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屍の声  作者: もちづき裕
船の謳
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第三十四話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 デイダラボッチを乗せた小舟はまるでジェットエンジンを積んで進んでいるみたいなスピードで波間を移動して行ってしまったんだけど、

『声出し危険!ここで声を出したら戻って来るかもしれません!』

 僕は急いで携帯のメモ画面に記した文面を見せながら人差し指を口元に押し当てたんだ。


 今昔物語の第13巻に記されているんだけど、天王寺の僧侶道公が熊野への参詣の帰途、紀伊国の海岸にある大樹の下で道祖神に出会って、

「私はこの身を捨てて補陀落山に生まれ変わり、観音の眷属として菩薩の位に昇ろうとしています。この真偽を知りたければ小さい船を作って私の木造を作って乗せて海に浮かべてどうなるかご覧ください」

 と言われることになった為、言葉通りに船に道祖神の像を乗せて海に浮かべたところ、波も風もないのに船は南に向かって去って行ったとされているんだよね。


『今回の場合、下手すると戻って来る可能性あり!』

 僕は携帯のメモ画面を見せながら!

『だから声は出さないで!』

 必死に訴え続けると町おこし反対派のおじさんたちも黙り込んだまま何度も頷いた。このまま穏便に済ませることが出来るのか?


 僕が波間に消えていった小舟が進んで行った方向を眺めていると、

「う・・!うわ!・・!!?!!」

 デイダラボッチによって海にドボンと落ちたはずのおじさんが、波に押しやられるようにして浜辺に打ち上げられながら声を上げている!

 慌てて走り出した僕らは浜辺に転がるずぶ濡れのおじさんの口を押さえつけ、口元に人差し指を当てて黙れ!黙れ!と必死になって訴えたんだ。


 町おこしに賛成とか反対とか、もはやそんなことは関係ない。

 尋常ならざる存在を全員で目にしたし、その脅威を実際に肌で感じ取っているものだから、全員が全員、唇を噛み締めるようにして黙り込む。


 詞之久居町役場の地域振興課に勤める中村さんと佐藤さんに連れられて僕と天野さんが詞之久居町にやって来て以降、

「聖上大学の学生は何処に行った〜!」

 と、悪い子を探すナマハゲ状態で僕らを追い続けて来たおじさんたちは、すっかり毒気を抜かれた様子で僕に視線を送り続けるんだ。


 昭和の大火災以降立ち入り禁止状態になっていた詞之久居島にやって来た僕らだけれど、そこに居たのはビルに例えるなら7階相当分の巨大なデイダラボッチで、そいつが災厄と言えるほどのとんでもない存在だということはおじさんたちも理解しているのだろう。


 この中のリーダー的存在に見えるおじさんの体にはデイダラボッチの体液がボタボタと落ちていて、そのおじさんの近くに居る三人のおじさんたちの体にも体液が染み込んでいるんだ。

「「「「・・・・」」」」

 その他大勢のおじさんたちが怯えるように悪臭を放つ四人のおじさんたちから離れているんだけど、そこで勇さんが僕のことを肘で突つきながら、口パクで僕に訴え出したんだ。

『こ・れ・か・ら・ど・う・す・る?』

 夜空には銀色の月が煌々と輝いているため、勇さんの口パクがそれは良く見えるんだ。海は相変わらず月光を浴びてキラキラと輝いているし、天野さんは相変わらず蹲るようにして寝ているし・・

『とにかく今日は帰りましょう』

 僕は携帯のメモ画面を勇さんだけでなくおじさんたちにも見せながら訴えた。

『この島についてはまだまだやることがあるんですけど、とりあえず今日は一旦、戻りましょう』

 文面を覗き込むようにして確認していた、やたらと恰幅の良い悪臭を放つおじさんが・・この人が漁業組合のボスと呼ばれる人なんだろうなと考えていると、ボスは自分のスマートホンを取り出してメモ画面に文面を記しながら僕の方に見せて来たわけだ。


『今回のことはきちんと説明してくれるんだろうな?』

 おじさんは再びメモ画面に文面を記しだす。

『お前らは禁忌を犯したんだ』

『絶対に呪われるぞ』

『間違いを犯したお前らには天罰が下るだろう』

 おじさんの携帯の画面を見下ろしたその他大勢のおじさんたちが壊れたおもちゃのようにコクコクと頷きだしているんだけど、

『僕が呪われるわけがないでしょう?』

 僕はメモ画面をおじさんたちに掲げながら訴えた。


 本当はとっくの昔に呪われていたし、危うく巨大なデイダラボッチに連れて行かれるところだったんだけど、古代の巫女様のおかげでことなきを得た僕だもの。

『呪われているのはおじさんたちでしょう?』

 僕はデイダラボッチの体液を受けた四人のおじさんたちを指差しながら訴えた。

『自分でも分かっているくせに』

 一番偉そうなおじさんは自分のスマホを砂浜に投げつけると怒りを抑えつけるように何度も肩で息をして、最終的には自分のスマホ拾い上げて埠頭の方へと戻って行ってしまったんだ。


 こうして島まで追いかけてきた町おこし反対派は足をもつれさせ、よろめきながら帰って行ってしまったんだけど、僕はおじさんたちを見送りもせず、今まで放置し続けてしまった砂浜で寝こける天野さんを回収するために移動する。そこで勇さんが僕の肩を指でツンツンと突ついて、

『こ・れ・か・ら・ど・う・す・る・の?』

 と、口パクをしている。僕は勇さんに携帯のメモ画面を見せながら訴えた。

『勇さん、スマホはどうしたんですか?』

 勇さんは満点の星が浮かぶ夜空を見上げた後、僕の方を見て、

『ワ・ス・レ・タ』

 と、口パクをしている。


今度は海に移動した霊能力者二人のドタバタ劇をお送りしたいと思います!!

もし宜しければ

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