第四十七話 私たちの関係
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小道具担当の佐川さんの場合は、花火大会の途中で抜け出したバイトの先輩が実は彼女持ちだと知ることになり、周りの監視員の子達(バイト友達・女)からも嫌味を言われるようになった為、夏の途中でバイトを辞めて、その先輩ともそれっきり。
私と先輩の関係も一度はそうなった仲ですが、その後は関係の変化とか、そういうものは全然無かったですよ。
七月、八月はホラーマスク作りも佳境を迎えるため、先輩はとにかく大忙し。今年はゾンビイベントを主催する会社からもお声掛かりが来たとかで、夏休み中は、特殊メイクをするためにイベント会場まで出向くことも多かったため、マスク作りが大変なことになっているようでした。
去年までは、
「頼むから一緒に来て欲しい〜」
と言って、霊障(生き霊)を防ぐために、イベント会場まで助手として付いて歩くことも多かったんですけど、
「天野さんは来なくていいから」
の一言で、今年はイベント同伴もなくなりましたし、
「やばい、仕事が溜まりすぎててやばい」
家に帰ってからも、仕事で押し潰されそうになっているので、取り付く暇もありません。
川津村から帰ってからというもの、家に現れる大蛇やら動物の霊についての相談も、先輩ではなく、先輩のお父さんにしているような状態でした。
「これは、つまりは、佐川さんパターンて奴だな」
夏休み中は、ほぼ放置、神社に巫女さんのバイトに行っても顔を合わせることもありません。そのうち川津村から吾郎くんが社長の家へと引っ越してくることになり、先輩よりも、吾郎くんと顔を合わせることの方が多くなりました。
まあ、結局のところ、私は始めてだったんですけども、それがどうなんだって言われれば、どうなんだって話ですよ。
「私に手を出したんだから!責任を取ってちょうだい!」
なんて言い出す時代でもないし、言い出したところで痛い女認定を受けるだけだし、
「何を私は期待していたんだろう・・」
と、我に返って愕然としてしまったわけですよ。
なにしろ、近所の蕎麦屋さんで一緒にバイトをしている子が、
「さつきちゃん!なんか綺麗になった!綺麗になった感じする!もしかして男出来たでしょう〜!」
なんて言い出して、
「夏が本格始動する前に彼氏できてよかったね!もし良かったら、おすすめのレストランがあるんだけど、彼氏さんと一緒に行ってきて!夜景がすっごい綺麗で素敵なレストランなの!」
と言われ、レストランの名刺まで貰ってしまったのだ。
「そうですね、行けたらいいんですけど〜」
と、答えた私はバカだ。
彼氏じゃあねえし!ただの大学の先輩と後輩なだけだし!甘い雰囲気も何もない!他人以上に他人の関係だって言うのに!アホだ!アホすぎる!痛すぎるぞ私!
ということで、私がたまに思い出し怒りで震えていると、
「さつきちゃん、そんなに心配しないでも、何かあれば僕がお嫁に貰ってあげるから大丈夫だよ〜」
我が家に遊びに来て、の○太くんみたいに大蛇の胴体を枕にして寝そべりながら図書館から借りてきた漫画を読んでいる吾郎くんが言い出すのだった。
「さつきちゃんと僕、別に結婚できない年齢じゃないし、パソコンとインターネットが使えるようになってから、僕、結構、投資でお金を儲けているから、さつきちゃん一人くらい余裕で養えるから心配しないで〜」
「吾郎くん!」
さすが、見かけは6歳、中身は46歳、実年齢では26歳差、見かけ上では14歳も離れているけれど、言っている言葉が男前すぎるよ!
◇◇◇
蛇の神様というのは商売繁盛の神様だったり、お金が集まってくるという神様だったりするんだけど、大学の夏休みに入った僕の元には、仕事の依頼が山のように押し寄せてくることになったわけだ。
完全に蛇様効果なのだろうけれど、ここで、僕の技術が評価されれば就職に繋げられる可能性も大きくなるわけだ。
結局、チャンネルを閉じ切ることが出来なかったさつきは、神気にも近い力が漏れ出しているような状況だったため、昨年のように連れ回すのは憚られる状態だったのだ。
特別な力は目に見えるものではないけれど、良きものも悪きものも、非常に引き寄せやすい状態だと言えるだろう。
そんな訳で、僕はイヤイヤでも一人で仕事に出て行って、この顔の所為で生き霊を山ほど持って帰り、痴情沙汰や刃傷沙汰を掻い潜りながら、お金を稼ぎまくっていた訳だ。
そうして、大学祭で行われる『オペラ座の怪人』のチケットを二枚、狩野部長に融通して貰うことになった僕は、さつきのところへ行ったわけだけれど、
「え?二枚あるんでよね?それじゃあ、吾郎くんを誘ってみようかな?」
と、言われることになったのだ。
「吾郎くんって、何処の吾郎くん?」
「川津村で発見された吾郎くんですよ。最近、毎日のようにうちに遊びに来ているんです」
「はい?」
何でも、ようやっと戸籍が認められ、近所の小学校に通い出すことになった吾郎くんなのだけれど、連日のようにマスコミに追いかけられて大変な思いをしているのだという。そんな訳で、工場の隣にあるさつきのアパートに遊びに来ているということになるのだが、
「僕は聞いていないんだけど?」
僕の問いかけに、
「言ってないですしね」
と、彼女は端的に答えたわけだ。
どうやら僕は、絶対に進んでは行けない方向へ突っ走っていたらしい。
これが蛇の神様の作為によるものなのか、他の何かの作為によるものなのかは分からないけれど、自分の物であると彼女にマーキングをして、はい、それで大丈夫などと考えていた僕は、はっきり言ってどうかしていたと思うもの。
知らぬ間に何かに取り憑かれていたのか?乗り移られていたのか?怖いんだけど?
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