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屍の声  作者: もちづき裕
屍の声
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第二十四話  今はネットの時代

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 声が出ないというだけで、至って元気な立仙萌依子は、慌ててホテルのオーナーが持ってきたノートとマジックペンを受け取ると、

『声が全然出ないの!まさにこれって、アリエルみたいじゃない!』

 と、書き出した。ここでマーメイドを持ってくるか?すごいな!


『ヒロインが突然、声が出なくなる展開って、今まで小説でも読んだことがあるんだけど』

 萌依子はニコニコしながらペンを走らせる。

『すごい!すごい!すごい!声を出そうと思っても本当に出ないなんて、生まれてはじめて!』


 呑気が過ぎる、昨日、不審者と遭遇して叫んで気絶したのではなかったのか?


「玉津先輩、萌依子先輩、声が出ないみたいですけど大丈夫なんですか?」


 後輩のさつきに問いかけられて、僕は無言で首を横に振った。

 知らねえよ。マジで、本当に知らねえっての。


 萌依子自身、声は出ないけれど健康体だということが分かった為、邦斗と一緒にこれから朝食を食べに行くらしい。


 本日の予定としては、午前中にホテルのオーナーの奥さんが、邦斗と萌依子の二人を病院に連れて行き、その後は警察に寄って被害届を提出するらしい。


 オーナーと社長さんは、一族のお墓があるお寺に墓参りに行き、月命日ではないけれど、故人の供養をして貰えないかと住職に相談をしに行くつもりだという。


 檀家となっている近所のお寺とは古い付き合いになるんだけど、住職は、熊埜御堂家にあまり来たがらないらしい。お盆の時も、最短のお経をあげてさっさと帰ってしまうのが常なので、今回、供養をお願いしてもごねるんじゃないかという話だった。


 熊埜御堂ホテルは、霊障が百パーセント起こると言われるホテルなだけあって、定期的にお祓いなども行なっているらしい。だけど、近場の神社は廃神社となって何年も経つし、街の大きな神社にお願いしても、何のかんのと言われて断られることが多いため、ネットで除霊を受注している除霊師さんにお願いして、お祓いなんかはやってもらっているらしい。


「今は何でもネットの時代だよな〜」


 お寺にしても、神社にしても、田舎に行けば行くほど、過疎化が進み過ぎて氏子も檀家もあっという間に目減りする。神に仕える宮司も、仏に仕える住職も、生計を立てるだけの収入が貰えないという事態に陥るのだ。


 御朱印ブームで盛り上がっているのは都会や観光地の有名神社ばかりで、数多ある神社や寺院の自然淘汰はとっくの昔から始まっている。


 宮司や住職が何軒もの田舎の寺や神社を梯子していたのは、数十年も前の話であって、ガソリン代の高騰、光熱費の高騰、止まらない物価高による影響によって、

「もう・・神畜(仏畜)はやめよう・・」

 と言い出す人が続出。結果、 廃神社、廃寺が田舎を中心に激増しているのが現実なのだ。


 そんな訳で、地域に残された神事や祭事なんかは、あっという間に失われていく。地方に残された文化は文章なんかに残さないし、重要なものは口伝で残されていることが多い。そんなことだから、歴史に残されることもなくどんどん消えていっちゃうんだよね。


 それで、お金がある人なんかは代替案としてネットで発注を行うようになるわけさ。お祓いしかり、除霊しかり、来る奴がまともな奴かどうかはレビューで確認するしかないのかな?知らんけど。


「先輩、調べたら町営の郷土資料館が十時から開いているみたいです」

「とりあえず僕らは郷土資料館に行くか」


 僕ら民族学科の学生は、地方に行ったらまずは郷土資料館を訪れるようにしている。展示されているものを見るのが目的というよりも、その地方の文化とか歴史なんかを知るのに資料館の職員さんを頼った方が手っ取り早かったりするからだ。


「先輩、私、今回のコレは夏休みのレポートの課題の一つにしようかと思っています!」


 民俗学とはこの国の人々の風習、習慣、文化や歴史、民間伝承を主な資料として再構築しようとする学問になるんだけど、そのオタク気質な学問を学ぶ学部に所属してしまっている僕やさつきは、夏休みの課題提出のためにフィールドワーク必須の状態となっていたわけだ。


 今回はお化けが元で始まった強制長野旅行だけれど、レポートの課題になるようなものがゴロゴロ転がっているのに違いない。


「面倒くさい〜」


 僕はフランケンシュタインのマスクをすっぽりとかぶり直しながら、ため息を吐き出した。レポート作成大いに結構!ただでは転ばないさつきの精神も素晴らしいと思う!だけど僕としては、悪霊やら怨霊やらそんなものが発生しないような安全地帯で、呑気にのんびりと、地元の人々と触れ合いながらフィールドワークを行いたい。


「いやだ〜!帰りたい〜!」

「帰りたいじゃないですよ!早速、神社のお守りを売ってこなくっちゃ!」

「やけに張り切ってお守りを売るつもりみたいだけど、なんで?」

「だって、先輩のお父さんが、たくさん売れば売るほど中間マージンに色をつけてくれるって言ってくれたので!」

「たくましいな〜」


 僕なんかは大学が地元だし、自分の家から大学に通っているから、お金に困るってことはほとんどないんだけど、天野さつきは実家がある秋田から出てきている関係で、学費とアパートの賃貸料以外は自分で賄わなければならないらしい。


 そこで大学に進学後、ファーストフード店のバイトとか、道路工事中の警備のバイトとか始めたらしいんだけど、警備のバイトの方はさつきがバイトに入るとやたらと交通事故の数が多くなる(過失は百パーセント車を運転している側にあるため、さつきが責められることはないのだが)ため、一ヶ月もせずにバイトは終了。


ファーストフードの方も、お客さんがストーカー化して待ち伏せされたりした為、あえなく辞めた。結果、現在、うちの神社の巫女のバイトと、僕のホラーマスク作成の手伝いと、賄い料理も出る近所の蕎麦屋のバイトをすることで、生計を成り立たせている状態なのだ。


 ちなみに僕は、手製のホラーマスクをネットで受注販売をして金を稼いでいる。これが結構な金になるので、今まで、金で困ったことが一度もない。



ここまでお読み頂きありがとうございます!

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