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屍の声  作者: もちづき裕
屍の声
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第一話  落ちた指

こちらの作品、書き直しております。

今月内にはささーっと終わらせられたらと思っております!

最後までお付き合い頂ければ幸いです!

 私、天野さつきは聖上大学2年、人文学部民族学科の生徒であり、大学から徒歩で10分という距離にある安アパートに住んでいた。


 人文学部に入学したのは、親に勧められたから、ただそれだけ。


 なにしろ学費を出すのは親だから、親が言うままに大学を受験して、幸いにも浪人せずに合格して、親元を離れて、聖上大学の生徒も多く住む、学生向けの安アパートに引っ越してきて、バイトどうしようかなとか、相変わらず彼氏が出来そうにないなとか、恋人がゲットできそうなバイトってなんだろうなとか、そんなことを考えながらボロアパートのドアを開けると、目の前に指が落ちていたわけ。


 パーティーグッズを売るショップの壁に、袋に入れられて飾り売りされているような立派な親指が、玄関の扉の前に転がっていたわけよ。


 初夏の爽やかな風が吹く、6月も終わりを告げようとしている今この時期に、季節外れのハローウィンパーティをやっていた人間がいたのだろうか?


 それともオカルト研究会か何かが学祭の催しの為に用意したものか何かで、何かの拍子で箱から飛び出して落ちたとか?


埃が舞い散るアパートの通路に落ちている指は、おそらく成人男性の親指であろう。切り口も鮮やかで、真っ赤な肉の合間から純白の骨の切断面まで見えた、関節部分には数本の黒々とした毛まで生えている。


「まさか・・これ・・本物?」


 いや、まさか、最近の技術の進歩は凄いし、九月になったら即座にハローウィンパレードが始まっちゃうような世の中の風潮だし、まだ六月だとしても、きっと!きっと!これはお遊びで作られた、成人男性の切断された親指に違いない!


「すみませーん!」

「・・・」

「すみませーん!あの!そこの方!そちらに切断された親指が落ちてはいないでしょうかー?」

「はあ?」


 冷や汗が額を流れ落ちてきちゃったよ。背中にも、嫌な汗が流れているんだが。


「すみませーん!そちらの方に、切断された指が落ちてはいないですかあーー?」


顔を上げると、ピンク色の鮮やかなツツジの花が咲き乱れる生垣の向こう側から、白いヘルメットをかぶり、水色の長袖を着た男性が、垣根越しにこちらへ向かって手を振っている。


「指ってどんな指ですか?」

「こちらの工場で機械に挟まれて指を切断された方がいらっしゃるんです!どうも窓から飛んで出ちゃったみたいでして!」


 確かにアパートの隣はかなり年季の入った町工場で、金属を削るような音がしょっちゅうアパートの方まで聞こえてきていたわけですよ。


「随分探しているんですけど見つからなくて、もしかしてそちらの方まで飛んで行ってはいないでしょうか?」

「切断された指なら、今、目の前に落ちていますけど?」

「え?目の前ですか?」


 生垣を跨いで乗り越えてきた救急隊の人は、転がる指を見下ろすと、

「こんな所まで飛んで来ていたんですね!見つかって良かったです!」

 と言って何の躊躇をする様子もなく、ビニール手袋をした手で、転がる指を拾いあげた。


「いやあ、落ちたのがコンクリートの上で良かったですよ。これなら無事にくっつくでしょう」


「え?無事にくっつくって?指って切ってもくっつくものなんですか?」


「聖上医大にはマイクロサージャリーの専門医がいるから余裕で修復してくれますよ」

「マイクロサージャリーってなんですか?」


「聖上医大には60倍まで拡大できる特殊な顕微鏡があるんです、この顕微鏡を使って手術をすると血管や神経、骨の接合なんかが今までとは比較できないレベルで複合できるんです・・ってこんな話をしている場合じゃなかった!戻らないと!」


 ツツジの生垣を再び跨いで戻ろうとしている救急隊員の背中を見送りながら、

「お疲れ様です!それで、この指が落ちていた跡はどうすればいんですかね?」

と声をかけると、

「水で洗い流しちゃってくださって結構でーす!」

と、答えながら生垣の向こう側へと移動していってしまった。


「水で洗い流しちゃっていいですって・・・」

 さつきはコンクリートの上にべっとりと残る赤茶けた血液の後を見下ろすと、

「とりあえず証拠写真を残しておこう」

と言ってスマートフォンでその小さな血だまりの写真を撮る事にした。



      ◇◇◇



「ヤバイ!ヤバイ!寝過ごした!授業に遅れちゃうよ!」


 ゼミの飲み会に参加した私は、化粧も落とさずに爆睡していたようで、髪の毛は爆発状態。お肌は最悪状態。急いでシャワーを浴びて、髪の毛を乾かして、授業に必要なものを鞄の中に放り込んで、慌てて玄関のドアを開けたわけだけれど、部屋から飛び出す一歩目が出ずに、その場で硬直することになったのだった。


「えっ・・・」


 自分のアパートの目の前に落ちているのは、まさしく指、間違いなく指、昨日は成人男性の切断された親指が転がっていたけれど、今日は扉の前に切断された人差し指が転がっている。


「えええええっ」


 初夏の爽やかな風が吹く、6月も終わりを告げようとしている今この時期に、誰かが季節外れのハローウィンパーティを開いて、飾り付け用の指を落として歩いたわけではない。


 目の前に落ちているのは本物の指、昨日は親指で、今日は人差し指で、

「すみませーん!すみませーん!」

 ツツジの生垣の向こう側から、白いヘルメットを被り、水色の制服を着たおじさんが、大きく手を振りながら私に声をかけてくる。


「すみませーん!そちらに切断された指、落ちてはいないでしょうか?」


 これは何?今、流行りのループ系、私、知らぬ間に同じ日にちを繰り返していた?


「ここの工場で機械で指が切断されて、窓から飛んで行ってしまったんです。すみませんが、そちらに落ちてはいないでしょうか?」


「おおお・・おお・・落ちていますー、人差し指が落ちていますー」

「ああ!本当に見つかって良かった!」


 指を拾い上げに来た救急隊員の人は、昨日の男性よりも年取ったおじさんで、ビニール手袋をつけた手で、転がる人差し指を拾い上げると、

「いやあ、綺麗な状態で見つかって良かったです。あんまり不衛生なところに落ちると、くっつきが悪かったりしますから」

 そう言いながら、真っ青に震え上がる私の顔を見上げて苦笑を浮かべる。


「お嬢さんには刺激が強すぎる物でしたね。すみませんが、これを持ってすぐに病院に移動しなければならないので、指が落ちていた場所は、お水で良いので流しておいてくれますでしょうか?このアパートの管理人さんの方には、後で連絡を入れるようにしておきますので」


「実は・・昨日も指が飛んできたんですけど〜」

「ああ、昨日もあの工場では事故がありましたものね」


 困り果てたような表情を浮かべた救急隊のおじさんは、工場の方を振り返りながら、

「夏場は窓を開けて作業をしているようですし、ここの場所は、飛んできやすい場所なんですかね?」

 と、言い出した。


 飛んできやすいって何が飛んでくるの?

 毎日、指が飛んできたら本当に嫌なんだけどー!



ここまでお読み頂きありがとうございます!

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