頭(カシラ)と青ヒゲ
一匹の猫が自分の死に場所を探し彷徨っていた。
冬の早朝、キンと張り詰めた空気をヒゲを揺らしながら感じて、 少し身震いをする。
人の齢にして百七歳、天寿を全うしようとしていると言っていいだろう。
細い路地をとぼとぼと進んでいるとカラスが鳴いた。
「よお、青ヒゲ。こんなに早く珍しいな。何処ぞ行くんか?」
青ヒゲと呼ばれたその細身の猫は、うにゃと唸って空を見上げ、電柱の上の体躯の大きいハシブトガラスを見た。
「カシラか。朝っぱらから嫌な奴に会うのぉ。よりによってこんな日に・・・」
カシラと呼ばれたカラスが右左右と首を傾げる。
「こんな日に?今日は何ぞあるんか?」
青ヒゲはため息をついて、カラスと地面を交互に見る。
「・・・猫はな、死期を悟ると誰の目にもつかぬところでひっそりと死ぬんじゃ。ワシにとっては今日がその日じゃ。ヌシも察しておろう」
「いや、とんと」
「・・・さようか。ではワシは急ぐでのぅ」
歩き出した老いぼれ猫にカラスが声をかける。
「のう、どうせ死ぬんじゃ、青ヒゲ。ヌシの肉をワシが食ろうてはならんか?」
猫は微かに笑って答える。
A快諾する B断る C適当に流す