第四十二話 特級呪物
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特級呪物を運んでくる際に、脱いだTシャツを利用した先輩は、半裸状態を選ぶことになったそうなんですけど、触ったらまず即死するという代物の呪物を『はい、どうぞ』みたいな感じで渡してくるってどうなんでしょうね?頭がおかしいんだと思いますよ。
この恐ろしい呪物、雷が落ちて壊れちゃったんですけど、
「全然問題ない!直すから問題ないよ!」
と言って、ホクホク顔で玉津先輩のお父さんは、壊れた剣を鞘ごと引き取って行きました。
自分の息子が雷に打たれたかも(・・)しれないということで、次の日には車でやって来た神社の神主であるお父さんなんですけども、
「このお社は、熊埜御堂さんの家の為にも復活させた方が良いと思いますよ!」
という玉津先輩のお父さんの発言により、神社を復活させる手続き(神社庁に書類を出すなど)をすることになりました。
このまま廃棄するのは勿体無いって先輩のお父さんは言うし、熊社長もオーナーさんも、吾郎くんを無事に返してくれた神様に感謝したい!と言うことで、こちらについての話はとんとん拍子で進むことになりそうです。
ちなみに、雨でびしょびしょになった私たちは、吾郎くんを連れてホテルへ戻ることになったんですが、まず、オーナーさんの奥さんがびっくりし過ぎてぶっ倒れました。
四十年前に行方不明となった夫の従兄弟が、四十年ぶりに現れた。しかも居なくなった当時のままの姿で、ですよ。
もちろん、警察も驚きました。
幽霊騒ぎも落ち着いたことですし(雷に打たれて成仏していますしね)邦斗先輩が剃刀で切り付けられたという傷害事件についての被害届は、取り下げをしたんですけれど、警察署では、幽霊なんだか、妹なんだか、不審者なんだか分からない人物による傷害事件よりも、目の前に現れた吾郎くんに対して驚倒したわけですよ。
四十年前に行方不明になったというのに、当時のままの年齢で現れた吾郎くん。こんなことは警察としても初めてで、どう処理をしていくかで頭を悩ませることになったわけです。
世界的に見ても、行方不明になった少年が当時の年齢のまま現れるなんて事件が起こったことはなく、世界初の大事件になるわけですからね?
「もしかして、行方不明だった男性の子供なんじゃないのかな?」
と、警察の人達は言い出しました。
46歳の男性が6歳で現れるよりも、行方不明だった46歳の男性の子供が、失踪した場所で発見された。という方が、信ぴょう性があるように見えるかも?
非常識な現象を認めるよりも、失踪した男性の子供として戸籍を登録し直す方が、警察としても手続きが簡単でしょうし、上層部への説明が簡単になるでしょうしね。
「いいえぇ!この子は絶対に吾郎です!」
「吾郎以外の何者でもありません!」
熊社長とオーナーの勢いが凄かったですよ。絶対に自分の弟だ、従弟だの一点張りだった為、即座にDNA鑑定を実施。吾郎くんが四十年前に受診していた歯医者のカルテを引っ張り出して歯の検証まで行いました。
それでも、こんな不思議は簡単には認められない〜という警察と自治体の主張が長々続いたのですが、
「日本で驚きのニュースが起こりました!なんと!驚くべきことに、四十年前に行方不明となった吾郎くんが、当時のままの姿で発見されたのです〜!」
という海外メディアの特集が公となり、日本のマスコミも後追い状態で大騒ぎとなった為に、警察も自治体も、ようやく、吾郎くんが行方不明だった人物であると確定することにしたのです。
偽りの戸籍を作られることなく、本当の戸籍(年齢46歳)を手に入れることになった吾郎くん。
「みんながね、僕のことを『コナンくん』って呼ぶんだけど、なんでそう呼ぶのか意味が分からなかったんだけど、ようやっと理解出来たよ〜」
見かけは子供、中身は大人ですからね。
図書館から借りてきた漫画を寝転んで読みながら、そんなことを言っています。
ホテルのオーナも自分が引き取ると主張しまくっていたのですが、最終的にお兄さん(熊社長)が勝利して、吾郎君は熊社長の家に引き取られることになりました。
長野から移動してきた吾郎くん、戸籍の上では46歳ですが、小学校に通い始めることになりました。そんな彼は、ちょくちょく私の家に遊びに来ているのです。
「あ、ごめ〜ん、ココ様、勝手にお菓子を食べちゃダメだよ〜」
吾郎君は、自分のポケットの中に小さな蛇を飼っています。
この蛇が本物の蛇なのか、もしくはご神体なのか、私には良く分からないんですけども、アナコ様の子供で『ココ様』と吾郎くんは呼んでいるそうです。
アナコ様というのは酒巻山の中にある、あの神社の池に住んでいる蛇の神様のことみたいなんですけど、吾郎君はずっと、アナコ様と郁美さんと暮らしていたと言っています。
ちなみに吾郎くん。の○太君みたいに寝転んで漫画を読んでいるんですけど、枕にしているのが巨大な蛇の胴体です。
私はラスボス級の幽霊しか見えない体質だったはずなのですが、玉津先輩のお父さん曰く、特級呪物を素手で直接触ってしまった関係で、閉じられたチャンネルが開いてしまっているような状態らしく、自分の家に蛇の霊が居座っているのが良く見えます。
問題の川津村から帰って来た日の夜には、すでにこの大蛇は家に居て、狭いアパートの部屋の中を、ずるずる移動を続けているんです。
「さつきちゃん、開いたチャンネルはそのうち閉じるし、そのうち見えなくなるから気にしなくても大丈夫だよ〜」
と、呑気な調子で先輩のお父さんは言っていましたが、一体いつまで、蛇と一緒の生活を続けなければならないのでしょうか?
多分ですけど、この巨大蛇が居るから、吾郎くんもうちにやって来るんだと思うんですよね。だって、蛇の神様と四十年間一緒に居たわけでしょう?居心地が良いみたいな感じになっちゃっているんじゃないのかな?
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