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#60 祭りの影を蠢く者

 翌日。


 今日も文化祭実行委員の集まりがある。放課後、俺は再び会議室へと向かった……のだが。


「どうしようね……コレ」


 何やら騒がしい様子だ。教卓を中心に、実行委員の人だかりができていた。人の輪の中心にいるのは実行委員長である姉崎先輩と、本庄先輩。


「あっ、二駄木くん。見てよこれ」


 俺に気付いた本庄先輩が人を掻き分けてこちらへやってくる。『見てよ』と言う先輩が手に持っていたのは、一枚の紙だった。


 紙にはこう書かれていた。


 『予告。

  文化祭初日の14時頃、体育館を爆破させていただく。

  爆破というとどこか安っぽくも聞こえるかもしれないが、

  どうあれ多少の小火ボヤは避けられないものと思ってくれ給え。』


「……犯行声明、ですか?」

「全く迷惑だよねぇ~」


 本庄先輩は呆れたような顔をした。しかし今時爆破って、流行らないよなぁ。まさかこの目でこんなブツを見ることになるとは。


 俺が本庄先輩と話をしているところ、人だかりからこちらにやってくるのは姉崎先輩だった。


「でも……爆破っていうのがたとえコケオドシだとしても、『多少の小火は避けられない』だなんて、無視もちょっとしづらいよね。」


 そう言う姉崎先輩は、さっきからずっと不安げな面持ちをしていた。


「うん。本当に”多少のボヤ”で済むとして、それでも外部からの客がいる中じゃ流石に……ねぇ」


 うーんと唸る先輩二人。考え込んでからしばらく経ち、やがて本庄先輩が再び口を開いた。


「……初日の14時頃となると、だいたい最終公演の時間になるよね。でもって2日目の最終公演って、初日よりも早く終わるじゃん?」

「そうだね。初日は15時頃に体育館の出し物が終わるけど、2日目の方は予定なら15時前には終わるはず……」

「だからさ、体育館のスケジュールを見直すのはどうかな? 1日目の終わりを早めて、逆に2日目の終わりをその分遅くするんだよ!」


 なるほど。つまり爆破予告にある『初日の14時頃』には体育館がカラになるようにし、被害を最小限に抑えようという魂胆か。


「確かに……本庄くんの言う通りかもね。でも……」

「でも?」

「他にも何かできることは……あ、そうだっ」


 姉崎先輩は何か思いついたとでも言いたげなハッとした表情で手を叩いた。


「監視カメラとかどうかなっ?」

「監視カメラ……え、マジ? 冗談ではなくて?」


 本庄先輩は呆気にとられたような顔をした。


「別に今回のためだけに監視カメラを買おうってワケじゃなくて、スマホを使って作れるんじゃないかな……?って」

「す、スマホ?」

「私、機種変したばっかりでね。古いスマホを持ってるんだ。それを使って監視カメラを作ったりとか……できないかなっ?」

「はい、可能でしょう」

「任せてください」


 人だかりの中からメガネをかけた男子たちが突如湧いてきた。メガネをクイっとやりながら姉崎先輩の質問に答える。てか誰だよコイツら。


「うーん……まぁ、そこまで言うなら」


 本庄先輩は苦笑いを顔に浮かべながら頷いた。つーか今のメガネ、ほんとに一切説明ナシ?? マジで誰なんだ……。姉崎先輩に一方的に惚れちゃってる冴えないオタクくん、って感じだろうか? この人めっちゃ人気者っぽいし……。


「決まりだね。さて、とりあえずは体育館のプログラムの調整だけど……」

「それなら僕に任せてよ! こういうアクシデントの対処には慣れているからね」

「……うん、そうだったよね。……いつもありがとう、本庄くん」


 そういえば生徒会長と副会長の関係なんだよな、この人たち。


 それにしても……今日の姉崎先輩は、どこか昨日とは雰囲気が違っているように思えた。何というか、”煮え切らない”みたいな……。


「……というわけで、今日のところは解散ですっ。ごめんね!」


 姉崎先輩がそう言うと、実行委員たちはぞろぞろと部屋を後にしだした。俺も人の流れに乗って部屋を出たのであった。



~~~



 会議室を後にして、俺は2年B組の教室に戻った。


「……あれっ、二駄木くん?」


 教室に入るやいなや、俺に気が付いたのは六町だった。


「色々と事情があってな。今日の実行委員の活動は中止になったんだよ」


 爆破予告に関しては『他の生徒への口外は禁止』ということになった。だから、六町に対しても『色々あって』と言うほかなかった。


「そうなんだ。でも……二駄木くん、クラスの準備を手伝う余裕なんてあるの?」

「えっ……」

「愛依ちゃんから聞いたよ。二駄木くん、実子ちゃんのためにピアノ演奏するんでしょ。確かに今、こっちも人手が足りなくてひいひい言ってるトコだけど……そんなに無理しなくても大丈夫だから、ねっ?」


 六町はそう言って優しく微笑んだ。


「……すまんな。俺、今年はクラスの準備にはあんま顔出せなさそうだわ」

「ううん、いいんだよっ」

「じゃ、ちょっと音楽室行ってくるわ」


 俺はそう告げて教室を後にした。


 音楽室の使用許可を取りに職員室へ。今日は運よく使われていないようだったが、予定表には既に軽音部やコーラス部などの先約で埋まっている日も多くあった。


 体育館にある方のピアノも、体育館が劇の練習で使われる日が多いために借りられる日は限られている。なるほど……思っていたよりも練習期間はギリギリっぽいな。


「大丈夫かねぇ……本番。なんか不安になってくるわ」


 俺は予定表の今日の欄に名前を書くと、音楽室へと向かうのだった。

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