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屍の声  作者: もちづき裕
屍の声
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第二十一話  オーナーは知らなかった

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 熊埜御堂社長は53歳、従弟となるホテルのオーナーさんは46歳。

 社長が髭を生やした小太りの熊とするのなら、オーナーさんは、シュッとした体型のおじ様!という感じの人なんだけど、同じ一族だけに、目元や口元なんかはとても似ているように私には見えました。


 サークルの部員たちは朝食もまだ途中だし、私たち自身がホテルのオーナーから説明を受けないことには話にならないということを狩野部長が言い出して、九時から劇場で舞台の稽古を始める際に玉津神社のお守りを販売するということで話がつきました。


 お守りは一個千円、家内安全や健康長寿、交通安全のお守りも入っております。


「健吾さん、遠くから来てくれて本当に有り難う!それで・・その後ろにいる方々が言っていた霊媒師の・・」


 いつから私たちは霊媒師になってしまったのでしょうか?


 私は強力な霊なら目視できるという程度の女子大生ですし、先輩だって、神社の息子というだけでお焚き上げは自力で出来ますけど、お祓いとかそういうのは神主になるための学校に通っていないので出来ないのですよ。


「いやいや、なんて言うのかな・・何処から説明した方がいいのかな・・」


 熊埜御堂社長は、困り果てた様子で私たちの方を眺めると、

「こちらの方が玉津たくみ君、聖上大学で特殊メイクをメインでやっていて、ホラーマスク作り好きが高じて、いつでも装着したい人なんだ」

 まずは先輩の説明がそれですか。


「それで、こちらの天野さつきさんが、強力な霊能力者だそうで、強い霊に対応するなら、この人が居た方がいいと神社の神主さんに言われて、ついて来てもらったんだよ」


「え?」

 何故、私がスーパー除霊師みたいな扱いになっているのだろうか?

「ええ?」 


 私の疑問に気がついた様子で社長も怪訝な表情を浮かべると、

「それじゃあ、僕はお役御免ということで、大丈夫です、自力で帰れますから」

 これ幸いと、先輩がホテルからの脱出を図ろうとしている。


「いやいやいやいや、君に帰ってもらったら、それこそ困るんだよ〜」

 社長は先輩の両手をむんずと掴みながら言いました。


「君は見える人、彼女は見えないけれど、何とかする人。ニコイチじゃないと効果が発揮されないって聞いているって〜!」


 先輩のご両親は社長に向かって、どういう説明をしているんですかね?


 とにかく、落ち着いて話をしようということになって、ホラーマスク装着状態の先輩にまだ慣れないホテルのオーナーさんは、それでもギクシャクしながら、応接室でお茶とお菓子を出してくれました。


 ホテルとしては、夏休み前の今の季節、一番お客さんが減るらしくて、通常はこの時期に大々的なホテルの清掃やリフォームなんかを始めちゃったりするそうなので、学生の合宿の予約は入れないようにしていたそうなのです。


 いつもは受け付けない時期に、聖上大学演劇サークルの合宿が始まり、オーナーさんは大騒ぎして襖を蹴破らないことを祈りながら学生さんたちを受け入れていたそうなのです。


 小さな舞台を設けた大宴会場を作って、お客さんを集客するホテルが多い中、熊埜御堂ホテルは本格的な劇場をホテルの敷地内に併設して、ホテルの宿泊客だけでなく外から来るお客さんも楽しめるように、舞台の年間スケジュールを組んでいるのだそうです。


 丁度、劇場自体に何の予定も入っていないため、演劇サークルは稽古をするために劇場の舞台をレンタルすることが出来たのだそうです。驚くほど格安でレンタル出来るため、稽古目的で宿泊する劇団の人なんかもとても多いのだそうです。


「そんな訳で、昨日の夜に不審者が現れて、学生さんの一人が怪我をしたんだけど、その時のショックで気を失った生徒のことを心配して、健吾さんはここまで飛んで来てくれたってことなのかい?」


 社長さんは昨夜、オーナーさんの奥さんと直接電話でお話ししたそうなのですが、不審者騒動が起こった後だったので、怪我をした邦斗先輩や、萌依子先輩の話題が出たそうなのです。


「省吾くんは『魂抜き』の話を誰かから聞いたことはないかい?」

「『魂抜き』というと、お仏壇を処分するときにやってもらうあれですか?」

「いや、そうじゃないんだよ」


 通常、お墓や位牌、お仏壇を使う時には、檀家となっているお寺の僧侶さんを呼んで魂を入れてもらうんですが、お墓を移動したり、位牌やお仏壇を処分するなんて時には、僧侶さんに魂を抜いてもらってただの物にしてから処分する慣わしがあるわけです。


 『魂抜き』というと、大概はそれを想像するんですけど、この地方では、山の主様の生贄となってしまった人たちのことを『魂抜き』されたって言うみたいなんですね。


 生贄文化が残されていた風土だけに、贄となる魂を求める現象が起きた時には注意しろという言い伝えが残されていたみたいなんですけど、ホテルのオーナーさんは何も知らないような様子で、首を横に振っていました。


「うちは元々、分家から繰り上がったようなものですし、本家の跡を継いだ父も、過去の風習についてはあまりに気にしないようにしていたんです。過去の因縁を断ち切りたいと思ったんでしょうね。吾郎くんの事件もありましたし、なんていうか、スピリチュアル的なものに対して嫌悪する風潮にあったので、僕も特には気にしないようにしてしまったというか・・」


 スピリチュアル的なものに対して嫌悪していたというのに、霊障が百パーセント起こるホテルとして有名になるだなんて、なんという皮肉な話なんですかね。


「多分、気にしないという姿勢がかえって良かったんだと思いますよ」

 フランケンシュタインのマスクをかぶった先輩は、貧乏ゆすりをしながら言いました。


「これがスピリチュアル大好きで、色々と気にする繊細なタイプだったら、引きずられるような形で二人や三人、人がお亡くなりになっているんじゃないかなと思いますし」


 お亡くなりって只事じゃないですね。


「ここって、多くの霊が集まる吹き溜まりのような場所になっているというのに、何か、巨大な力が作用して、清浄な空気が流れているんです。だから、今まで警察を呼ぶなんていう事件が起きずに済んだ訳ですし、幽霊が見えると言っても悪さをする訳じゃないからリピートする宿泊客も多いんです」


「先輩!立派な霊探偵みたいなことを言っていますけど、大丈夫ですか?かなり追い詰められていないですか?」


「かなり追い詰められているよ」


 幽霊が大嫌いな先輩が、自ら幽霊について物申し始めたら、それはよっぽど追い詰められていることを意味しています。


「とにかく、失神した生徒のところに行こうか」

「はい?」

「そこは君に解決してもらいたい」


 先輩のいきなりの丸投げに、私が思わず絶句をしていると、

「それではご案内しますね!」

 と、笑顔でオーナーさんが立ち上がったのだった。


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