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C  適当に流す

「ほんにカシラは悪食じゃのう。今の時代、食うものなどそこらへんに転がっておろう。何故変わったものばかり食いたがるのじゃ?」

「ふん、悪食とは心外ぞ。死骸を食らうカラスのどこがおかしい?人間のゴミばかりを食らうのがカラスの本性ではない。決して飼われている訳ではないのじゃからな」

「では他のカラス共はどうじゃ?」

「・・・他のものなぞ知ったことではない」

「カシラ、時代は変わったのじゃ。この街の中で人間と全く関わらずして生きていけようか?山は削られ、地は固められ、水は濁り、空気は汚い。他のカラス共はこの劣悪な環境に適応しているだけじゃ。それなのにカシラだけは野生にこだわり続けておる。これを変わり者と呼んではおかしいか?」

「ふん、死ぬ間際までほんにうるさい猫ぞ。本当に死期が近いのか疑わしくも思える。しかし青ヒゲ。ヌシにとやかく言われとうないのう。ヌシもワシとあまり変わらぬ気質の持ち主よ。そのヌシが何だかんだと言うのは少しおかしくないか?青ヒゲ」

「ワシは・・・もうすぐ死ぬでのう。ワシには時代も人間も関係ないからいいんじゃ。」

「な、何じゃそれは。いろいろ言うてヌシは逃げる気か?」

「逃げるもなにも、ワシはもう疲れたんじゃ」

「何じゃと?」

 カシラが電線の上でバタバタと騒いでいるのを尻目に、青ヒゲは歩き出した。

 少し歩いて立ち止まり、振り返ってカシラに別れを告げる。

「カシラよ。世の中には必ずと言ってよいほど変わり者がおる。それは世にとって変わり者が必要だからじゃ。だからワシはカシラが悪いとは一言も言ってはおらん。むしろヌシにはそのままであって欲しいとすら思うほどじゃ。それでは変わり者で、悪食で、頑固者のカラス、カシラよ。さらばじゃ」

 カシラはしばらく間を置いて、再びバタバタと騒ぎ出した。

 ただその眼前にはもう老猫の姿はなかった。


(妙なところで時間をくった。体が重くて仕方がない。果たして死に場所が運よく見つかるものか?)

 青ヒゲはいつも猫の集会が開かれる公園のそばを通り、川に沿って歩いていった。

 昨日の雨で川の水量は増し、濁って勢いのある水が流れている。

(いざとなれば、この川に落ちるもよしとするか)

 重い足を前へと運びながら進んでいくと、人間に出くわした。

 その少女はじっと川を見つめていた。

 気づかれぬようにと青ヒゲは心の中で祈ったが、今日は厄日なのですぐに捕獲される。

「あらどうしたの、お前?何処か体の具合が悪いの?」

 青ヒゲはうにゃと唸っただけで抵抗もせずに少女の懐へと収まる。

(急いでいるというのに、体に力が入らぬ)

「どうしたの?おなかが減っているのかな?」

 少女は何やら食べ物らしきものを青ヒゲの口元へやるが、青ヒゲは人の匂いのするものを食べないようにしているため、拒否した。

(しもうた。適当に食うふりをして、元気になったと見せかけて逃げればよかった)

 いつもなら簡単に逃げ出せただろう。

 いや、捕まることすらなかっただろう。

 しかし、青ヒゲの命は尽きようとしているのだから仕方がない。

「困ったなあ、私、死のうと思ってここに来たのに。どうしよう」

(あぁ、頼むから離してくれ・・・体が・・・もう・・・)

「・・・あのね、私の話聴いてくれる?」

 少女は懐の中でうずくまった猫に話かける。

「私の家は両親共働きで、家では私一人でいることが多いの。友達もいたし、好きな人もいたし、学校では別に何も感じないの。でもいったん家に帰ると、あぁ、私って独りなんだなぁってすごく思う。でも親には親の人生があって、友達にも、好きな人にも。だから、私のわがままでそれを壊しちゃいけないって思うの。自分には自分の生き方があるし、親も親の生きたいように生きればいい。だから、独りであることは別に寂しいことじゃないんだってずっと思い込んできた。今思えばただの強がりだったのかもしれない。ただ、寂しさをきちんと伝えていれば良かったのかもしれない。けれどもう遅いわ。きっかけは些細なものかもしれないけれど、虚勢を張って、背伸びをし続けていくのはもう嫌。どんどん泥沼にはまっていくだけ。だからもう死ぬしかないって思ったの。自分の人生だもの。自分の死に方だって自由に決めても悪くないと思うわ。・・・だからこの川に来た。私、この川を見ていると不思議と心が落ち着くの。なんだか懐かしいような、そんな感じがするの。だから、この川で死んだらきっと楽になれる。そう思うの。」

 青ヒゲの体は少女の懐に抱かれたまま冷たくなっていった。


 その様子を一羽のカラスが見ていた。

 そしてカァと一鳴きして飛んでいった。

 その後、少女が猫の異変に気づき動物病院へと駆け込んだが、その魂はもうこの世には無かった。

 青ヒゲは、両親に連れられて家へ帰っていく少女の懐で涙に溺れ死んでいった。


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