第七話
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
交通誘導のアルバイトは、自宅で着替えて自転車で現場まで向かう場合と、事務所で着替えて車で現場まで運んでもらう場合の二つのパターンがあるんだけど、
「さつきちゃーん」
交通誘導の仕事を終えて事務所に戻って来たところで、事務員さんが手招きして、
「さつきちゃん、もしかして佐竹さんと何かあった?」
と、尋ねて来たんだよね。
「いや、あの、その」
大学の校門前でお菓子を渡して来て以降、特別に何かあったという訳でもないんだけど、まさか生き霊として取り憑いているみたいだなんて言えるわけもないので、
「なんだか家の近辺で佐竹さんを見かけるような気がして〜」
苦し紛れの私の言葉に、
「おっとっとっと〜」
事務員さんはおちゃらけた様子を見せると、
「うちが仕事を任されている範囲とさつきちゃんの生活圏内が一緒というところが問題なのかもしれないね」
真面目な顔で言い出した。
たまたま道路工事の現場で見かけたから、それが続くようなことがあったから。
「もしかして付き纏われているんじゃないか?みたいな風に思っちゃったのかな?」
事務員さんの言葉の後に、
「さつきちゃん、もしかして誰かに付き纏われているの?」
仕事から戻って来た様子の佐竹さんが心配そうに声をかけて来たんだけど、ハッと我に返った様子で三歩ほど後ろに下がりながら言い出した。
「ごめん!ごめん!おじさんにこんな風に気軽に声をかけられたら気持ち悪く思っちゃうよな!」
「いや!そうじゃないんです!そうじゃないんです!」
周りはおじさんばっかりだから、佐竹さんにそんなことを言われると、私の職場環境が悪くなってしまうではないですか!
「実は、誰かに家に侵入されたみたいで」
慌ててスマートフォンを手に取った私が、自分でも撮影した床に残る足跡の写真を事務員さんと佐竹さんに見せると、
「警察にも来て貰ったし、被害届も出してはいるんですけど、神経が過敏になっているのかもしれません」
「ああ、そんなことがあったから!」
と、納得した様子で事務員さんが言い出した。
私が佐竹さんのシフトを尋ねた理由が判明したってところなんだろうけれど、
「誰がさつきちゃんの家に上がり込んだんだ?」
佐竹さんは顔を真っ赤にして怒っているみたい。
「本当に誰なのか私にも分からなくて」
「そんなことがあれば、神経が過敏になるのも良く分かるよ」
「女の子の一人暮らしはこれだから心配だよねえ」
その後に佐竹さんが小声でぶつぶつと、
「だからスタンガンなんて持っていたのか・・」
と、言っていたんだけど、その時の私はその言葉を聞き取ることは出来なかったのよ。
良く分からない誰かに家に侵入されたということで心配してくれた事務員さんが、事務所から車で移動するというシフトを多めに入れてくれるようになったんだけど、
「・・・」
着替えを入れていたロッカーを開けてみて、物凄い違和感を感じるようになったの。
事務所には男女別の更衣室があって、私は女子用の更衣室でもちろん着替えているわけだけれど、ロッカーに入れた衣服が誰かにいじられたような感覚を覚えるようになったわけ。
「あのお・・本当に錯覚かもしれないんですけど・・」
事務員さんに相談をしたんだけど、
「きちんとロッカーは施錠して、鍵は持っていたんだよね?」
そう尋ねられれば、確かにきちんと鍵は施錠して、鍵は保管していたんだけど、
「やっぱりさつきちゃん、疲れているんだよ」
事務員さんは可哀想なものでも見るような目で私を見ながら、
「神経過敏になっているのは間違いないし、週に一日は何もしない日を作って、ゆっくり休んだほうがいいと思うよ?」
というアドバイスまでしてくれたんだけど・・
「さつき、そのアルバイト、もう辞めたら?」
私から話を聞いた由美ちゃんは呆れた様子で言い出したのよ。
「他にもアルバイトは沢山あるわけだし、そこをやめても次はすぐに見つかるでしょ?」
「うーん、でもなあ、時間の融通が利くし、お金も結構いいからさ〜」
今は色々な場所で古くなった水道管の工事をしている関係から、交通誘導のアルバイトは好きな時に入り放題の状態になっているんだよなあ。
「それじゃあさ、着替えに入った時の写真と戻って来てロッカーを開けた時の写真を撮るようにしてみたらどうかな?」
由美ちゃんはロッカーにしまって置いた衣服に違和感を感じるというのなら、その衣服自体に変化があるのかないのか、写真を撮って確認すれば良いだろうと言ってくれたのよ。
「確かにそのアイデアは良いかも!」
そこで私は、事務所の更衣室で着替える際には写真を撮るようにし始めたんだけど、
「あっ!大丈夫!」
「あっ!全然大丈夫だわ!」
一回目、二回目までは写真に変化はなかったんだけど、写真を撮り始めて三回目になって、
「え?これって違くない?」
それは微妙な違いかもしれないけれど、畳んだTシャツの向きが左に寄りすぎているように見えるのよ。
「え?え?え?これって?」
何度、二枚の写真を見比べてみても、前と後で微妙に違う。
だからこそ、満を持して、
「あの〜」
事務員さんのところへ話をしに行ったんだけど、事務員さんはあからさまにため息を吐き出しながら、
「さつきちゃん、もしかしてアルバイト、辞めたい感じ?」
と、問いかけられることになってしまったのよ。
さつきとたくみの出会いはこんな調子ですが、心霊なのか?ヒト怖なのか?懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!毎日十二時に更新しています!!
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