十八 ディアマントの過去
時は少し遡り、タナカが引きこもっていた頃。
組合 では、一人の女性が落ち着かない様子でいた。
銀髪と鋭い目付き、無表情が特徴の女性。
タナカの受付を担当したリリエラである。
リリエラ(どうしよう、、、またやってしまった、、、)
しかし、あまり顔に出ないタイプの彼女は、端から見れば、機嫌が悪いのだと勘違いされていた。
周りの職員も、機嫌が悪い(と思い込んでいる)彼女に対してわざわざ話しかける者は一人もいなかった。
むしろ、触らぬ神に祟りなしと言った感じだ。
周りの職員(あぁ、またリリエラさんが怒ってる、、、)
彼女が受付をした新人冒険者は、続かないことで有名だった。
"冷たい魔女"と陰で言われる程に。
そして、タナカもそんな過去の新人たちと同じく、二日目の本日、まだ冒険者組合に来ていなかった。
何故かいつもいる冒険者A「へへっ。賭けは俺の勝ちだな。」
何故かいつもいる冒険者B「はぁーっ。これで何連敗だ!?」
何故かいつもいる冒険者C「まぁ、俺は前回勝ったがな!」
組合二階の酒場では、いつもの様に、それを酒代の賭けに使っていた。
リリエラは、とある特技を持っていた。と言っても本人にとっては手放したい、呪いの様な特技だが。
"悪運"
本人とその周囲に対して、悪い出来事が起こる不遇特技スキル。
この特技スキルのせいで、彼女が受付を担当した冒険者には大なり小なり、運の悪い出来事が起こっていた。
彼女は、この特技のことを、周りに秘密にしていた。そのため、彼女は、周囲の人たちと必要最低限しか関わらない様にしていた。
結果、彼女の周りで起こる不運と彼女の淡々とした対応が重なり、陰で"冷たい魔女"と呼ばれ始めたのであった。
実は、タナカが出会でくわした、大量発生した角犬は、これが理由だった。
本来、最初の階層には、5-7匹の角犬が出てくるのが常である。
今のタナカには、知る由もないことだが。
彼女が受付職員として、働き始めたきっかけは、ディアマントだった。
冒険者に成り立ての頃、初めて独自で挑戦した依頼で、リリエラは、今回のタナカと同じく、魔物の大量発生に出会してしまった。
当時のリリエラは今のタナカと同じ様に無力だった。
自分はここで死ぬのだ。と死を覚悟した時、逆境ピンチを救ってくれたのが、ディアマントだった。
ここで出会ったのも何かの縁だからと、その後も何度かクエストに着いてきてくれ、その内に、リリエラは、"悪運"という特技があることに、気づけた。
毎回、発生するわけではないようだが、期間が空くほど、より悪い出来事が起こる特技だとも理解した。
しかし、リリエラは、その特技のことをディアマントには言わなかった。いや、言えなかった。
初めて救われた時から、ディアマントを好きだったから。
そのディアマントが自身から離れてしまうのを恐れたから。
しかし、そんな出来事が何度も続けば、皆、違和感を持つものだ。
それでも、ディアマントは、何も言わず、時々ではあるが、依頼に着いてきてくれた。
そうして、とうとう、リリエラはランクCにまで登り詰めた。
だが、そこからは、上手く行かなかった。独自故の限界という壁に当たったのである。
しかし、その特技スキルのせいで、自分からパーティーを誘うのも躊躇われたし、周りからも、不気味な噂のせいで、パーティーを組みたいという声掛けもなかった。
そこで、ディアマントに相談したところ、組合の受付職員を紹介されたのであった。
これからは、後進育成に励むのだと意気込み、仕事を始めたところ、現在に至るリリエラであった。
リリエラ(はぁー。ディアマントさんに謝りたい。)
そのように、リリエラは、心の中で反省し、落ち込むのであった。
場面が変わり、現在に戻る。
ディアマント「少し長話になるが、どこから話せば良いやら。」
外はまだ雨が降っている。
ディアマントは困った顔をした後、ふぅと息を吐いた。
ディアマント「俺は子どもガキの頃、孤児だったんだ、、、」
ディアマントは、どこか遠くを見ながら話し始めた。
ディアマントの昔話に、タナカは耳を傾けた。
ディアマント「覚えている中で一番昔の記憶は、王都の貧民街での思い出だ。父親のことは、記憶にない。娼館で働いていた母親も幼い俺を捨てて、それっきりだ。子どもの頃の俺は大人を、いや、他人を信じられなかった。」
タナカは、相槌を吐きながら、黙って聞いていた。
ディアマント「他人を信じられない俺は、当初、どこの組織にも属してなかった。だか、ガキ一人で生きて行けほど、甘いはずもない。二、三日に一度、飯を食えれば良い方だった。
後にわかったことだが、今も昔も、この国は一部を除いて、慢性的な食糧難だ。普通の場所でさえ、そんな状況だったんだ。俺の故郷はさらに荒れていた。多くの孤児や難民が集まる場所であり、柄の悪い無法者の溜まり場でもあるそんな場所。そこが俺の故郷だ。
貧民街には、様々な勢力がいた。
非合法組織、国の至るところから王都へやってきた難民の組織、孤児が中心の組織、それを取り締まり筈の役人。
それらの小さな組織が乱立していた。」
タナカは黙って聞いていた。
「そして、半年ほどで限界が来た。どうやら、寝ている間に非合法組織に捕まったらしい。起きたら、知らない場所だった。その組織は、奴隷売買も商っていた。俺の頭には売られる未来と、殺される未来が過よぎった。奴隷には、食人奴隷とか、剣闘士奴隷なんてのもあるからな。」
渇いた笑顔で笑うディアマント。
「だが、そうはならなかった。アイツらが助けてくれたからな。」
タナカ「アイツら?」
ディアマント「酒場で出会っただろう?気の良い力持ちのアンガス、真面目で頭の良いフィンリー、頼りになるが、怒ると一番怖いレンダ、そして、この集団のリーダーで、後に、俺の親友になるシュタークという男だ!」




