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屍の声  作者: もちづき裕
船の謳
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第二十九話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 神渡りと言うと、

「何ですかそれ?激スピ系の話?」

 と、天野さんあたりは考えていそうだけど、祭礼などの神事の一つになるし、神体や神霊を船に乗せて川や海を渡す『船渡御』というものは全国各地で行われていたりするわけさ。

 有名なところで言えば大阪市北区で行われる天神祭で、神霊を乗せた御鳳輦奉安船に、お囃子をする船や無数の供奉船が天神橋のたもとから出航する姿は圧巻だと言えるだろう。


 福岡県宗像市で行われる『みあれ祭り』は海上渡御で、約二百隻の船団が宗像大島から七浦を巡る。宗像市ほど大きな規模ではないものの島国日本では各地で船に神輿を乗せた海上渡御が行われているんだから、詞之久居町で行われていたとしてもおかしい話ではないんだけど、僕は思わず勇さんに問いかけてしまったんだよね。

「今日が神渡りの日だということは分かりましたけど、本来なら7月盆に合わせて行うものだったんじゃないんですか?今日が神渡りの日だと言いながら、実は昨日やるべきだったのでは?」

「波羽美町のあぱっとねえ祭りは7月盆に行われるからそう思ったかもしれないんだが、そもそもお盆というのは仏教に由来しているものだろ?」

 確かにお盆は仏教の盂蘭盆会に由来する、先祖の霊を供養する日本の伝統的な行事だよ。


「詞之久居の神渡りは白鷺が関係をするから仏教とは関係ないんだよな」

 そうだよね、仏教とは関係ないみたいだよね。

「先輩、それでこれから神事を行うってことですけど」

 そこで天野さんが僕の方を見ながら言い出したんだ。

「日も暮れて暗くなってきちゃいましたし、島には先輩とおじさんで行ってもらうことにして、私はおじさんの家で待っているってことにしちゃまずいですかね?」


 今日はまだ日も昇らぬ早朝に天野さんの家を出発して、電車を乗り継いで波羽美町に到着し、そのまま詞之久居町役場に勤める中村さんと佐藤さんと合流し、その足で詞之久居町へと移動。

 その後、町おこしは絶対にしたくないというシンパから逃げ出すようにして町の歴史について詳しいおばあさんの所へ行ってみたところ、鉄壁の拒否のまま塩を撒かれ、本日宿泊予定の民宿に移動したものの、町おこし反対派から逃げ出すために逃亡。

 展望台でたまたま出会った勇さんの車に乗って勇さんの家まで移動したものの、神棚ショックで僕が1時間ほど失神をしていたものだから大幅に時間をロスしちゃったんだよな。

 あたりは夕暮れに染まっているけど時計を見れば18時を大幅に超えている。ここから船に乗って島まで移動をすれば完全に周囲は真っ暗になっているだろう。


「うーん・・玉津君が残るんだったらおじさんも何も言わないんだけど、若い女の子が一人で残るのは勧めないなあ」

 そこで勇さんが天野さんに向かって言い出したんだ。

「ここは非常に閉鎖的な町だし、君たちを探し回っていた菅原家の分家の男たちを見ていれば分かると思うんだけど、常識が通用しないところがある奴らなんだよなあ」

「そんなにヤバい感じなんですか?」

「ヤバイというか、漁業組合のドンと呼ばれるのが清さんという人なんだけど、その人の奥さんが今の町長の妹さんなんだよね」

 それは地方の権力を握っている一派の話になるということだろうか?


「天野さん、この町の人達は僕らの常識を超えてくるような感じに思えるから、今はみんなで一緒に行動した方が良いと思うんだけど?」

 天野さんは大きなため息を吐き出したんだけど、何故、彼女がそこまで気乗りしない様子を見せていたのかは、その後、勇さんの船に乗ったところで判明することになるんだ。


      ◇◇◇


 神渡りと言われると激スピ系の行事か何かかと思っていたのですが、

「意外に色々な港で行われていたりするけど、天野さんは見たことない?」

 と、先輩に問われることになったのよ。


 神棚を見上げてバターンッと倒れてしまった先輩だけど、目を覚ましてからは体調を崩した様子もなく、早急に島まで移動しなくちゃと張り切り出してはいるんだけど、

「・・・」

 船、船、船。昔、むかーしにおじいちゃんに連れられて釣り船に乗ったことがあるんだけど、その時は魚を釣るどころじゃないほどの船酔いで大変な目に遭ったんですよ。

「日も暮れて暗くなってきちゃいましたし、島には先輩とおじさんで行ってもらうことにして私はおじさんの家で待っているってことにしちゃまずいですかね?」

 船には乗りたくないし、私だけ待っていたら駄目かしら?私の発言ってそこまでだめ?二人はその場に凍りついちゃったんだけど、いや、確かに、さっき知り合ったばかりのおじさんの家に私だけ残るのもどうよって話ではあるんだけど、

「天野さんが行かなくて誰が行くっていうんだよ!」

 という先輩の謎の主張により、私は八年ぶりにおじさんが操る船に乗ることになってしまったのです。


 もうすぐ日も沈みますっていう時間帯におじさんが船のエンジンをかけ出したものだから、いまだに私たちを探している町おこし反対派の人たちが船の方にまでやって来たんだけど、

「いやね、さっき昼寝をしていたら枕元に死んだ爺さんが立ったものでさあ、そこで気が付いたんだよね?今日は神渡りをする日だったなあって」

 おじさんがそう言って手製の竹で作った船を見せれば、最初は高圧的に詰め寄って来た人たちもすごすごと退散することを選んだみたい。

 私と先輩はおじさんの指示のもと操舵席の近くに隠れていたから見つかることもなく、船は出発することになりました。


 1970年に詞之久居島のリゾート施設が大火災を起こして30人近くの人が亡くなって、それ以降、島は誰が言うでもなく立ち入り禁止の状態になっていたみたいなんだけど、

「最初から死んだ爺さんを持ち出せば良かったんだよなあ」

 船を港から出発させながらおじさんはイタズラが成功した子供みたいな顔で笑っている。


 おじさんの船の船首には大人が抱えるほどの大きさの笹と竹で出来た船が置かれており、その船の中には小魚、カニ、エビを盛り込んだ籠が置かれている。

 詞之久居の神渡りは本土から島まで神様が移動する手段として白鷺を利用するという理由から、白鷺の餌にもなる海産物を盛った笹舟を船に乗せて移動をするみたい。

 詞之久居島に社の前に一晩奉納した後に首切り島に笹舟を安置するまでが神事だと言うんだけど、

「ヴヴヴェエエエエッ」

 やっぱり船は駄目でした。

「天野さん、大丈夫?」

「ヴウゥゥェエエッ」

 予めバケツを抱えていたんですけども、私、思いっきり神事の最中なのに嘔吐をしております。


今度は海に移動した霊能力者二人のドタバタ劇をお送りしたいと思います!!

もし宜しければ

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