第三十八話
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殺害を犯した犯人というわけではないので、僕も勇さんも夜には警察から解放されることになったんだけど、
「詞之久居島から遺体が発見されるだなんて・・」
さすがの勇さんもショックを隠せない様子だった。
実際には僕も勇さんも昨夜は祠の方まで行っていないし、祠の周囲がどうなっているかなんて知らなかったんだけど・・
「今年の台風の影響で土がえぐれてしまったからなのか」
「誰も島になんか入らないから、今まで気が付くことが出来なかったんだな」
どうやら祠の周囲の土が抉れるような形になっていて、土に埋まっていたご遺体の一部が露出しているような状態だったみたい。
「遺体は見えるような状態じゃなかったじゃないか!」
と、警察に問い詰められたら、
「その時は見えたんです、恐らく女性の無念が霊体となって現れたんじゃないですかね?」
と、言ってとぼけるつもりだったのに、その必要は無くなったみたいだね。
こうして警察署から勇さんの家へと戻ることになったんだけど、勇さんの家では勇さんの奥さんがカレーを用意していて、
「大変だったわね〜!お腹空いたでしょう〜?ご飯を用意したから食べなさーい」
不運な息子を出迎える母のように出迎えてくれたってわけさ。
「先輩、おかえりなさい」
勇さんの家の居間に行くと、天野さんがカレーを食べながら僕を見上げている。
巫女さんショックを乗り越えて天野さんが目を覚ましたのは良かったけど、
「うちの方にも刑事さんがやって来て大変だったのよ〜!」
勇さんの奥さんがカレーをテーブルの上に載せながら言い出した。
「昨日、詞之久居島に行ったようだから事情聴取をしたいってことだったんだけど、この娘ったら何も覚えていないような状態だったでしょう?」
「いや、俺も本当に驚いたよ。まさか本当に島の祠の近くから遺体が発見されるとは思わなかったもんなあ」
「挙句の果てには清さんたち四人組が死んじゃったでしょう?やっぱり菅原家の呪いって奴なのかしら〜?」
勇さんと奥さんはくるりと僕の方を見ると、二人揃って言い出したんだ。
「「神主の息子なら見えない何かが分かるってこと(かしら)?」」
「ああー〜」
とにかく腹が減ったので用意してくれたカレーを食べながら、僕は今回巻き込まれることになった勇さんご夫妻に詳しい説明をすることにしたんだ。
「これは江戸時代の話になるんですけど、辰野家は代々神職として詞之久居島の管理を任されていたんです。元々この地は女神信仰というのか、女性の神を尊ぶところがあったので、稲田の神であり素戔嗚尊の妻である櫛名田比売が祀られていたんです」
僕は顔立ちがやたらとはっきりしている勇さんの奥さんを見て思ったんだ、この人もご先祖さまは辰野家にゆかりがあるのに違いない。
「辰野家には代々それは美しい巫女が生まれ女神信仰の象徴のような存在になっていたわけですが、この巫女様に懸想をしたのが代官として赴任してきた菅原家の若様だったんです」
急に自分のご先祖さまの話になったので、勇さんも奥さんもキョトンとした表情を浮かべているんだけど、二人は黙って話の続きを聞くことにしたみたい。
「若様は巫女様を自分の妻として迎えるつもりでいたんですが、巫女様は絶対に妻にはなりたくなかった。辰野家の巫女は信仰の象徴だから生涯独身を貫くことになっていたし、そもそも菅原家の若様のことが嫌いだった。そうして最終的にはどうなったかというと、自分の思い通りにならない巫女様を殺してしまった若様は、詞之久居島を神聖なる場所とは程遠い悪しき場所にしようと考えた」
こうして風待ち港として非常に利用しやすい場所にあった詞之久居島が利用されていった歴史を説明すると、
「それじゃあ島で見つかった複数の女性の遺体の中には、江戸時代の末期に女郎として連れて来られた人の遺体もあったってことなのかしら?」
と、勇さんの奥さんが問いかけて来たので、僕は大きく頷いた。
「日本でも人魚伝説が数多く残されているんですけど、特に詞之久居町の近海では人魚の目撃例が多かったんじゃないんですか?」
「確かに・・俺は今まで見たことはなかったんだが・・」
腹から下が魚で上半身が女性の真っ黒な髪の毛をした気味が悪い姿を目撃する人は多かったようなんだ。
「漁師仲間のうちでは暗黙の了解というか、見なかったことにしないと大変なことになるとも言われていたんだけど、まさか本当に存在するとはなあ・・」
「見なかったことにしたのは正解ですよ」
何せ怨霊の塊みたいなものだもの。
ご遺体も発見されたことだし、きちんと供養を行なって成仏してくれると良いのだが。
「それにしたって人魚が浜辺の近くまでやって来るんだもんなあ、あの時は夢でも見ているのかと思ったんだが」
「いや、本当に恐ろしかったですよ」
その後にポセイドンではなくデイダラボッチが現れたことにも驚いたけど。
そこで天野さんが眉を顰めながら言い出したんだ。
「人魚がいるって本気で言っているんですか?」
変人でも見るような眼差しで天野さんが僕のことを見てるのだが、その人魚を一発で灰にして消滅させた人が何を言っているのだろうか?
「そうよねえ」
そこで真剣に僕らの話を聞いていた勇さんの奥さんまで言い出したんだ。
「ファンタジー映画じゃあるまいし、人魚がこの世に居るわけがないじゃない」
僕と勇さんは顔と顔を見合わせた後に訴えた。
「「いやいや!本当にいるんだって!」」
天野さんと奥さんは、胡散臭いものでも見るような眼差しで僕らのことを見ているんだけど、
『ピンポーン』
玄関の呼び鈴が響くのと同時に、
「すみませーん!漁業組合の者なんですけど!勇さんはご在宅ですかー?」
外からやけに野太い男の人の声が響いて来たんだ。
今度は海に移動した霊能力者二人のドタバタ劇をお送りしたいと思います!!
もし宜しければ
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