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屍の声  作者: もちづき裕
屍の声
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第四十五話  二人の仲は

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 雨でびしょびしょだった私たちは温泉に入って着替えを済ませると、ホテルの人が用意をしてくれたすき焼きに舌鼓を打ちました。(信州牛、とっても美味しかったです!)食後はサークルの部員さんたちは、部長の部屋で飲み直すことが決定したようでした。


 部長は学祭の講演に対して自分なりの構想があるらしく、そのことについて部員と話し合いをすると言うので、私たちは遠慮させて頂くことにしました。


 いや、もう、妖怪大戦争みたいなことになったっていうのに、すき焼き食べて、その後、飲みながら打ち合わせだなんて、赤峰先輩たちも、絢女さんも、タフ過ぎますよ。


 ちなみに、突然の兄離れ宣言をされた邦斗先輩ですけど全く気落ちもせずに、むしろホッとした様子で遠くから絢女さんを見守っています。


 本当に良いお兄ちゃんなんですよね、その隣に寄り添うように萌依子先輩が居る姿を見ていると、カップル、爆死しろって思います。


「はーーっ、もう、どうでも良いや、もう寝よ」

 今日は色々とありました、本当に色々とありました。

 何でか知らないですけど、巻き込まれるのにも程がありますよ。


 私は、社長さんが借りてくれた部屋へと移動していくと、後ろからついて来た玉津先輩が言いました。


「天野さん、実は僕、怒っているんだけどね?」

「はい?」

「君、今日は僕の頬をバチンと殴りつけたよね?」

「はあい?」


 後を振り返ると、温泉に入って着替えを済ませた先輩の、確かに左頬が赤くなっています。

「ああ〜・・」

 殴った、確かに殴った。いつもみたいにホラーマスクを装着したら気が付かなかったのに、先輩、現在、マスクを装着していないから良く分かります。


 先輩はとにかく顔が良いんです、どうかと思うほど顔が良いんです。神々しいまでに顔が良いんです。顔を晒して歩いているだけで、ストーカーを量産してしまうほど顔が良いんです。そのお顔の左頬がですね、赤いですね。


「だって、ですよ?あの場でぼんやり現実逃避します?先輩が現実逃避するのはいつものことかもしれないですけど、下手したら取り殺されちゃうかもしれないですよ?」


「・・・」


 無言の圧が凄いです。

「ごめんなさい」

 親父にも殴られたことないのに系の人だったのかしら。

「悪いって思っているの?」

 いや、心の奥底では思っていないですけども、

「思っています」

 即答しておきましたよ。

「それじゃあ、仕返しされても仕方がないってことだよね?」

 ヒョエーーー!


 本日、ホテルに宿泊しているのは聖上大学演劇サークルの皆さんと、私たちだけ。社長やオーナーさんは、吾郎くんと一緒に母屋の方へ移動しちゃっているので、シングルルームが多い西棟には私たちだけですよ。


 殴られるのか、蹴られるのか。

 そんな横暴なことをするわけないよね?

「目を瞑って」

 歯、食いしばれみたいなアレですか?


「わ・・分かりました」


 覚悟を決めた私は、目を瞑りましたとも。

 先輩が私の両頬に手を添えます、え・・?頭突きが来るの?

 いや、頭突きじゃない、柔らかい何かが唇に触れた。

 キスですか?キス?

 先輩との付き合いは長いですけど、今までこんな雰囲気になったことないんですけども。

 目を開けてみると、とにかく顔が良い。


「なんか、間違えてないですか?」

「間違えてない」


 二回目のキスは深いキスで、その後、先輩はぎゅっと私を抱きしめながら言いました。


「絶対に横取りされたくない」


 誰に?誰に横取りされるっていうんですか?


 ちなみに、私は大学に入学してからというもの、中年のおっさんからストーカー被害に遭ったくらいで、色っぽい話はゼロですよ。一年の時から先輩と絡むことが多くなって、

「ああ、玉津(変態)のお気に入りの・・」

 と、知らない人からも言われるようになって、お気に入りって言ってもアレですよ、心霊現象が起こらないという利点を利用されているだけですよ。


 私はとにかく、超強力な幽霊じゃないと見えない体質らしく、霊障なるものが身近に起こらないんですよね。だから、神社で巫女さんのバイトをしていると重宝されるし、玉津先輩も、そんな理由から身近に置きたがるだけで・・


 今回、演劇サークルの皆さんと行動を共にしましたけど、誰に横取りされるっていうの?誰も私なんか気にもかけていませんでしたけど?


 自分の部屋の鍵を取り出すと、先輩は私を連れて部屋へと入って行きました。何故?どうして?どういうこった?今までこんな雰囲気になったこと、ないですよね?


「絶対に離したくない、絶対に離したくない」


 先輩は私を掻き抱くようにして抱き締めながら言いました。

 だから、えーっと、どういうこと?

 恐ろしくてしがみついて来るって感じじゃないから、幽霊が近くにいる訳ではないんだろうけども。


「先輩、悪霊が近くに居るとかじゃないんですよね?雷が落ちて浄化したんですもんね?だったら何に怯えているんですか?私、ラスボス形態しか見えない体質なので、ちっとも良く分からないんですよ」


「天野さん、僕のこと好き?」

 ど直球の質問だな。

 私はベッドに座った先輩の膝に乗って抱っこ状態なんですけど、これ、返答によっては先に進んじゃう感じですよね?

「き・・嫌いじゃないですよ」

 とにかく、顔が良い、顔が良過ぎるので、視線を外しながら言いました。


「先輩、今日は本当におかしくないですか?私が横取りされるって誰に横取りされるって言うんですか?私、めちゃくちゃモテないんですけど?誰か、私のことが好きだっていう人がいるんだったら教えて欲しいくらいですよ」


「じゃあ、教えてあげる。僕は君のことが好きだ」

 先輩は声も良いんですよね、耳元で囁かれると、ゾワゾワするんですよ〜。

「だから離してあげられない」


 続きのキスもやっぱり長くて、あれですかね、命の危機に直面すると、吊り橋効果的なやつで隣に居る大したことない女も美人に見えて来るっていうアレですかね。


 だって、こんなに顔が良い人がですよ?私なんかに手を出そうと思うかな〜?今までお守り程度の存在だったでしょうに、横取りされる?誰に?分からん!


 ベッドに押し倒された私は、結局、先輩を受け入れた。 


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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