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屍の声  作者: もちづき裕
屍の声
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第二十三話  女の気配

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 浮気されている女性が、恋人の部屋に行ったときに、

「なんだろう、この違和感」

 と、感じることが多いとかいうけれども、今の僕はまさにそんな感じで、ホテルに入ってからずっと、何ともいえない違和感を感じているのだった。


 蛇の幽霊は自然発生した何かの現象のようなものだから、大元のあの大蛇が現れない限りは、そんなに心配しなくても良いんだと思う。


 このホテルには、何万匹という蛇の霊体が、まるで建物に絡みつくようにして存在していると思うんだけど、それとは別に、強烈な存在感を感じる。


 なぜ、浮気されている女性の話を思い出したのかというと、男の浮気相手は、恋人が居ると分かった上で交際をしているわけで、彼女が居ても私は問題ないわ〜とか何とか言いながらも自分の存在を彼の恋人に対して主張したいっていう欲求を持っていると思う訳。


 その強い思念みたいなものを感じて、本命の彼女は違和感を感じる。

 例えば匂いとか、落ちている髪の毛とか、女性が目ざとく見つけてしまうのは、部屋に残された強い思念みたいなものを感じ取ってしまうから。


 自分が意図しない間に自分の強い思いが相手に取り憑いてしまって〜というのが生き霊だとするのなら、今、この部屋に居るのは完全に死んだ霊ということになるだろう。


 しかもかなり古い、しかも一体じゃない。


 似たような性質なのに、全く別のものが複数、立仙萌依子を取り囲んでいる。物凄い嫉妬心が渦を巻き、男の愛情を立仙萌依子から奪い取って、まるまる自分の物にしたいと考えている。


 肉欲も絡んだ物凄い欲、飢えて望むほどの渇望。習性、遺伝、呪い、呪縛。


「陸守くん、悪いけど部屋の外まで下がってくれる?じゃないと、君を守り切ることが僕には出来ない」


 陸守邦斗に抱いてもらいたい、貫いてもらいたい、滅茶苦茶にしてもらいたい。渇望、渇望、渇望、気味が悪くて怖すぎる。


 黒々とした塊の濃さが呪いの深さを示している。

 何がきっかけかは分からないけれど、自分の人生を呪い、世の中を呪い、天をも呪って、女を・・一人・・殺した?


 その呪いによって、その子供から親族に至るまで、黒々とした病に蝕まれていく。全身が真っ黒になる様は黒死病みたいだ。病原体を操作した?わからないけれど、救いがない物語みたいだ。


 流れ込む思念を遮断しながら、何とか己を保とうとしているけど、そんな僕を守っているのが、真っ黒な蛇って何故?蛇は女の幽霊の仲間じゃないのか?訳がわからん。


 蛇と女は別物で、別物なはずなのに混ざり合っている。

 それが均衡を大きく崩すきっかけとなって、この地域には地滑りや土砂崩れによる被害が頻発するようになっている。


 自然災害級の災いが、一直線に立仙萌依子に向かっているのが今、ここのポイント。

 普通だったら狂い死にしてそうなものなのに、彼女の健全な器がそれを防いでいる。強い。


「天野さん、手を貸して」

「先輩、めちゃくちゃ震えているじゃないですか」

「そりゃそうよ、今、どれだけの霊に取り囲まれていると思うわけ?」


 一番古いのが二百年前くらいのもの、そいつが起源となって引きずり続けている。怖い。


「天野さん、手重ねていい?」

「先輩、こうでいいですか?」

「僕ね、未だに怖すぎて目が開けられないの。だからね、僕が誘導する方向で立仙さんを撫で回して」

「こうですかね?」


 天野さつきは本当にすごいんだよね。霊障が原因の体調不良だったら、彼女の一撫でで、大概は解消すると僕なんかは思うもの。災害級も気にしてない、彼女の視界に入っていない、敵とも認識していないんだからすごいよ。


「胸のところに重いのが乗っているから払いのけちゃって、そう、僕が触ったらセクハラで訴えられるから、触るのは天野さん、僕は誘導係、今度は足、足も重いのが乗っているんだよ。申し訳ないけど、布団は一旦剥いじゃって、つま先からくるぶしあたりは円を描くようにしてさすってあげて」


「先輩、こうですか?」

「そうそう、ああ、ようやっと目が開けられるようになってきた」


 繋がりを切られて、女の幽霊たちが退いていく。怨嗟の声が酷いけど、これが聞こえないっていうんだからさつきは良いよなぁ。


「先輩、そろそろマスクを外さないと、細かいところが見えないんじゃないですか?」

「そうなんだよ、嫌だけど外すことにするよ」


 フランケンシュタインのマスクを外すと、

「うっ」

 ホテルのオーナーが驚きを飲み込んだような声をあげている。オーナーは僕の素顔を見ていなかっただろうか?


「顔がまだ残っているな、目元をやってくれる?耳も、これで聞こえるようになったと思うけど、まだ、残っているのがあるな」


 フェイシャルマッサージのようにさつきが萌依子の顔を撫で回すと、遂に萌依子が目を覚ましたようで、目をぱちぱちさせながら起き上がるなり、僕を指さして無音のまま口を動かした。


 口の動きから察するに、

『あっ!おうじさま!』

 と言おうとしたんだな、頭が沸いているのか?


「・・・!・・・!・・・!」


 立仙萌依子は口をパクパクさせながら声を出そうとしても出せないようで、慌てて部屋に飛び込んできた邦斗が萌依子の手を握りしめると、口をパクパクさせながら萌依子が瞳を輝かせた。


『おとめげーむみたいなてんかいだわ』


 口の動きから察するに、そんなことを言っているんだろう。乙女ゲームってなんなんだ?頭が沸いているんじゃないのか?



ここまでお読み頂きありがとうございます!

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