表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/81

#65 深淵を覗く

「一連のABC紛失事件の犯人……」


 本庄先輩はそう呟くと、何か思いついたかのようにハッとした表情をした。


「……監視カメラを見てみるのはどうかな? 体育館だからあんま関連はないかもだけど、何かヒントがあるかもしれないし」

「まぁ一応……見るだけ損はないですしね」


 俺たちは昨日の監視カメラの映像から見てみることにした。


 A…アルケミー研究会は朝のうちに被害に遭ったから、これに関して映像から分かることは無さそうか。


 まずは1日目の午前中。B…文芸部が被害に遭ったのがこの時間帯だ。つまり、この時間帯に監視カメラに映ってる人間はアリバイがあると言っていい。


「ここは昨日のお昼にも見ましたね」

「うんうん。ダンス部の公演を見てる姉崎さんと僕が映ってたんだよね」


 他には……特に目ぼしいものは映ってないな。


 次は1日目の午後。C…コーラス部が被害に遭ったのがこの時間帯だ。


「たしか……あ、やっぱり。あたしが劇見てるとこが映ってる」

「どこだ?」

「ここっ」


 雨海が指さすところを見ると……たしかに。雨海、東金、金子らしき3人が並んで座っているのが見える。最初から疑っちゃいないが、まぁ彼女らにもアリバイがある感じか。


 最後に2日目の朝から現在まで。D…ダンス部、というか姉崎先輩が被害に遭ったのがこの時間帯だ。


「当たり前だけど、劇に出演してる姉崎さんや獅木が映ってるね」

「……これ、もしかして六町か?」

「あっホントだ」


 客席の中にふと見覚えのある女子がいると思った。あの天冠てんがんを頭に付けてるから意外に分かりやすい。それと真鶴も一緒にいるみたいだな。


 結局、映像から分かったのはごく一部のアリバイくらいか。正直そんなに進展した感じはしないな……。


 本庄先輩は改めて、デジカメの紛失に気付いたという女子生徒に問いかけた。


「うーん。カメラがなくなってるのに気付いたとき、他には誰かいなかったかい?」

「えぇっと……あっ! そういえば!」


 姉崎先輩のデジカメが消えたのを発見したという女子生徒は、何かを思い出したのか突然声を上げた。


「着替えをしてるときは中で私一人だったんですけど……そういえば私が部屋に入るとき、入れ替わりに出てきた人がいたんです!」

「ま、マジかいっ!?」


 本庄先輩はえらく驚いていた。たしかに、そんな重要な情報があるなら早く言って欲しかったものだ。


「どんな人だった??」

「身長はそこまで大きくなかったと思います。あとツインテールで、いかにも魔女って感じの衣装に帽子……それと何故か壺を背負ってました」

「……え?」


 この女子生徒が答えた特徴……俺が知る限り、そこに当てはまる人物が一人だけいた。というかピッタリ過ぎて、もはやソイツとしか思えない。


「我孫子か……!?」

「た、たしかにっ! 今の特徴って、まさにアビ子ちゃんだよ!」


 実際に盗まれた時刻が分かっていない以上まだなんとも言えないが、それでも現状では限りなく怪しい。


 そして、もし仮に我孫子が一連の紛失事件の犯人なら……。


「……そもそも姉崎先輩って、文化祭の間デジカメを肌身離さず持ってましたよね」

「うん、高価なものだしね。僕たちも昨日写真を撮ってもらったっけ~……でもどうしたんだい? (やぶ)から棒に」

「もし我孫子が犯人だとすると……あの犯行声明にも説明が付くんです」

「えぇっ、どういうこと!?」


 雨海は意外そうな顔をした。まさかこれらの事件が繋がるとは思っていなかったらしい。


「一連のABC紛失事件ですけど……コレ、犯人は事前に目ぼしをつけて実行した可能性が高いと思うんですよ」

「まぁ確かにね。部活と盗んだモノの頭文字をそろえるなんて、ドコでナニを盗むのか予め考えておかないと難しいだろうし」

「はい。ただ、計画的な犯行だったとすると……壁になるのが姉崎先輩のデジカメです」


 姉崎先輩はデジカメを肌身離さず持っているだろうというのは容易に想像がつく。つまり、これを盗めるタイミングというのはかなり限られていたのだ。それこそ……『姉崎先輩が劇に出ている間』くらいしか。


「実は昨日、偶然我孫子に会ったんですよ。時刻はおおよそ『15時』頃、我孫子はクラスの出し物で受付の仕事をしてました」

「15時頃って言うと、僕が爆破予告の警戒に当たってた時間かぁ……って、まさか!」


 どうやら本庄先輩は気づいたらしい。一方雨海はと言うと……。


「え、どういうこと? 説明してよっ!」

「今回の文化祭だが、爆破予告を受けてスケジュールが変更になっただろ? ところで爆破予告があった『15時』頃って、変更前はどんなスケジュールだったか覚えてるか?」

「えぇっと……確か……」


・・・

『爆破予告があった15時頃というのは、ちょうど姉崎先輩のクラスの番だったのだ』

『時間帯の引っ越しは免れず、不本意ながら軽音とブッキングする時間帯になってしまった』

・・・


「……変更前だと、姉崎先輩のクラスの劇だっけ?」

「その通り。つまり、もしスケジュール変更がなかったら我孫子は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ま、まさか……あの爆破予告の目的って!?」

「『劇のスケジュールを変えさせるため』だったんじゃないか……仮説に過ぎないが、今のところ俺はそう考えている」


 我孫子は監視カメラのアリバイも一切なかったし、あり得ない話ではない。


「ならっ、お願いします! 今すぐその人を見つけて、カメラを取り返してくれませんか!」


 例の女子生徒が、頭を下げてそんなことを言った。


「先輩の劇もそろそろ終わりが近い頃です。劇が終わったらクラスのみんなで記念写真を撮るんだって、先輩楽しそうに言ってて……そのっ!」

「分かったよ! すぐに我孫子さんを探し出そう!」

「俺も行きます。手分けして探しましょう。雨海はここの留守番を頼む」

「わ、分かった!」


 かくして、俺と本庄先輩は我孫子を探すべく生徒会室を飛び出した。



~~~



 本庄先輩は3階と4階。俺は1階と2階。文化祭中は人がいるため走りづらいのだが、それでも今は割と人が少なくマシだった。おそらく多くの人間が劇か軽音あたりに行ってるためだろう。


 1階を一通り探し回り、2階へ。しかし見つからない。入れ違いの可能性も考え、もう一度1階を探していると……。


「いたッ!」

「……む?」


 見間違えるはずがない。壺を背負ったツインテールの魔女……我孫子だ。


「って、うわっ!センパイっ!? ナニ走ってるんですか!?」

「我孫子、すまないが……」


 我孫子の衣装には、何かをしまい込むポケットのような場所が見られない。であれば、もし我孫子が犯人の場合どこに盗んだモノを隠すだろうか?


()()()()()()()()()()()()!」

「んなっ!?」


 俺は我孫子が背負っている壺の中を強引に覗き見た。その中には……。





「何も……ない?」

「だから、秘密って言ってるじゃないですかぁっ~~~!!」

「ブぐヘッ!!」


 またしても、背負った壺で顔面をブッ叩かれた。いたい……。


 しかし壺の中にないなら……。


「ぐうっ……単刀直入に聞く。我孫子、いま文化祭で起きてる一連の紛失事件だが……」

「あぁっ、アレですね!!」


 俺が問いかけようとした瞬間、我孫子は食い気味に口を開いた。


「ほんと! メーワクですよねーっ! 」

「……は?」

「私の存在を全校生徒に知らしめる、せっかくの”アビス計画”が台無しですよ!」


 あ、アビス計画……?


「……なんだそのアホみたいな響きの計画」

「アホとはなんですか! ……まぁいいでしょう、どうせ失敗に終わった計画ですから」


 我孫子は不機嫌そうな顔をしながら言葉を続けた。


「計画はこうです。富坂高校の文化祭で出し物をする部活から、同じ頭文字を持つモノを盗むんです。最初はA、次はB、更にY、S、S……繋げてABYSS、アビスです!」

「待て、じゃあ何だ。今回文化祭で相次いだ紛失はお前の仕業じゃないのか?」

「私の仕業ですよっ! ……A()()B()()()()。でも何者かが計画を乗っ取って、()()Y()()()()()()()()()C()()()()()()()()()()()()()()()()ほんとっサイアクです!」

「つまり……最初のアルケミー研究会は自演だったと?」

「そうとも言いますね」


 すべて同一犯によるものだと思われたABC紛失事件。しかし実際はABまでが我孫子によるものであり、C以降は何者かが計画を乗っ取ったものだった……。


「……まさかッ!?」


 すべてが、繋がった。


 俺は何も言わずその場から駆け出した。廊下を走り、階段を全力で駆け上がり、目指した場所は……。


 『化学室』


 化学室の後方、窓際の隅にはパーテーションで区切られたスペースが存在する。文化祭中は危険な薬品等をそこに集めておくためだ。


「はぁ……はぁ……」


 我孫子の捜索。化学室までの道のり。度重なる疾走で肩で息をしつつも、俺はパーテーションをどかして中へと入った。


「……あなただったんですね」


 そこにいたのは……。




「……やぁ、二駄木君」


 そこにいたのは……本庄先輩だった。

面白かったら評価・ブックマークよろしくお願いします。

「評価」というのは、

この下↓の ☆ マークのことですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ