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屍の声  作者: もちづき裕
屍の声
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第十五話  おかっぱの幽霊

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 狩野悠人は幽霊を見た、生まれてはじめて幽霊を見た。

 生垣の下から伸びるのは女性の手で、肘から先の手が、何かを探すような形で動いていたわけだ。


「う・・わぁあああああ!」


 赤峰玲央の突撃は凄かった、奴は頭がおかしいんだと思う。

 幽霊の手が引っ込んだのにも構わず、生垣の後ろ側に周り、果ては生垣の中に手を突っ込んで誰か潜んでいないかの確認作業まで行ったのだ。


 どうやらそこで、赤峰は幽霊がきっちりご対面をすることになったがために悲鳴があがり、その悲鳴が伝播してパニックを引き起こし、演劇サークル部員一同は全速力で走りながらホテルのロビーへと駆け込んだのだった。


 普通、ホテルで百パーセント心霊現象が起こることになったら、経営状況がガッタガタになりそうなものなのだけれど、温泉も良かったし、食事も美味しかったし、また来ても良いかなと思ってしまうのは、

「清めのお茶をここに置いておきますから、いつでも飲みに来て良いですよ」

と言ってにこりと笑う、ダンディなホテルのオーナーの人柄もあるのかもしれない。


 お茶だけでなく、甘いお菓子も振舞われて、恐怖で縮こまっていた心がどんどんと広がっていくなか、

「それじゃあ、温泉にでも入ろうか」

なんてことをみんなで言い出したタイミングで、

『キャーーーーーーーーー―ッ!』

 たまぎるような悲鳴が響き渡ったのだ。


「何かあったんでしょうか?」

 フロントから出て来たオーナーが悲鳴がした方へ向かおうとするので、狩野は部員にこの場で待機するように命じることにした。


「悲鳴の主がうちのサークルの部員とも限らないから、とりあえず部長の僕が行ってくる。赤峰だけ僕について来て!」


 赤峰は幽霊にも突撃できる男なのだ。何かがあれば赤峰を犠牲にして逃げ出そう。そんなことを考えながら狩野部長がオーナーの後をついて行くと、扉が開け放たれたままの貸切露天風呂の脱衣所の方から、

「萌依子・・萌依子!」

 という、陸守邦斗の悲痛な声が聞こえてきた。


「うっわ〜」


 狭い脱衣所の壁には真っ赤な血の飛沫が飛び散っており、その血液が飛び散った壁を背にして、倒れた立仙萌依子を邦斗が抱えるようにして抱きしめている。


 萌依子の顔は青を通り越して白くなり、ぐったりとした様子で目を閉じていた。


「まさか・・ここに来て金田一展開?」

 赤峰がそんなことを言い出した為、思わず部長の狩野悠人は自分の頭を抱えて唸り声をあげてしまった。


 幽霊だけでもお腹がいっぱいだというのに、間髪入れずに金田一展開。先ほど、佐川由希が冗談半分で言っていた展開ということだろうか。兄の恋人である萌依子に嫉妬した絢女が、萌依子を刺し殺してしまったのか?もう、犯人が誰だか分かっているぞ!それでいいのか!金田一展開!


「じっちゃんの名にかける前に、すでに犯人、誰だか分かっているじゃねえかよ」

 赤峰が思わず呟くと、ハッと顔をあげた邦斗が、

「犯人が分かっているのか?」

 と、言い出したのだった。


「君、そんなことよりも、腕の止血をしないと」


 見れば、邦斗の右手が血だらけとなっている。オーナーは、タオルを何枚も重ねて止血をしながら、

「とりあえず、死んでいるわけじゃないんだよね?」

と、邦斗の膝の上でぐったりとする萌依子を見下ろしながら言い出した。


「死んでないです!だけど、急に気を失ってしまって・・」


「それで?絢女が萌依子に嫉妬して、刺して殺そうとしたとかいう話じゃないの?お前たち兄妹で勝手にゴタゴタするのはいいけど、ホテルの人にまで迷惑かけんなよ」


 赤峰が至極真っ当なことを言っていると、邦斗は首をなん度も横に振りながら言い出した。


「俺と萌依子は一緒に露天風呂に入るために、途中で待ち合わせてここまでやって来たんだけど、ドアを開けたらこの脱衣所に、おかっぱの女の人がいたんだよ」

「おかっぱ?」


 清楚そのものの絢女の髪の毛は背中の中程までくるほど長いストレートだ。


「色白で、おかっぱで、黒のワンピースを着ていたんだけど、急に俺に抱いてくれとか言い出して」

「それは・・痴女か何かなのかな?」


「抱いてくれなきゃ殺すとか言い出して、ホテルに置いてある男性用の剃刀で切りかかってきて、萌依子を庇うと、女は俺に向かって切り付けて来たんだけど、その時、萌依子が悲鳴をあげたからその女も逃げ出して行ったんだ。そしたら、萌依子は萌依子で糸が切れたように気絶して、俺もうどうしたら良いのか分からなくなって・・」


「それで血だらけになっていたってわけか」


 部長の狩野は自分の髪の毛をぐちゃぐちゃに掻き回す。剃刀で切り付けられた傷だらけの邦斗の右腕、気を失ったまま目を覚さない萌依子、見たこともないおかっぱの痴女は逃亡中。


「おかっぱって・・本当におかっぱの女が剃刀で切り付けて来たんですか?」


 止血を行っていたホテルのオーナーの顔も真っ青で、微かにオーナーの体が震えていることに狩野も赤峰も気が付いていた。


「確かさぁ、このホテルに出てくる女の幽霊って、髪の毛がやたらと長い女性の霊とかじゃなくて、肩に付くか付かないか位の長さのおかっぱの女性って心霊サイトに書いてあったと思うんだけど〜」


「赤峰、今、そういう発言いらないから!」


「でもさあ、おかしくない?おかっぱの女の幽霊が剃刀で切り掛かって来たとして、抱いてくれ〜とか言っていたんだろ?それで、その幽霊は逃げたって言うけどさ、もしかして、誰かに憑依していたってこともありえんじゃねえ?」


 金田一展開で行くのなら、剃刀を振り回して切り掛かるとしたら、嫉妬で我を忘れた邦斗の妹、絢女が犯人の第一候補になるわけだ。見かけは幽霊、だけど中身は絢女だったとしたのなら、

「赤峰、今すぐ絢女を探して来てくれよ」

 その場にしゃがみこんでいた狩野は、赤嶺玲央を見上げながら言い出した。


「絢女だけじゃなく、うちの部員、全員の点呼を取って来てくれる?」

「OK!すぐに行ってくる!」

 そう答えると、赤峰はその場からすぐさま走り出したのだった。


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