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#64 ABC紛失事件

 あれから時は飛んで……翌日。



 文化祭2日目、日曜日。



 今日の実行委員の仕事は朝イチからの受付だった。


「おはようございまーす。中学生の方はこちらへどうぞ~」


 受付の場所は校門から入ってすぐ正面。外部の人間が文化祭に参加するためには、ここで受付を済ませなければならない。


「来られた人数をココにご記入ください。あと中学生の方は通っている中学の地域を丸で囲んでいただいて……」


 そんな調子で来る人をひたすら捌いていく。開場し始めてまだ30分程度にもかかわらず、中々の人の数だ。日曜日だからだろうか。


 ……しかし。受付の仕事をしつつも俺の頭の中を占めていたのは、昨日のアレだ。


 最初に『アルケミー研究会』からは『安息香』がなくなった。

 次に、『文芸部』からは『部誌』がなくなった。

 最後に『コーラス部』からは『CD』がなくなった。


 『モノをなくした部』の頭文字……そして、『なくなったモノ』の頭文字。なんとこれらが一致しているのである。しかも、それだけではない。


 Alchemy(アルケミー)……頭文字はA。

 Bungei(ブンゲイ)……頭文字はB。

 Chorus(コーラス)……頭文字はC。


 これらの頭文字は、モノがなくなった時系列の順に『A・B・C』となっているのだ。そして……これは某小説、およびその小説が更に元ネタとする『ABC殺人事件』という小説の内容に酷似している。


 それに……極めつけはあの爆破予告。あれは結局何だったんだ? ……分からない、推理するにしても現時点ではちょっと材料が少なすぎる。そんなことを考えつつ、俺は受付の仕事をひたすら無心に続けていたのだった。


「次の方どうぞー」

「……まだ気づいてないのね」

「ん? ……って!」

「おはよう、兄さん」


 俺の目の前にいるのは、実子だった。


「すまん。気づかなかった」

「ま、別にいいけど……」


 そう言いながらも、紙面の各項目を記入していく実子。


「……できたよ」

「これがパンフレットと、アンケート用紙。よかったらアンケートは玄関にある箱に投函してくれ、だとよ」

「ありがとう。……楽しみにしてるから」


 そう言い残すと、実子は静かに去っていった。


 今日は文化祭2日目……今日のために俺はピアノ演奏の練習を続けてきた。


「……これがきっかけになれば、いいんだけどな」


 実子との距離を再び縮めるために。そして……。


 ……俺が過去を振り切るために。



~~~



 それから数時間。俺はひたすらやってくる客を捌き続け、やっと解放されたところだった。次の実行委員に受付を引き継ぎ、校舎の中へ戻る。これから、俺には”会う約束”がある。


 時刻は……11時前。学内でも話題の、姉崎先輩と獅木先輩の劇が少し前に始まってる時間だ。そのうえ軽音が始まろうという時間だからか、校舎の人口密度が昨日よりも少ないように思える。


 階段を上って、2階の渡り廊下付近に……いた。


「おまたせ」

「遅いっ」

「仕方ねぇだろ……俺の次のヤツが中々来なかったんだからよ」


 そこで待ち合わせていたのは、雨海だった。今日もついさっきまでコスプレ喫茶だったらしい。雨海は昨日も着ていた赤ずきんスタイルだった。


「つーか誘ったのはそっちの都合だろ?」

「そ、それはそうだけど……」


 雨海は恥ずかしそうに言った。


 そして……雨海が俺を誘った理由、それは……。




「……はいっ、次の方は……2名様ですね!」

「よう六町」

「ふふっ。ようこそ二駄木くん、愛依ちゃん!」


 そう、雨海が俺を誘った理由とは……我らが2年B組の出し物、お化け屋敷である。


「……」


 俺の横でさっきからずっと無言の雨海。話を聞くに……どうやらお化け屋敷が苦手らしい。昨日は六町が雨海のクラスに行ったから、今日は雨海の方が……とのこと。


 ちなみに……結局俺は準備にほとんど参加できなかったため、自分のクラスの出し物にも関わらずほぼ完全初見である。


「それじゃあ二人とも、行ってらっしゃ~い!」


 暗闇の教室に俺たちが入るやいなや、六町がすぐに扉を閉めてしまった。外からの自然光が遮断され、辺りは闇に支配される。


「にしても……そんなにお化け屋敷が怖いなら、無理して来る必要なかったろうに」

「う、うるさいっ!」


 威勢よく応える雨海。だがその表情は暗闇でよく見えない。


「ちょ、ちょーっと苦手意識があるってだけで、文化祭のお化け屋敷くらい……」


『ドンッ!!!!』


「ひゃあっ!!」


 鈍く大きな音が響くと同時に、雨海が俺の腕に抱きついてきた。


「ちょ、おまっ……!?」

「うう……」

「……はぁ、仕方ねぇか」


 さっきまでの威勢はどこへやら。それどころかいつも通りの強がりさえできないほどに怖がっている様子であった。そこまでしおらしくされると、茶化すのも悪い気がしてくる。


 落ちてくる蛇のおもちゃ、ロッカーから飛び出す幽霊、襲い掛かる死神。


「きゃあっ!!」

「ぎえっ!!」

「えぇーーん!!」


 ……マジで無理してまで来る必要なかったろお前。この見栄っ張りめ……。


「……」

「やっと抜けた……」


 もうお化けがどうこうとかより雨海がとにかくやかましかった。


 教室の後ろの扉から出て、一応六町に再び会いに行く。


「おっ、戻ってきた~。どうだった?」

「ああ……雨海もだいぶ堪能してたよ」

「怖がったぁ……」


 雨海の目尻を流れる涙。そうだねぇこわかったねぇ。


「……にしても、怖がりすぎだ。一番最初のデッカい物音で既に参ってただろお前」

「うっ、それは」

「……『一番最初』の、『デッカい物音』……?」


 俺の言葉を聞いた瞬間、六町が怪訝そうな顔をした。


「記憶違いじゃなくて?」

「ああ、その可能性はないはずだが……」

「……そっか。でも計画だと、最初のおどろかしは『蛇のおもちゃ』のはずなんだけどなぁ……」


 蛇のおもちゃ……確かにあったな。最初に聞いた物音の、その次だったはずだ。


 しかし仕掛け人側である六町が言うに、それはおかしいと。


「なんだか……謎めいてるね」


 六町は難しい顔をしてうーんと唸った。


 何にせよ、六町をこれ以上付き合わせるわけにはいかない。劇と軽音の影響で人が減っているとはいえ、また次の客がやってきている。


 俺は六町に別れを告げ、その場を離れた。



~~~



 それから雨海と校内を回っていたのだが……途中で生徒会室の近くを通りかかった。


「……なんか騒がしいね」

「ちょっと入ってみるか」


 生徒会室の扉を開く。


「……あっ、二駄木君に雨海さん」

「本庄先輩。どうしました?」

「それが……また、なんだ」


 『また』……それって。


「また紛失物ですか?」


 本庄先輩は頷くと、そばに立っている女子生徒の方を見た。コイツが知ってるのか?


「で、今度は一体何が?」

「デジカメです」

「……本庄先輩。この人って……」

「ダンス部だよ。姉崎さんの後輩さ。さっき実行委員の腕章を付けて歩いてたら、声をかけられてね」


 ……そういうことか。


「今度は姉崎さんのデジカメがなくなったんだ」


 姉崎先輩は確かダンス部だったはずだ。つまり……『ダンス部』の『デジカメ』がなくなった。


 Dance(ダンス)……頭文字はD、か。


「A,B,Cで、まだ終わりじゃなかったんですね……。ってか、どういう経緯でなくなってるって分かったんですか?」


 もう計4回も続いておいて、この関連性を見逃す気にはなれない。しかし一連の紛失事件が特定の人物による『盗み』だったとして、何故こんなことを……。


「さっき私、女子更衣室に行ったんです。あっ、体育で使う方じゃなくて、お化け屋敷の隣の教室ですよ?」

「……続けて」

「それで着替えてる途中、なんか乱雑に放られた鞄があるなぁって思ったら、いつも部活で見てる姉崎先輩の鞄だったんです。いつも几帳面なあの人が変だなって思って近づいてみたら……」


 そう言って女子生徒が取り出したのは……デジカメ用のポーチだった。もちろん中身は入っていない。


「ポーチのフタが開いたままで、しかも中身がないなんて。変じゃないですかっ!」

「別に、姉崎先輩が今も持ってるってだけなんじゃあ……いやゴメン。それはないか」


 雨海は一度考えを述べたものの、すぐに撤回した。しかしその通りで、姉崎先輩が今カメラを持っているはずはないのだ。


「姉崎さんは今まさに、劇に出てるとこだもんね」

「ですよね……」


 本庄先輩はそう言いつつ考え込む。


 不発に終わった謎多き爆破予告、連続紛失事件、一体どうなってるんだよこれ……?

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