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騙りの回想

 なっちゃんは俺の初恋だった。


 長年抱えた恋慕の末、俺が彼女に告白したのは……小学6年生の頃。


『そーくんのことは好きだよっ! でも~、カレシって感じじゃなくて~……』


 俺の初恋は、実にあっさりと終わった。


 自分の魅力のなさを突き付けられるようで辛かった。だが……それでも彼女は俺にとっての恩人であり、光であるという認識が変わることはなかった。


 なっちゃんには絶対、幸せになって欲しい。きっと誰かいい人を見つけて欲しい。


 ……彼女さえ幸せであれば、その相手は俺じゃなくていい。失恋してからはそう考えるようになった。


 人はきっと、時にそれを”崇拝”と呼ぶ。




 そんなほろ苦い初恋を経て。時は飛んで中学時代。


 バスケ部に入ってから俺は新たな恋を見つけた。……そう、安中樹里である。


 ウチのバスケ部は同級生なら皆互いに下の名前で呼ぶ文化で、当時は”樹里ちゃん”と呼んでいた。


 彼女の浮ついた外見とマネージャーとしての真面目さのギャップにやられたのか、はたまた稀に見せる優しい一面に惹かれたのか。


 ……何にせよ、俺がバスケ部で苦しい思いをしながらも折れなかったのはきっと『好きな人』に見られているからだった。



 だが。


『す、好きですっ!!』


『……ごめん』


 またしても俺の恋は実らなかった。


 ……そう、あのクリスマス・イブの日、あのイルミネーションの中で。俺は安中樹里に告白したのだ。


 好きな人に好きになってもらうためなら、何だってした。


 一目置かれるために、勉強は完璧にこなした。部活についていくために、必死に裏で苦労をした。休日遊びに行くとなれば、服や髪、化粧まで気にするようにさえなった。そして”理想の自分”にとって都合の悪いものは、徹底的に隠し通した。


 だが……


『宗一ってさ、何考えてるか分からないっていうか……取り繕ってる感っていうか……本音を見せない感じがちょっと、不気味だなって』


 ……それらは全て、無駄だった。



 あとは知っての通り。告白をしたその直後に、俺はなっちゃんに告白された。この出来事をきっかけに彼女との関係は気まずくなっていき、次第に口も利けなくなってしまった。


 それだけじゃない。なっちゃんの告白は、同じ場にいたバスケ部員に偶然見られていたのだ。


 俺は仲間内で告白を断ったことについて散々聞かれまくった。あのからかうような彼らのノリは俺にとって苦痛でしかなかった。今思えば、きっと彼らに悪意はなかったのだろうが。


 しかしこんな出来事があって、俺の精神は非常に不安定な時期を迎えた。


 更に……中2の冬といえば、妹の実子の存在もあった。当時小6だった実子は慧明付属中の受験に向けて着々と準備を進めている頃だった。


 模試の結果も良く、俺が小6だった頃と比べても見るからに順風満帆。そんな妹の姿は、見ていて本当にしんどかった。


 そんな経緯があって、俺は中2の冬でバスケ部を辞めた。それだけじゃない。人と関わることが、恋愛が、何もかもが嫌になった。




 あれから約3年。


 俺も変わったもので。当時は思い至らなかったようなことにも今なら気付ける。


 なっちゃんの告白を断った俺と彼女が気まずくなっていく様を見て、あのときの樹里は何を思っていただろうか。


・・・

『やっぱ、奈緒とはまだ……』

・・・


 久々に会って開口一番に言うのがコレだ。きっと彼女も負い目を感じていたのだろう。



 おかしな話だ。




 結局のところ……俺が悪いというのに。


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