九 田中、冒険者に誘われる
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異世界の壁にぶつかった田中は、諦めた。
田中(そういえば、この国の名前ってなんて言うんですか?)
リタ「白狼の国ゴホーザム王国です。」
田中(ゴホーザム王国というのですね。白狼の国というのは?)
リタ「昔から語り継がれている伝承の名残です。」
そう言ってリタは続けた。
リタ「遥かなる昔、神がこの世界を創りし時、この世界に最初に生まれたのが混沌であった。
神はこれを治めるべく、世界を表と裏に二分した。
表は六体の白き神獣が治めることとし、裏は魔王が治めることとした。
表は裏に行けず、裏は、表へ行けず。
これにより、世界に秩序が生まれた。」
田中(なるほど。白狼というのがその神獣の一体ということですね!白狼というのにも、会うことはできるのですか?)
リタは首をふった。
リタ「伝承によると、いつからか人里を離れてしまったようです。ちなみに、狼の他に、竜や天馬、鯨などがいます。」
田中(あぁ、それで、竜は分かったのか。)
リタ「田中さんは、主さまを倒せたら、その後、次の目的はどうしようと思いますか?」
ふいに、リタは田中に尋ねる。
田中(またぶらぶらしながら、世界をみて周りたいと思います。)
内心では、できれば一緒に行動したいと思いながらもそう答えた田中。
リタ「でしたら、私と冒険者になりませんか?」
田中(冒険者!確かに、異世界の定番だな!でも、おれ、姿が人間じゃないし、、、)
興味はあるが、少し考えてしまう田中。
田中(どうやってですか?)
リタ「私と契約してください。」
リタの提案は少し怪しい勧誘感があった。
突然のリタの発言に田中は戸惑ってしまう。
疑問に思いながらも、とりあえず聞き返す田中。
田中(どういうことですか?)
リタ「冒険者として登録する際に、職業の登録もするのですが、その時に契約者の職業を使おうと考えています。
契約者というのは、本来、召喚士の下位の職業です。
召喚士であれば、いつでも契約した魔物や精霊を召喚できるのに対し、契約者であれば召喚はできないため、実体で魔物を連れている必要があります。加えて、召喚士と同様に契約者も魔物や精霊が契約者に逆らえないという規定があります。ですが、そのお陰で一見強そうな魔物である田中さんも街に入ることが可能になると思います。」
田中はリタの話を聞き逃さないよう、傾聴していた。
田中(それって、要するにリタさんに絶対逆らえないようになるデメリットがあるってことで合ってますか?)
田中は騙されまいと必死だった、意識せずだが、田中のスキル交渉術が発動していた。
リタ「勿論、そういうデメリットもあります。本来、契約者というのは、実際、半分が奴隷商人ですから。勿論、田中さんが不都合と感じた時は、契約解除もできますので、安心してください。」
田中(一日、考える時間をください。)
リタ「そうですね。すぐに決められることでもないと思うので、しっかり考えてください。」
その後、食事の途中だった二人は残りのリコの実を食べた。
少し気まずい空気の中、沈黙が続いた。
田中(あれだけ美味しいと感じたリコの実なのに、今は全然味がわからない。無理もないか、あんな話の後だ。)
その後、二人は寝て明日に備えることとした。
リタ「おやすみなさい。」
田中(おやすみなさい。)
だか、田中はさっきの返答をどうしようかと悩み中々、寝つけなかった。
夜が明けた。
リタ「おはようございます。」
田中(おはようございます。)
朝方になってやっと寝られた田中が起きるともう日も昇り、昼頃になっていた。
田中の答えはまだ、出ていない。
田中(とりあえず、食事にするか。)
昨日の残りのリコの実二個を食べ始める田中。
今回は初めて食べた時と同じく、リコの実は美味しかった。
リタ「あの、良かったらコレどうぞ。」
リタの方を見ると、皮袋一杯の水を差し出された。
田中(ありがとうございます。でも、どこから?)
リタ「近くに川があったので、そこで汲んできました。私は先に飲みましたので、良かったら飲んでください。
あっ!もし水浴びをするようでしたら、案内しますよ。」
田中が考える前にてきぱきと答えたリタ。
田中(水浴びは大丈夫です。気遣って頂き、ありがとうございます。あと、お水もありがとうございます。)
そう返すと、田中は水と自身に清潔魔法を使った。
田中("清潔")
リタ「!?」
驚くリタ。
リタ「そういった魔法も使えるのですね。」
はぁと感心した様子で、リタが何気なく呟いた。
田中(良かったら、リタさんも試してみま、、、)
あぁと気づく田中。
田中(配慮が足りないな、自分。)
田中は魔法の第三段階はまだ習得してないため、それが不可能だと気づく。
リタ「お気になさらないでください。私は田中さんが眠っている間に水浴びを済ませましたから。」
田中の濁した内容に気づき、そう返すリタ。
リタ「それと、あれから私も考えてたんですが、やっぱり昨日の話はなかったことにしましょう。いきなり、あんな話をしてしまい申し訳ございませんでした。」
田中に対して、謝罪するリタ。
田中(いやいや、こちらこそ、せっかく提案して頂いたのに、申し訳ございません。でも、もう少しだけ考えさせてください。おれ自身にも必要なことだってのは分かってるんです。ただ、いきなりだったから、ビックリしたというか、、、)
その後、田中とリタは魔法の修行をした。
自然と気まずい空気はなくなり、お互い、元の感じで話せるように戻っていた。
そして、今日の修行の時間が終わる頃、田中は決心がついたのだった。
田中(よし!)
一度、気合いを入れる田中。
田中(リタさん!)
修行が終わり休憩中のリタに話しかける田中。
リタ「はい?」
突然、話かけられ、少し驚いた様子のリタ。
田中(昨日の話ですが、契約解除するのは、本当にすぐに出きるんですよね?)
ハキハキと聞く田中。
リタ「はい。解除したい時は、私が田中さんの近くにいれば、すぐにできます。」
それにリタも即答する。
田中(では、おれと契約してください。)
リタ視点
リタ(くふっ!ふふふふふ)
リタは喜びのあまり、内心笑みが止まらなかった。
リタ(いや、まずい。笑いが止まらないが、バレないように気をつけなければ。)
その笑みの意味を、信じてもらえたことと、冒険者になれることの喜びだと勘違いする田中。
田中(どうぞ。よろしくお願いします。)
リタ「ええ、よろしくお願いします。」
リタは田中を騙すことに成功した。
リタ(我慢したかいがあった、、、
思い返せば、あれもあれもなんで私がやらなければいけないのだということが山ほどある。だか、我慢ももう少しだ。)
リタと田中の最初の出会いこそ偶然だったが、そこからの全ては、この契約を目的としての行動だったのだ。
リタが他の村人たちから距離を置かれていた本当の理由は、その能力が原因ではなかった。
一つ一つはほんの些細なことだか、騙される者が後を経たないため、村人からの信頼を失くしてしまったからであった。
実際、その能力はまだ他の村人たちにバレてはいなかった。
リタの目的は、今回の契約者関連の話だったのだ。
リタ(コイツを見世物小屋に売れば、いくらになるだろう?
いや、本当に少し冒険者をやって金を稼ぐのもありか?
魔法を教えて、闘技場に売るのもありかもしれない。
そもそもコイツがいくらになるか次第だな。)
リタの脳内で今後の算段が進む。
田中(ところで、その契約というのは、何をすれば完了するのですか?)
何も知らずリタに質問する田中。
リタ「そうですね。今すぐはできません。冒険者登録する前に魔法本屋に行く必要があります。そこで契約魔法の本を買って契約魔法を覚えたら、すぐに契約しましょう。
冒険者の組合がある街に魔法本屋もあるので、そう手間にはならないはずです。」
田中にスラスラと説明するリタ。
リタ「街はヘンピナの村から歩いて三日ほどの距離です。」
昨日の村は、ヘンピナという名前らしい。
田中(結構、距離がありますね。)
リタ「ええ、ですから、先に主さまを倒すのが良いと思います。街に入るのには、許可証が必要なため、主さまを倒した後、村に戻り、村長から街へ入るための許可証をもらう必要があります。村人みんな、主さまには困っているため、村長もそれくらいなら、許可してくれると思います。」
田中(なるほど。)
リタ「それと、一つ注意点があります。ここや、ヘンピナの村は大丈夫なのですが、私たちが行こうとしてる街も含め、大きな街には必ず、王の目や王の耳がいます。」
田中(王の目?王の耳?あぁ、世界史に出てくるアレか!)
リタ「街で王への不満や体制への不満を漏らした者や、王への敵対行動と怪しまれるような者は、ある時いきなり、王宮へ呼び出され、処分されるのです。
その情報を伝えるのが、王の目や王の耳です。」
田中(なるほど。学校で習った時は良い感じに国を良くする仕事程度に思ったけど、実際そういうことも、できるわけか。)
リタ「ですので、街に入る際は、万全を期して注意してください。わかりました?」
自分の契約相手が処分されたら、ここまでの苦労が無駄になってしまうため、リタは厳しく田中に伝えた。
田中(わかりました。)
重要なことだと感じ、しっかり頷き、肯定する田中。
田中(ちなみに、主さまの居場所は知っているのですか?)
リタ「だいたいの方角なら。」
田中(なら、主さまとやらを倒すためにも、早く魔法の制御を覚えないとですね。)
そう言って、田中は魔法の練習に向かった。
例の事件、ご冥福申し上げます。
そういうのは、創作物だけの中にしてほしい。
現実は平和が一番です。