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#72 懺悔

 翌日、放課後。


 琴葉には目指す場所があった。……それは校舎2階、その奥まった場所にある一つの部屋。


 そう、将棋部である。


 扉に手をかけ、ゆっくりと開く。


「あれっ琴葉? 何か用?」


 中にいたのは宗一と愛依。テーブル上の将棋盤を挟んで、お互い向かい合って座っていた。


「えっとね、二駄木くんに用があって……」

「……」


 無言で琴葉を見つめる宗一。彼の目は……冷ややかなものだった。


「来てくれる?」

「……分かった。雨海、すまんがちょっと席外すわ」

「ん、分かったよ」


 そう言うと宗一はゆっくり立ち上がり、テーブルを離れた。


 二人が向かったのは2年B組の教室。放課後になってしばらく経ち、中には誰もいない。


「で、何の用だ?」

「もちろん、昨日の続きだよ」

「……だろうな。でも話は昨日終わったはずだ。しかも、お前には何の関係もないことでだな……」

「それは違うよ」


 琴葉は宗一の言葉を遮った。


「私、昨日会って来たよ。奈緒ちゃん……朝霞奈緒に」

「……ッ!?」


 宗一は琴葉の言葉を聞き、面食らった。


「奈緒ちゃんは私のイトコなの。しかもそれだけじゃない。中2のクリスマス・イブ、あの日私は奈緒ちゃんに会ってたんだ」

「イトコって……まさか、お前が……?」


 朝霞家のクリスマスの過ごし方については、宗一もかねてから聞いていた。しかし、イトコの名前までは聞いたことがなかった。まさかそのイトコが琴葉だったなど、知る由もなかったのだ。


「最初は私ね。あの日二駄木くんは”振られた”のかなって、なんとなく思ってたんだ。でも……」


・・・

『あの日……私はそーくんに告白して、振られたの』

・・・


「でも……違った。だから私、自分なりに考えてみたの」


 琴葉の手元には証拠らしい証拠もない。宗一を真似しようにも、今まで彼がやってきたようには中々できない。それでも……直感のままに考えた。


「昨日聞いた限りだと。奈緒ちゃんはあの日……二駄木くんに告白して、そして振られたらしいの。でも……二駄木くんが”振られて傷ついた”ならともかく、”振って傷ついた”なんて」


 宗一の目を真っ直ぐ見据え、琴葉は言う。


「なんだか……謎めいているよね?」

「……」


 琴葉を見つめる宗一の目は、一層冷やかさを増す。しかしそれを忍んで、琴葉は言葉を続ける。


「きっと二駄木くんは……奈緒ちゃんのことが、すごく大切だったんだよね? 昔から仲のいい幼馴染として」


 ……そしてまさに今、彼女は真相に迫ろうとしていた。


「自分が振ったせいで、奈緒ちゃんを傷つけちゃった……そう思ったんでしょ? そして、そのことが今でも君を苦しめてる」

「おかしなことを言うんだな。……第一、なんで俺がなっちゃんを振らなきゃならなかったんだよ。そんなに大切な女の告白を、しかも男子中学生が、そうそう断るワケねぇだろ。普通に考えて」

「それは……()()()()()()()()()()んだよね?」


 宗一は琴葉の言葉を聞くと面食らい、押し黙ってしまった。


 そんな様子を見て琴葉は……確信した。


 遂に、自信をもって、彼女は結論を口にする。


「二駄木くんは多分あの日……奈緒ちゃんに告白される直前に()()()()()()()()()んじゃない?」


 彼女の出した答えを聞いて、宗一は…………









 ……敵わないな、と思った。


「もう、いい」

「えっ?」

「俺の負けだよ」


 完全に、見透かされた。


「全部お前の言う通りだよ。あのクリスマス・イブの夜、俺は告白したんだ。相手は……安中樹里。昨日お前も会っただろ?」

「えっ、あの人!?」


 六町は意外そうな顔をした。まぁ同級生でバスケ部の女子つったら、なっちゃんの他には樹里しかいなかったわけだが。


「俺は樹里に告白して……振られた。悔しかったよ。アイツに惚れてから俺がアホほど頑張ったこと……部活も、勉強も、他にも色々。全部が無駄になったような気さえした。でも、あの日はそれで終わりじゃなかった」


 そう……俺は樹里に告白して振られた直後に、今度はなっちゃんに告白された。


 なっちゃんのことは好きだったし、あのタイミングじゃなければきっとオーケーしてただろう。というか、いっそ無理にでもそうしてれば今頃マシだったのかもしれない。


 ただ……自分から告白しておいて、その舌も乾かぬうちに他の女からの告白を受け入れるなんてことは、まだ幾分純真だった当時の俺にはできなかった。


「俺が告白を断ったときのなっちゃんの顔……今でも思い出すと、背筋が凍りそうになる」


 自嘲的に、笑ってみせる。


「弱かった昔の俺にとって、なっちゃんは光だった。なっちゃんのおかげで寂しい思いをせずにいられた。……それだけ大事な存在を、俺は俺自身の手で傷つけたんだ」


 正直告白を断られたことよりも、こっちの方が俺には堪えた。


「なんでなっちゃんが俺に告白なんてしたのかは今でも分からないが……それでも兆候はあったはずだった。なんとなく、もしかして俺に惚れてるんじゃ?って。でも俺は、それを見て見ぬフリをした」


 たとえ兆候が見えても、”なっちゃんが俺なんかを好きになるはずない”、”自意識過剰だ”、そう決めつけていた。


 俺は全部見ないフリをした……自分の恋愛にかまけるために。


 安中のせいでも、なっちゃんのせいでもない。結局、あの日起きたことは全て……俺の自業自得だった。


 ほんと。……恋愛なんて、ロクなことがない。

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