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屍の声  作者: もちづき裕
水の嘔
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第一話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 これは私、天野さつきが聖上大学に入学してようやっと生活に慣れて来た時のお話です。その年は梅雨がなかなか明けず、いつまでも雨がシトシトと降っているような日が続き、

「もうこれ以上、室内に干す場所はないわよー!」

 大学近くにある狭いアパートの中で、生乾きの衣類の中で埋もれていた私は怒りの声を上げていた。


 地方から上京してきた大学生なら誰もが分かることだと思うんだけど、大学の費用プラス家賃分まで出すとなると親の負担は計り知れないものとなる。

「さつき、申し訳ないけどしばらくの間は自分の生活費は自分で稼いでくれるかな?」

 と、母に言われ、

「とにかくお金がかかるのが初年度だから、ちょっとの間、自分で頑張ってくれるかな?」

 と、父に言われ、自分の生活費は自分で稼ぐことが決定しちゃったわけなのです。


 秋田から移動して来た私がバイトをしてお金を稼ぐって、

「コンパニオンガール?」

 無理、無理、無理。

「コンサートやスポーツイベントのスタッフ?」

 無理、無理、無理。

 右も左も分からない状況で、突然、派手なバイトをするのは危険すぎると考えた私は、

「これにしよう!」

 交通誘導員のバイトを選ぶことにしたのでした。


 スーパーやショッピングセンターの駐車場でおじいちゃん警備員さんが棒を振って誘導をしているけれど、道路工事をしているところで車や歩行者を誘導している警備員さんの方がお金が高い!

「それにこのアルバイトだったら田舎者でも大丈夫!」

 事務所に面接に行ってみたところ、

「「「若い子は大歓迎!」」」

 と、言って貰えたし、制服、反射板付きヘルメット、安全ベスト、腕章、安全靴を支給されることになりました。

 朝だけ、夕方だけ、夜だけとシフトを変えることが出来るので、大学の講義がない時間帯を狙って警備員のアルバイトを入れるようになったのです。


「さつきちゃん、若いのに偉いねえ〜」

 一緒に働く警備員の方はおじさんばかりなので、

「ほら、熱中症になったら困るからスポーツドリンク飲んできな!」

 近所のスーパーやコンビニから買って来たドリンクを渡してくれるのも度々で、

「ありがとうございます〜!」

 朗らかな笑顔は大の得意なので、おじさんたちのお気に入りポジションをゲットすることが出来ました。


「さつきちゃん、さつきちゃんは何処の大学に通っているの?」

 交通誘導警備員の資格を持っている佐竹さんはうちの父親と同じ年。

「大変だよねえ?うちにも子供が居るから大学に通わせる大変さは良く分かるよ〜」

「本当に、親には感謝しています!」

 私は愛想良く答えていたわけなのですが、同じ場所で交通誘導をしていた別のおじさんから、

「佐竹さんの言うことを間に受けちゃ駄目だよ」

 と、言われたのです。

「え?どういうことですか?」

「いやね、佐竹さんは結婚していないし、子供だって勿論いないから」

「えーっと、前に離婚をされていて、別れた奥さんとの間に子供が居るとか?」

「ない!ない!ない!」

 長く勤めている佐竹さんは有名人のようなものなので、誰もが未婚で子供もいないことを知っているって言うんです。


 そんな話を聞いちゃうと、

「さつきちゃん、今日は雨で濡れちゃったよね?このタオル使って!」

 と、佐竹さんに声をかけられても、

「あ!私、自分のタオルがあるので大丈夫です〜」

 と、答えるしかないし、

「なるべく佐竹さんとは同じ警備にならないようにしよう」

 とも、思うようにもなるわけで、

「さつきちゃん、最近シフトが一緒にならなくておじさん寂しいなあ〜」

 と、事務所で言われても、

「最近、大学の講義についていくのが大変で!空き時間が少なくなっているんですよね!」

 と、答えるしかない。


 子供が居るからというちょっとした嘘を吐かれるだけで、ここまで反応するのも過剰だったのかもしれないけれど、何しろ秋田から来たばかりの田舎者だもん。危ないおじさんには近づかないようにしよう。そんなことを考えていたのだけれど、

「さつきちゃん、最近、本当に大学の講義が大変みたいだね!」

 大学の校門から一歩、外に出たところで、警備員仲間の佐竹さんが私の肩をポンと叩いて来たのです。


「さ・・佐竹さん?」

「いや〜、今日はこの大学の近くで交通誘導があって、たまたまさつきちゃんを見かけたら随分と顔色が悪いみたいだから」

いやいや!顔色が悪くなっているのは貴方の所為ですよ!とは言えずにいると、佐竹さんは手にぶら下げていたビニール袋から包装紙で包まれたお菓子の箱を取り出して、

「事務所で頂いたものなんだけど丁度良かった!さつきちゃんにあげるよ!」

 と、満面の笑顔で言い出した。


「えーっと・・・」

 校門の前でおじさんと女子大生の私が何やら話し込んでいるものだから、行き交う生徒たちがジロジロと私の方を見ているんだけど、

「有難うございます!」

 私は笑顔でお菓子を受け取りましたとも。


「丁度、これからサークルに顔を出す予定だったんです!みんなで食べさせて貰いますね!」

「さつきちゃんは何のサークルに入っているの?」

「テニスサークルです!(嘘)」

 何せ、生活費は自分で賄えなんて言われているものですから、サークルに参加をしている余裕が私にはないんですよ。

「テニスサークルだなんて・・」

 佐竹さんは嘆かわしいみたいな顔で私を見ると、小さく肩をすくめて、

「サークル活動、楽しんで来てね!」

 と言って、くるりと私に背を向けたのでした。


 ここまで来たら、警戒アラームがワンワン頭の中で鳴り始めますよ。

「怪しい・・怪しい・・本当の本当に怪しすぎる・・」 

 いくら近くで誘導員をやっていたからと言ってわざわざ雨が降っている中、校門で待ち伏せするように立って待っているかな?いや、待たない、待たない、絶対に待たないって


 慌てて警備誘導の事務所に電話をして、

「今日、佐竹さんって聖上大学の近くでお仕事をされていましたか?」

 と、尋ねたところ、

「近くといえば近くなのかな〜」

 大学から二キロほど離れた場所の水道管工事の交通誘導を佐竹さんは半日の予定で入っていたと事務員さんは言いました。

「ああ、さつきちゃん、もしかして佐竹さんのことが気持ち悪くなっちゃった?あの人、ちょっと距離感近くなっちゃう人だから、警戒しちゃったかな?」

 おじさんがちょっと近づくだけで嫌になっちゃう人は多いし、

「こっちでもさつきちゃんが佐竹さんと同じ場所の警備にならないようにシフトは組むし、一応注意もしておくからさ」

 事務員さんから、

「あの人も悪気があるわけじゃないから許してくれる?」

 と、言われると、

「ええ、その、あの、許すとか、許さないとか、そんなことじゃなくて、出来れば他の場所に配置して頂けるのなら私は助かります〜」

 と、答えるしかないんだよね!


ホラー企画で連載を開始します!!これはさつきとたくみの出会いのストーリーとなるのですが、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!本日12時にもう一話更新します!!

もし宜しければ

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