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屍の声  作者: もちづき裕
船の謳
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第三十五話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 浜辺で蹲るようにして眠ってしまった天野さんが起きることはなく、僕は天野さんを担いで戻ることになったんだ。本当は勇さんと協力して運べたら良かったんだけど、

『そ・ん・な・こ・と・で・き・な・い』

 ちょっと照れながら口パクで訴える勇さんは何を考えているのだろうか?おじさんが意識がない女子大生に触れるのは罪深いとでも考えているのか?


 急にフェミニスト・・と、思ったものの今の詞之久居島は何が起こるか分からないところがあるから、勇さんにはいつでも対応できるようにしておいて貰った方が良いのかもしれない。


 こうして僕らは船に乗って港に戻ったんだけど、港には町おこし反対派のおじさん数人がまだ残っているような状態で、

『勇さん、俺たち本当に大丈夫なんだよな?』

『また呪いとか何とかいう話にはならないよな?』

 おじさんたちは携帯のメモ画面に記した文字を僕たちに見せながら無言で訴えて来たんだけど、天野さんを抱えたままの僕はため息を吐き出しながら言ったんだ。

「もう、声を出しても大丈夫ですよ」

 船から降りた僕は天野さんをおぶっているのだが、人は意識を失うと本当の本当に重く感じるよね。

「それと、呪いはまだ残っています」

 おじさんたちはヒィイイイッと揃って変な声を上げているんだけど、

「明日になったら分かりますよ」

 と言って僕は怯えるおじさんたちを置いて、勇さんの車に向かって歩き出したんだ。


 追いかけて来るおじさんたちを無視して僕らは車に乗り込んだんだけど、車のエンジンをかけた勇さんが、

「あ、明日の朝ごはんどうしよう」

 と、言い出したんだ。

「米はあるからお茶漬け程度だったら用意できるんだけど、パンが良かったらコンビニまで行って買って来なくちゃいけないな」

 僕らを追いかけて来たおじさんたちが、まるで生存者に群がるゾンビのように車の窓を叩いているというのに、勇さんったら朝ごはんの心配かよ。


「もしかして僕らの朝ごはんを心配しているんなら必要ないですよ?」

 僕は運転席の方に前のめりになりながら言ったんだ。

「僕ら、元々民宿に泊まる予定ですし、お金まで払っているんですよ。町おこし反対派がやって来て逃げ出すことにはなりましたけど、荷物は置きっぱなしだし、朝ごはんくらい用意してくれるんじゃないですかね?」


「うーん」

 勇さんは腕時計を見ながら言い出したんだ。

「驚くべきことにすでに深夜一時を過ぎている」

「え?」

 スマホに表示される時間を確認すると、確かに夜中の一時を過ぎているよ!

「あそこの民宿、夜の十時を過ぎたら施錠されちゃって出入りが出来なくなるんだよな」

「夜の十時!門限の説明なんか受けていないんですけど?」

「とにかく今日はうちに泊まるしかないと思うんだけど、お茶漬けかコンビニで買って来たパンか、玉津くんはどっちが良い?」

 外から名前を呼んでくるゾンビのような顔色のおじさんたちのことは丸ごと無視した勇さんが問いかけて来たため、

「すみません、お茶漬けで大丈夫です」

 と、僕は答えたんだ。


 こうして僕らは再び勇さんの家へと戻って来ることになったんだけど、

「あ、ちょっと待って、ちょっと待って」

 家に入る前に勇さんが僕らに清めの塩をかけてくれたんだ。

「玉津くんがまだ呪いが残っているとか言うから形ばかりのことだけどね」

 そう言って自分自身も浴びるように塩をかけると、玄関の扉を開けながら、

「湯船を溜めるのが面倒だからシャワーで良いかな?」

 と、言い出したんだ。


 ついさっき、高さで言うなら七階建てのビル級のとんでもない物を見たというのに冷静そのものにしか見えない勇さんだけど、仏間にお客さん用の布団を敷こうとしたところで、

「ああ!!!」

 急に慌てて言い出したんだ。

「きっちり神渡りの準備をしたというのに、俺、島の祠まで行ってないよ!」

 あんな状態で島の内部にある祠まで行けるわけがないだろうと思いながらも、

「大丈夫ですよ、数日中に嫌でも行くことになりますから」

 と、僕は言ったんだ。

「しかも警察同伴で行くと思います」

「警察〜!」

 勇さんは視線を左右に彷徨わせた末に、首をブルブルッと横に振って考えることをやめたみたいだ。


 こうしてお客さん用の布団を敷いた僕らは天野さんを移動させたんだけど、

「玉津くん、パジャマを貸すからシャワー浴びてきたら?」

 勇さんにTシャツと短パンを借りて、とりあえず体を洗い流して来ることになったんだ。


 勇さんは風呂上がりの冷たい麦茶を用意してくれたんだけど、本当に、驚くほど親切な人だよ。

「ありがとうございます!」

 僕が麦茶を飲んでいる間に勇さんはシャワーを浴びに行ってしまったんだけど、急速に眠気が僕を襲って来たわけだ。


 それもそのはず、まだ日も昇らない早朝に天野さんの家を出発し、電車を7回乗り換えて波羽美町に移動してから、車で詞之久居町に移動し、町おこし反対派から逃げ回りながら最終的に島の怨霊までお祓いしているんだもの。

「もう無理・・もう無理だよ・・」

 独り言を呟きながら仏間へと移動した僕は布団に横になるなり、泥のように眠っちゃったんだけど民宿に払った6万円はどうなったんだとか考えている余裕はゼロ。ここまで眠りっぱなしの天野さんの心配をしている余裕もなく、僕はぐっすりと眠っていたわけなんだけど・・


「玉津君・・玉津君・・」

 勇さんが僕の肩をポンポン叩きながら起こして来た。

「え・・うーん・・」

「玉津君・・玉津君・・」

「はっ・・あー」

 ぐずぐずしていても勇さんは諦めることなく僕の肩を叩き続けるので、僕はむっくりと起き上がることにしたんだけれども、

「玉津君、実は今、警察が家に来ているんだよ」

 勇さんの言葉でパチッと目が覚めることになったんだ。


「え?なんで警察?」

「茂さん、ほら、詞之久居島で海にドボンッと落ちることになった人だけど、朝になってから警察に駆け込むことになったみたいで」

「僕らがおじさんを海に突き落とした訳でもないのに、何で警察がここに来ることになったんですか?」

 訳が分からないんだけど!


「いや、これは警察の人が言うことなんだけど・・」

 勇さんは生唾をごくりと呑み込みながら言い出した。

「死んじゃったんだって」

「はい?」

「清さんとそのお仲間と言われる面々が朝には死んじゃっていたんだって」

「はい、はい?」

「それで恐怖に駆られた茂さんが警察に駆け込んで『聖上大学の学生さんが〜!』と、言い続けているもんだからうちに警察が来たみたいで」

「うー〜ん」

 とりあえず古代の巫女様のおかげで僕の呪いは解消されることになったというのに、

「僕、ちょっとヤバいことになっているってことですか?」

 相変わらず窮地に陥り続けるのは何故なんだ?


今度は海に移動した霊能力者二人のドタバタ劇をお送りしたいと思います!!

もし宜しければ

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