・・・」
「人文学部民族学科一年の天野さつきさん」
「・・・」
後ろを振り返ると、ドラキュラマスクをかぶった男が右手をこちらの方に差し出して、
「僕のスタンガン、返してくれないかな?」
と、不機嫌そうに言い出した。
その日も雨は降っていて、人通りが少ない第三校舎の廊下は薄暗い闇の中に沈み込んでいるようにも見えていた。
「先輩・・」
ドラキュラ先輩を見上げた私の頬を、ポロポロと涙がこぼれ落ちたので、
「なっ・・えっ・・いやっ・・」
先輩は挙動不審になりながらも、
「泣いたってスタンガンはあげられないよ?欲しいんだったら自分の物を買うべきだと思うし、僕と同じスタンガンが欲しけりゃ購入したお店を紹介してあげられるし!」
と、検討はずれなことを言い出した。
「そうじゃない・・そうじゃなくて・・」
一度、涙がこぼれ落ちるとなかなか止めることが出来なくて、先輩の前でメソメソ泣き続けていると、慌てた先輩は私の手を引いて無数のゾンビマスクがぶら下がる部室へと移動をした。
「君が泣いているのは僕の所為ではない」
先輩は必死になって、
「僕の所為であるはずがない!」
と、言い出したんだけど、
「先輩の所為ですよ〜!」
私はわんわん泣きながら言い出した。
ドラキュラ先輩は黙って最後まで私の話を聞いてくれたんだけど、最終的にはチッと舌打ちをして言い出した。
「だから日本は性犯罪に寛容な国なんだって僕は言ったんだよ」
ドラキュラマスクを被った先輩は椅子に座り、長い足を組み、胸の前で腕を組みながら不機嫌そうに肩を怒らせる。
「ロッカーの中の異変を申し出た時から、周りの人間の君に対する目が変わり、何があっても君が過敏に考え過ぎている。君が過剰に考え過ぎていると言われるようになり、まるで腫れ物に触るような扱いをされているうちに、君が加害者、生き霊のおじさんが被害者という構図が出来上がっているというわけか。ちなみに、ロッカーの鍵を開けて衣服に手をつけているのは生き霊のおじさんに違いない」
「やっぱりそうですよね!そうですよね!」
絶対にそうだと思うのに、周りは全然信用してくれないんだもの!
「今は衣服を持ち歩いているから問題ないんですけど、そうなってくると更衣室に監視カメラを仕込まれているんじゃないかという不安感も大きくなって来ちゃって」
「仕込まれていそうだよなあ」
「だけど、またそんなことを言ったら被害妄想だって言われるじゃないですか!」
「そんなバイト、さっさと辞めればいいじゃないか」
「だけどお金が良いんですよ〜!」
空いた時間に入れる隙間バイトとしてこれほど良いバイトもないものだと私が言うと、
「命とバイト、どっちが君にとって大事なの?」
と、先輩は言い出した。
「ちなみに、君の今の状態を見る限り、たとえバイトを辞めたとしてもおじさんは憑いて回ると思うけど」
「怖いことを言うのはやめてください!」
「その後も何かっていうと食事に誘ってくるんだろう?それで断ると『あっ!ごめん!ごめん!』と言って悲劇のヒロインぶるんだろう?そのおじさん、相当たちが悪いし、生き霊云々を別にしたとしても相当ヤバくないか?」
相当ヤバいと思います。
「ロッカーの中の衣服が動かされていたってことは、私の服に顔を埋めてクンカクンカしていたのかもしれないし!」
「写真だって撮っている可能性あるだろ?それに他の用途にも・・相手は変態なんだぞ?」
「やっぱり怖い!怖い!怖い!」
「だからそのバイトはやめた方が良いって言っているじゃないか!」
先輩は私の前に自分のスマートフォンを差し出しながら言いました。
「今すぐに電話をしてアルバイトは辞めるって言いなさい」
「分かりました!」
私は先輩のスマートフォンを奪い取ると、自分のスマフォから事務所の番号をスクロールし、先輩のスマフォを使って事務所へと電話をかけました。
「おい!なんで自分のスマフォを使わないんだよ!」
「だって!先輩が使って良いって言うから!」
「そういう意味で言ったんじゃないんだよ・・ただ、後押しになったらと思っただけで」
そこでアルバイト先の事務所に電話が繋がったんだけど、私は気分が悪くなり過ぎて声も出ないような状況になってしまったんだよね。
そこで見かねた先輩が架空の兄になりきって言い出したのよ。
「すみません、天野さつきの親族の者なのですが、最近色々とあって体調を崩すことも多くなってしまったので、そちらでしていたアルバイトなのですが、ご迷惑をおかけする形にはなりますが一旦、やめる形にしたいのですが」
先輩ったらアドリブ力が凄いわ!やっぱり一年先輩なだけあるって感じ!
ただし、ドラキュラマスク姿で話しているから声がこもっているし、その姿自体がシュールすぎるよ!先輩!
事務員さんとのやりとりは続いたんだけど、最終的には私も電話を代わって、
「本当に申し訳ないです、学校にも行けない状態になってしまったのでアルバイトを続けるのが難しい状況で」
と、嘘を交えて言ったところ、
「最近、顔色も良くなかったし、ゆっくり休んで体調を取り戻してください」
と、事務員さんは言ってくれたのだけれど。
「なんで僕が架空の兄になって電話をしなくちゃいけないんだよ」
先輩はブーブー文句を言っていたんだけど、そこから三十分ほど経過したところで先輩のスマートフォンが高らかに鳴り出したんだよね。
「ギャッ!」
と、大袈裟なまでに先輩は驚きながら、スピーカーにして電話を受けたところ、
『***νΖν*πμ**ヴゥゥウウウゥ』
雑音と一緒に人の呻き声のようなものが流れ出したのよ。
ザーザーと雨が降る音が室内に響く中、私と先輩はスマートフォンを間に挟んで微動だにせず立ち尽くしていたんだけど、
『ヴォウゥゥウアアア**』
非通知の電話はプチリと切れて、沈黙だけが横たわる。
え?なに?なに?なに?
普段からゾンビのマスクをつけているだけに、かかってくる電話もゾンビからとか?
それともゾンビ教信者からの連絡網?
先輩はゾンビしか友達がいないとか?
「君に取り憑いている生き霊、めちゃくちゃ怒っているみたいだな」
「え?」
嘘でしょう?
「今のはゾンビ教からの連絡網では?」
「なんなの?ゾンビ教って?何処かのカルト集団か?」
「いやいや、そうじゃなくて・・」
私と先輩はしばらくの間、目と目を見合わせていると、
「スタンガンを返してくれ!」
「スタンガンは返せません!」
ほぼ同時に言い出したのだった。
さつきとたくみの出会いはこんな調子ですが、心霊なのか?ヒト怖なのか?懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!毎日十二時に更新しています!!
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