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屍の声  作者: もちづき裕
屍の声
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第三十五話  熊社長の思い出

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 熊社長の弟さんが行方不明となった時、熊社長は12歳で、弟たちのお目付役として遊びに行く時には、一緒に付いて歩いていたそうです。


 もちろん、祖父の妹となる郁美おばあさんにも会っています。

 神社の本殿の手前に建てられたプレハブに住んでいて、社の清掃はおばあさんがやっているし、お守りやお札なんかは郁美おばあさんが売っていました。


 昔は問題を起こした人だったけれど・・と枕詞がつく人だったけれど、いつでも、ニコニコ笑いながらお菓子をくれた人。


 神社には氏子の人たちが、とうもろこしやスイカ、桃やメロンを奉納してくれるので、熊社長兄弟が遊びに行く時には、いつでも良く熟れた美味しい桃を切ってくれました。


「奥には遊びに行かないでね」

 それが郁美おばあちゃんの口癖。

「本殿から奥に行ったところにある池は、底なし沼みたいな物だからそこに行ったらいけないよ?」


 神社の本殿からは、奥に続く道があるけれど、熊埜御堂の子供は行ってはいけないと大人たちからも言い含められていたのです。


「俺たちは行ったことあるよ!」

「俺も!」

「綺麗な湧き水が出ているんだよな!」

「蛇神様が住んでいる池なんだよ!」


 村の子供たちは、本殿の奥にある蛇の池には行ったことがあるけれど、オーナーさんも、熊社長も、弟の吾郎くんも行ったことはなかった。


 吾郎くんはもうすぐ7歳になるから、何の誕生日プレゼントが欲しい?なんて話になった時に、

「僕、プレゼントは要らないから、池を見に行ってみたい!」

 と、吾郎くんが言い出したそうです。


「プレゼントはなーんにもいらない!だけど、秘密の池を直接この目で見に行ってみたいんだ!」


 実は、今まで何度も、本殿の奥にあるという池を見に行こうとしていたのだけれど、その度に郁美おばあちゃんに止められていた三人だった。


 特におばあちゃんは、吾郎くんに対して、

「ごろちゃんは、あんまりにも修吾郎さんに似ているのだもの。魅入られやすいのだから、絶対に近づいちゃいけないんだよ」

 と、しつこいほどに言っていた。


 社長の弟の吾郎くんは、祖父となる修吾郎おじいちゃんによく似た面立ちをしていると言うのです。本家の血が濃くなるとこんな顔になるのだと、大人たちは口を揃えて言うのです。


 今考えてみれば、郁美さんは三人の中の誰か一人を特別可愛がっていたというわけではなかったし、三人平等に可愛がっていたと思う。ただ、吾郎に対しては特別しつこく注意をしていた為、特別吾郎を可愛がっていたと、そんな風に刷り込むように思い込んでいたような節がある。


「今日はさ、郁美さん、用があって隣町に行くって言っていたんだ。それでお母さんが社務所の方に出ることになったんだけど、お母さん、神社があんまり好きじゃないから社務所は開けないで閉じたままにすると思うんだ」


 秀吾が言うお母さんとは、熊社長にとっては叔母さんということになる。

 赤ちゃんの時に養子に出された関係で、熊社長は秀吾の母である叔母さんに対して、ちょっと気まずいような思いを抱いてたそうです。


「だからさ、今日だったら神社の裏の方にある池に行くことが出来ると思うんだよ!」

「本当に?お兄ちゃん、だったら僕、絶対に行ってみたいんだけど駄目?駄目かな?」

「そうだなぁ・・」


 本当のことを言うと、熊社長だって蛇神様の住処だという池は見てみたかったのです。自分よりも年下の村の子たちが見に行っていると言うのに、12歳の自分がまだ見に行っていないと言うのは恥ずかしいなと思っていたから。


「それじゃあ、ちょっとだけ、ちょっとだけ見に行ってみようか?」


 熊社長はそう言うと、弟と従弟を連れて神社へ向かうことにしました。


「ああ、そういえば思い出した」

 三番目の鳥居の前で、熊社長は灰色の雲に覆われてしまった今にも雨が降り出しそうな空を見ながら言い出した。

「鈴の音がして、女の人が呼んでいたんだよ」

「鈴の音?」


 オーナーも一瞬、怪訝な表情を浮かべたものの、ハッとした様子で社長を見上げる。


「確か・・チリーン、チリーンって鈴の音がして・・」

「池の向こう側の森の方から鈴の音がするから、確認しに行ってみようと僕が言い出して・・」

「吾郎が、変な女の人が手招きしているからやめた方がいいって言い出したんだよな」


「確か・・僕や健吾さんには、その女の人が見えなくって、それで、冗談ばっかり言っているなよみたいな話になって、僕らはちょっとだけ、森の奥の方を覗きに行ったんだ」


 鳥居の前で思い出話に興じている二人の後ろで、玉津先輩は真っ青な顔で黙り込んでいるし、

「俺も見た!鈴の音の後に幽霊見たって!」

 赤峰軍団が、後ろでコソコソコソコソ騒いでいるし。


「あの時、目を覚ましたら、郁美おばあちゃんに助け起こされたところで・・」

「森の中で二人で倒れていたところを助けてくれたんだけど、雨が・・その後の土砂降りの雨が酷すぎて・・吾郎を探してもなかなか見つけられなくって・・」


 熊社長は、その後、弟の吾郎さんを見つけられないまま、家に戻ることになったのだけれど、大人たちは吾郎くんを探すために、熊埜御堂の本家に集まっていたのだという。


「僕は、大人たちが集まって話し合いをしているのを、廊下の端からこっそりと覗いていたんだけど、本当に早く吾郎くんは見つからないかなって、見つかって欲しいと願っていたんだけど、雨足はどんどん酷くなっていって、麓の方では川が増水がしているって大騒ぎになっていて、そうしたら郁美おばあちゃんが家にやってきて・・」


 オーナーさんは自分の額を抑えながら、昔の記憶を呼び覚ますように言い出した。


「自分が人柱になるって、今は帰って来れないけど、いずれは吾郎くんは帰って来るって。それまで辛抱して待つようにって、確かそんなことを言って・・それで翌日には神社の裏の池に入水自殺をしていたんだった・・それで雨が止んで・・」


 ハッと我に帰った様子でオーナーが頭上を仰ぐと、雨がぽつり、ぽつりと降り始めて来たわけです。


「帰りましょう!雨も降り始めてきたし、今日はとりあえず一旦帰りましょう!」

 そんな先輩の主張は無視して、

「雨が本降りにならないうちに、神社に絢女が居ないか確認しなくちゃだな!」

 赤峰先輩はそう言って、石階段を駆け上り始めました。


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