第十三話 霊障百パーセント
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赤峰玲央は心霊動画が大好きだ。何が出てくるか分からないドキドキ感、演者の行動に反応するようにして起こるラップ音。
霊障が百パーセント起こると言われるホテルに来ているのだから、どんな恐ろしいことが起こるのだろうかと、ワクワクドキドキが止まらない。
昭和に建てられたというホテルの外観も堪らないし、色褪せた朱色の絨毯が敷き詰められたエントランスホールの錆びれ具合もとても良い。
ホテルに併設された劇場は流石にリフォームをしているようで、椅子も新しいものが並んでいるし、照明装置なども比較的新しいものが取り入れられていた。
照明や音響担当者は、劇場の舞台装置の確認作業にまわることになり、役者たちは台本の読み合わせを行うことになった。
今回、大学祭で行う演目は『オペラ座の怪人』となり、赤峰は金持ち侯爵役で舞台に立つことになるのだが、
「幽霊が現れないかな〜」
怪奇現象を求めて、ちっとも練習に集中出来ていないのだった。
ホテルには大浴場の他に貸切に出来る露天風呂が一つあり、三十分3千円のお値段で予約することが出来るのだ。サークル内で付き合っているカップルが大枚を払って予約をしている姿を見つけたけれど、赤峰玲央は色気よりも幽霊なのだ。
貸切露天風呂に幽霊が出るというのなら、3千円を払って予約をしても良いかもしれないけれど、口コミサイトで見る限り、ホテルの貸切露天風呂に幽霊が現れることはないらしい。
百パーセント幽霊が出るという熊埜御堂ホテルの幽霊がでるポイントは以下のようになっている。
①108号室の洗面所の鏡で、この鏡越しに写真を撮ると、幽霊が背中越しに撮影できるのだと言われている。
②女風呂の脱衣所、扇風機下の四角の隅に女の子の姿が見える。
③西館一階の一番奥の廊下へ行くと、幽霊に衣服を引っ張られることが多い。
④夜の十二時に劇場に行くと、鈴の音と一緒に、女の幽霊が現れる。
⑤ホテル前の庭園、竹林の奥にある小さな滝に向かって歩いていくと、鈴の音が聞こえてくる。鈴の音が鳴ると女の霊が現れる確率が高くなる。
⑥女の霊は、ホテルのオーナーの大叔母にあたる人の霊であり、庭園奥にある杉の木で首を括って死んだ過去がある。この霊に足を掴まれた人は、高熱を発した後、死ぬ。
「死ぬってなんなの!死ぬって!物騒にも程があるでしょう!」
部長の狩野は幽霊が出るポイントをチェックしながら絶句した。
「ただでさえ、劇場付きホテルで演劇サークルの合宿ときたら、金田一展開が起こりそうで、さっきから胃がキリキリ痛むっていうのに、足を掴まれたら死ぬ?もう!勘弁してくれよ!」
外に出ていられるのは夜の十時まで。十時を越えたらエントランスを施錠されてしまうため、その前に肝試しをしようと希望者を集めて外に出て来たのだが、責任者であり部長である狩野悠人の言葉を聞いて、周りがザワザワと騒めきだした。
「そういえばそうだよね、劇場付きのホテルで大学の演劇サークルが合宿をしていると、人が次々と殺されるみたいなの金田一のあるある展開じゃない?」
「俺もそんなん読んだことあるわ〜、過去に、誰かの妹を虐めて嬲りものにして、結果、復讐されるんだよな?おーい、悪いことした奴〜、今のうちに表明しておいた方がいいぞ〜」
「蒼学だったらそういう話もありそうだけど、聖学じゃ無理じゃない?だって、生徒が地味で真面目な奴ばっかりだもん」
「そうね、チャラチャラした奴がやたらと多い蒼学の演劇サークルだったら、金田一展開も発生すると思うけど、うちじゃ無理かも」
聖上大学は、私立の割には学費が安く学費が安い割には教師陣のレベルが高いということで有名で、その後の就職も困らないとか何とかで、やたらと偏差値が高いことでも有名な大学でもあるのだ。
公務員になるなら聖上と言われるくらいだから、とにかく地味で真面目な生徒がやたらと多い。誰かの元恋人を虐めてとか、誰かの元婚約者を辱めてとか、そういう事案が発生しなさそうに見えるのだ。
「もしも金田一展開が発生するのなら、萌依子さんあたり殺されそうじゃないですか?」
ここで空気を全く読まないのが、小道具担当の佐川由希なのだ。
「兄を独占する萌依子さんに異常な嫉妬をした絢女さんが、思い余って殺害。妹が大好きな邦斗くんは犯罪がバレないようにするために、萌依子さんの遺体をホテルの何処かに隠してしまうんですよ」
「「「ありそ〜」」」
良くありがちな展開過ぎて、みんなで合唱しているけれど、赤峰はふっと周りを見回しながら言い出した。
「そういえば、邦斗と絢女兄妹は?」
肝試しに来ているのは男8名、女4名、邦斗と絢女の姿は見えない。
「ホテルのロビーに二人でいましたよ?」
由希は小さく肩をすくめながら言い出した。
「絢女さん、私が言った言葉に深く傷ついたんですって。それで、お兄ちゃんが慰め続けている感じですね」
結局ここまで来ても、あの兄妹は二人一緒に過ごしているのだ。
そんな二人の様子を見ても、なんだかんだ言って癇癪は絶対に起こさない立仙萌依子は偉い!と、赤峰は思っている。
「佐川さん、僕も5歳離れた妹が居るから良くわかるんだけど、どうしても妹、弟の面倒をみなくちゃならないって時もあるし、親に頼まれたらどうしようもないってこともあるんだよね」
部長の狩野が珍しく真面目な顔をして言い出した。
「家族にはそれぞれ色々とあるとは思うんだけど、そこで、実の兄妹なのに肉体関係があるとか何とか言い出すのは失礼だよ。僕がそんなことを言われたら、凄くショックだし、その失礼な発言に物凄い怒りを感じると思うよ」
狩野部長の真面目発言に、蒼学生徒だったら、
「お前っ、真面目にも程があるだろう〜!空気悪くすんなよな〜!」
くらいのことは言い出すのだろうが、何しろ集まっているのが聖学生徒である。
「部長、ごめんなさい」
周りは何も言わず、佐川由希が真面目に頭を下げて謝ると、
『チリーン チリーン』
という鈴の音が響きだしたのだった。
「え・・」
「うそ・・」
「そういえばさっき、鈴の音がすると女の霊が現れる確率が高くなるって言っていたよね?」
そうなのだ、金田一展開が完璧に起こりそうなシチュエーションとなる熊埜御堂ホテルは、殺人事件が百パーセント起こるホテルではなく、霊障が百パーセント起こるホテルとして有名なのだ。
「ちょっと待って、ちょっと待って、ちょっと待って」
「嘘でしょう!ねえ!嘘でしょう!」
「あの木の下!見て!木の下!」
ホテルの前には風光明媚な日本庭園が広がっているのだが、ツツジが咲き乱れる生垣の下、土が少しえぐれたその場所から、女性と思われる人の手が伸びていたのだ。
「う・・わぁあああああ!」
赤峰は走った、伸びている手を見るなり走った。一瞬、躊躇をしてしまったけれど、挽回するように全力で走った。
すると女の手はひゅっと生垣の下に引っ込んだ為、生垣に突っ込みながら、その後ろ側を確認する。その日は月明かりが庭園を照らしていた為、そこに誰も居ないことはすぐに確認することが出来た。
「何処だ!何処だ!何処だ!」
生垣の後ろには居ない、だとするのなら生垣の中も一応確認しなければならない。
「赤峰!お前正気か!」
「気狂いにも程があるだろう!」
誰かが呆れた声をあげているけど知ったことではない。最近では、はっきり見え過ぎる幽霊は異次元から現れているんじゃないかとかそんなことを言われているので、もしも異次元の入り口というものがあるのなら生垣の中にまだ残っている可能性もあるわけだ。
赤峰が早速、ポケットから小型の懐中電灯を出して生垣の中を照らしてみると、黒目をぎらり光らせた女が口を大きく開けながら、こちらを睨みつけて来たのだった。
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