1.チュートリアル
1 チュートリアル
ガチャッ ピー ピー
ピンポーン
「はーい。今行きます」
俺は睦月夕陽16歳。
この春、高校に入学した。実家から学校が離れているため一人暮らしだ。今はすっかり外も暑くなり夏休みに入っている。
荷物を受け取って携帯食の入っているダンボールだらけの廊下を急いで走る。
ガンッ
「いって」
小指をぶつけてしまった。だが、そんなことを気にしている暇はない。三畳半のマイルー厶につくと貯めていたお年玉で買ったゲーミングチェアに腰かける。
なんでそんなに慌てているかって?
なにを隠そう今日は、世界的に期待されていたVRゲームのレイク・ファンタジアの同時発売日なのだ。
もちろんこれもお年玉…。
まぁ、いい。その分遊びつくせばいいだけだ。
電池コードをつないで、電源を起動!あとは頭にはめるだけでスタートだ。
一人暮らしだし誰かに気にかける必要もない。今の俺にとって最高の環境だ。じゃあ、始めるか!
…ふぅ、こんなところか。今はホブゴブリンを倒していたところだ。ゲームを始めてもう5日目になるだろう。
ちなみにこれが初クエストだ。思いのほかチュートリアルで沼ってしまった、もしかしたら実際の運動神経が反映されている可能性がある。
とりあえず、冒険者協会に帰るか。
この世界は六つの大陸に別れていて、大陸それぞれのモンスターやイベントがある。VRとはいえ、肌ざわりや質感がリアルにも引けを取らない。それに加え、様々な表情を見せる風景もまた、魅力の一つなんだろうな。
今俺がいるところは農耕が盛んで、農耕メインのプレイヤーはこぞって初期リスポーンに設定する。モンスターはあまりいないが、ある秘密があり、毎月食料の物品の流通が盛んになる日がある。
それを考慮して俺は初期リスポーンはこの大陸にした。そんなこんなで冒険者協会に着くと、モンスターの素材を替わりにレイクを貰う。この世界の通貨だ。
と、まぁこんな感じがチュートリアルを終えたあとやること、というもはや伝統的な進め方だろう。
ようやくだ。ここから冒険が始まる。
協会を出ると、多種多様なプレイヤーがいる。戦士や商人、栽培した品を納品しに来た農家プレイヤーにポーションを売る錬金術師。
実に現実世界と同じくらいの職種はなくても、数え切れないくらいはあるだろう。俺は万能職。幅広いスキルがあるがどれも中途半端にしか限界がない職業で取るプレイヤーはあまりいない。
わかってはいたが、やるからには色々なことをやっていきたい。トッププレイヤーと張り合いたいってこともないしな。
っと、着いたな。今来たこの店は外観は石レンガに囲まれた、もはや階段と一体になっているようなやばい雰囲気をかもしだしているが、実はあるペットモンスターの餌を売っているそうなのだ。
さっそく入ってみよう。中は案外普通のペットショップのようだ。そして、今回俺が探し求めていた餌はレイクベリー。この辺では採れないアイテムなのだ。
「おじさん、レイクベリーを3つ」
「はいよ。まいど」
よしっ。必須アイテムも買えたし、早く出よう!
「あ、あのっ。私にも3つください」
ん?俺と同じくらいの女の子のようだな。
「あ〜嬢ちゃん、すまねぇなさっきので品切れなんだ」
「そんな…」
「なぁ、兄ちゃんや。すまねぇがこの嬢ちゃんに1個だけでも譲ってくれねぇか?」
「えっ、お、俺?」
やばい、焦るな。予備もいくつか一応あるし、数個ならいいか。
「じゃあ、この3つあげます。その分のレイクをくれれば」
「全部良いんですか!?」
ずいぶん驚いているようだ。そんなに欲しかったのか。
「ああ、もともと予備のつもりだったしね」
「ところで、君も レイクペンギン が目当てなの?」
「はい。発売前から気に入っていて、これが目的だったようなものですから」
なるほど。こういう目的の人もいるんだな。とりあえず、もう行くか。
「じゃあ、俺はこれで」
「あっ、待ってください」
足を動かした瞬間に呼び止められる。
まだ何かあるのだろうか?
「目的が同じなら、お礼に同行させてもらえませんか?こう見えて私は探索者なんです」
探索者。確かに、始めたばかりだから周辺マップがまだ埋まっていないし複数で行ったほうが何より安全か。
「なら、お言葉に甘えて、一緒に行きましょう」
「はい!」
最初は内気だったけど、本当は意外と元気な子みたいだな。