第三十三話
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デイダラボッチとは日本各地に伝承が残る巨人の妖怪のことで、有名な話をあげるとするのなら、天にも手が届くほど大きな巨人が砂遊びの後片付けを怠ったために出来たのが今の琵琶湖だと言われているし、巨大な山を築きたいと考えたデイダラボッチが近江から掻き集めた土を駿河へ運んで作ったものが富士山だと言われている。
全国各地にデイダラボッチの足跡と呼ばれる場所が残されているし、神話や昔話の中にも登場することが多いんだけれども、
「デイダラボッチだあ〜」
尻餅を付いたおじさんの驚きの声を聞いて、それ以外のおじさんたちも森の方を見上げることになったんだけど、
「「「・・!・・!!・・!!!」」」
僕と勇さんが人差し指を口元に立てて、黙れ!黙れ!と、訴えているため何とか叫び声を上げずにいるようだ。
ちなみに「デイタラボッチだあ〜」と声をあげたおじさんは巨大な何かに摘まみ上げられ、空に浮かびあがり、海に放り投げられてしまったんだ。一人の小太りのおじさんが尋常ならざる存在によってドボンと海に落ちてしまったわけだから、さすがの町おこし反対派も顔色が真っ白になっている。
僕は蹲るようにして倒れ込んでいる天野さんの元まで走っていって彼女の顔を覗き込んだんだけど、
「スウ・・スウ・・スウ・・」
天野さんは健やかな寝息を立てている。うん、うん。今回も巫女様は中途半端なところでお仕事を終了にしたんだな。二度目にもなると人間、あんまり驚かなくなるんだ。
ビルの高さで言えば7階分くらいの漆黒で巨大な何かは背伸びをするように夜空に伸び上がり、何かを眺めるような素振りをしているんだけど、そのままそいつが夜空に吸い込まれていきましたという展開になるわけがないことを僕は知っている。
このデイダラボッチを見上げた町おこし反対派のおじさんたちは、視線を釘付けにしたままガタガタと震え上がっているのがよく分かる。
こうして強制的に古代の巫女様からバトンを渡されることになった僕がここは何とかしなければならないんだろうけど、心臓がバクバクし過ぎて口から飛び出して来そうだよ。
落ち着け、落ち着け。
僕は自分の頭を抱えながら必死に考えたんだ。
いつもだったらかぶっているはずのスケキヨすらない状態で・・あれ?スケキヨは本当に一緒じゃなかったか?
さっきあまりの恐怖と気持ち悪さで嘔吐して、結局、かぶっているのをやめたスケキヨは近くの何処かに絶対にあるはずだし、ゾンビと一緒にもう一枚、予備のスケキヨが天野さんが持って来たボストンバックにあったはず。
鬱蒼と生い茂る森から現れた漆黒のデイダラボッチは一定の方角に顔を向けているんだけど、有名なあの映画のようにデイダラボッチの頭を取ったわけでもなければ、大切な頭を船に乗せて運んでいるわけでもないんだよ。
落ち着け、落ち着け。
今は7月盆の翌日で、お盆はご先祖の霊をお迎えしてお送りする大切な行事だよ。お盆の翌日に海に入ると霊に連れて行かれるという言い伝えが全国各地に残されているんだけど、
「仏教とは関係ないからなあ」
ふいに勇さんの言葉が思い浮かんだけど、そうじゃない、そうじゃない。
僕は天野さんと勇さんのちょうど中間あたりに落ちていたスケキヨマスクを小走りになりながら拾い上げると、腐った魚やらカニやらエビが盛られた竹の船の近くに置かれたボストンバックの方まで音を立てないように気を付けながら移動をしたんだ。
ゆっくり、ゆっくりとボストンバックのファスナーを動かしていくと、ゾンビマスクと一緒にあぱっとねえ祭りで使用する呪いの船が現れた。船の下には予備のスケキヨマスクがくちゃくちゃの状態になっていて、それらを取り出した僕は海辺の方へと走り出す。
観音菩薩の浄土である補陀落山への往生を願って海上へ船出させる為には、なんて丁度良いサイズの船なのでしょう。天野さんの家に行った際に唐突に現れた船はあぱっとねえ祭りで使われている木製の船にしか見えないのだが、この時のために用意されたものに違いない。
僕は船の中に呪文入りのスケキヨマスクをちぎりながら詰め込んでいたんだけど、そんな僕の周りに勇さんだけでなく町おこし反対派のおじさんたちまで集まり出している。
「祓え給い、清め給え、神ながら守り給い、幸い給え!」
僕は森の中から顔を出している巨大な何かに背を向けたまま、スケキヨの上にライターのオイルを振り掛けながら大声を上げたんだ。
「祓え給い、清め給え、神ながら守り給い、幸い給え!」
とっても原始的で簡単な祝詞を唱えながら勇さんの方を見ると、勇さんは大声を上げた。
「祓え給い、清め給え、神ながら守り給い、幸い給え!」
僕の目の前では純白のスケキヨがメラメラと燃え出したんだけど、その神々しい炎を眺めながら町おこし反対派のおじさんたちも、
「「「「「祓え給い、清め給え、神ながら守り給い、幸い給え!」」」」」
必死になって唱え出したんだ。
僕はスケキヨマスクが燃え上がる木製の船をゆっくり海に浮かべると、天を突くように伸び上がった漆黒のそいつは燃え上がる船の中へと尋常ではない勢いで滑り込むようにして収まっていく。
「「「「「祓え給い、清め給え、神ながら守り給い、幸い給え!」」」」」
デイダラボッチが完全に小さな船の中へと潜り込むまでの間、ボタボタと漆黒の体液が落ちて行ったし、その体液の何滴かは町おこし反対派のおじさんたちの体に落ちていくのが見えたんだけど、
「祓え給い、清め給え、神ながら守り給い、幸い給え!」
これほど必死に祝詞を上げたのは初めてかもしれないよ!
頼む!頼む!僕の方には落ちないでくれ〜!お願いだあ〜!
僕は必死に願い続けていたところ海に浮かぶ燃える船は南に向かって、波を切るようにして進み出したんだ。
今度は海に移動した霊能力者二人のドタバタ劇をお送りしたいと思います!!
もし宜しければ
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