#70 君の力になりたいよ
小学校の頃から唯一帰り道が同じだったなっちゃん。俺が地元の公立中に通うとなれば、進学先も彼女と同じになるのは自然な事だった。
中学時代、俺はバスケ部に入った。きっかけは本当に大したことなくて、ただなんとなくやってみたいと思ったから。一方なっちゃんはバスケ部のマネージャーになった。そして、俺たちの同級生でもう一人のマネージャーだったのが……安中樹里。
俺たちバスケ部は中学2年生のクリスマス・イブに、遊びに行く計画を立てた。
なっちゃんの家は毎年、クリスマスはイトコの家で過ごすのが通例なのだが、この時だけは何故か家の用をおして参加すると言っていた。
あの日のことは今でも事細かに思い出せる。夕方はファミレスに集まってみんなで駄弁ったり、メシを食べたりした。
『なっちゃん、コレ……クリスマスプレゼントっ!』
……また嫌な事を思い出した。
俺が贈ったのは確か、白いリボンだったか。なっちゃんは昔からサイドテールが好きで、きっと似合うだろうな……なんて思っていたのを覚えている。
けれど、彼女がそれを身に付けることはなかった。……理由は分かりきっている。
その日の夜には近くの商業施設、その屋上テラスで開かれていたイルミネーションをみんなで見に行った。
……そう。まさに夏休みで俺が六町と出かけた時、気分を悪くして倒れたあの場所だ。流石に今の季節はイルミネーションこそないが、それでもあの場所に行くと……つい思い出しそうになってしまう。
もし俺があんなことを言ってなければ、今頃は……。
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「だ、大丈夫……? 顔色悪いよ?」
「あ、ああ……大丈夫だ」
安中に出会ってから、そう経たない時刻。……また嫌な回想だ。
「……今日はもう、帰ろうか?」
「そう……だな……」
「じゃあ、はいっ」
六町は俺の方に手の平を差し出してきた。
「……お手?」
「よくできました~ってそうじゃなくって! 荷物だよ、体調良くなさそうだし」
「あ、ああ。ありがとう……」
どうやら俺を気遣っているらしい。別にそこまで俺なんかの身を案じる必要なんて、ないと思うんだがな。
それから俺たちは屋外へと出た。外の空気を吸っていると、ほんの少し心が軽くなる気がした。
「それでだけど、二駄木くん。……何があったの?」
「何って、何?」
「……ここで昔、何があったの? だってどう考えたって様子がおかしいもん。前に来たときは急に倒れちゃうし、今日は知り合いの人に会った瞬間具合悪そうにして……だから、聞かせてくれない?」
「…………。あれは中2のクリスマスの……」
そこまで言いかけて、やめた。
六町は不安げな顔で俺を見つめ続ける。たしかに俺は今まで2度も、六町に心配かけるようなことをしてしまった。実際本気で俺ことを心配しているのだろう。だが……。
「……いや、やっぱやめた。それにどのみち……お前には関係のないことだ」
「……嫌なことがあったなら、気にならないようにしてあげたいよ。私はもらってばっかりだから、何か返したいよ……っ!」
「だから、そんなの必要ねぇって」
「……そんな顔で言われても、説得力ないよ」
そう言われると、ふと立ち止まって、道の脇にあるショーウィンドウを見た。そこに映る俺の顔は……酷いもんだった。こんなに目元を赤くして……いつの間に泣いていたんだ、俺は?
「そんなに辛そうな顔して、放っておけるわけないよ!」
「だからッ! 関係ないって言ってるだろ……ッ!」
今度は自分でも分かった。目尻に涙が溜まっていることも、声が鼻水混じりになっていることも。
俺は六町を振り切って、駅の改札を通り抜けた。
六町は……俺を追ってはこなかった。
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中学二年、冬。
日付は12月24日……クリスマス・イブ。
それは恋人と甘いひと時を過ごす日。或いは友達と楽しいひと時を過ごす日。或いは家族と温かなひと時を過ごす日。
そんな中……自転車を押して夜道を歩く少女が一人。
「はぁ……」
ため息をつきつつ、少女はスマホを取り出す。今から帰るという旨を家族へ一報入れるためであった。
『早めに帰ることになったんだけど』『まだそっちにいる?』
『まだいる予定だから大丈夫』『今日は友達と食べてきたんだよね? 奈緒の分の料理、一応残ってるけど』
『いらない』『お腹いっぱいだから』
少女の家では毎年、クリスマスにはイトコの家でパーティーをするのが通例だった。しかし今夜はそれをおして、少女は部活の友人らとお出かけに行っていたのだ。
ふと、手に持ったモノを見つめる。袋の中身はリボン。……今日もらった、クリスマスプレゼントだ。
(……どうしよう、コレ。見ているだけで、なんだか辛くなる)
分からない。
(それに何より……明日からそーくんに、どう顔向けすればいいんだろう?)
何も分からない。
気持ちは沈むばかりで、自転車に乗る気にもならない。どうせイトコの家まで、ここから大して遠くもない……というのが、更にそんな気分を助長した。
やがて、イトコの家に辿り着いた。自転車を止め、インターホンを鳴らす。出たのは少女の母親だった。
中に入って手洗いすると、リビングに通された。お腹は減っていないから、少女はジンジャーエールだけ一杯もらうことにした。
毎年この日はお互いの両親たちこそ盛り上がっているものの、付き合わされる子供たちの方はそうでもない。お互い一人っ子で他に話す相手もおらず、毎年、必然的に一対一になる。
「……どうしたの? なんだか、落ち込んでる?」
イトコは、心配そうに少女に話しかけた。少女と同い年の14歳。中学2年生である。
「まぁ色々あって……その、色恋沙汰というか……いや、なんでもないや! 聞かなかったことにして」
「色恋沙汰かぁ……ちょ、ちょっと自信ないけど! でも深い間柄じゃないからこそ、楽に話せることもあると思うよ? それにほらっ……今は勉強もできないし、暇でしょ?」
笑いながら、イトコは言う。
そんなイトコの言葉に絆された少女は……話してみることにした。今日の出来事を。
(まぁ……話してみるだけでも楽になるって言うよね)
「じゃ、お言葉に甘えさせてもらうね。……なんかありがと、琴葉ちゃん」
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