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#42 小箱の中より出でる謎

 ここ金工室で、実子の作った小箱が壊されているのが発見された。


 発見されたのは授業終了直後であり、授業中に金工室へ入ったのは雨海充也あまみみつやただ一人だった……。


「ちなみに……中から繋がってる扉じゃなくて、廊下側から金工室に入ったやつはいないのか?」

「そっちは授業中施錠されてるので、木工室から直接入るしかないですね」

「なるほど……。あと、授業が始まる前に壊されたって線は?」

「授業が始まる前はたしかに無傷だったそうです。実子が言ってました」


 ……つまり、小箱が壊されたのは確かに授業中であり、そこに入ったのはやはり充也だけ……ということか。多分金工室に戻ったのは忘れ物を取りに行ったとか、そんなところなんだろうな。……充也が犯人でないのなら、だが。


「その壊れた小箱ってのは今どこに?」

「隣の木工室にあります。見てみますか?」

「ああ」


 俺たちは木工室へと移動した。こちらは金工室ほど機材や工具で溢れているわけではなく、どちらかというと部屋のスペースは生徒の作品の保管に費やされているようだった。


「向こうにあるのが生徒の作品を保管するための棚です。えっと実子のは……こっちです」


 棚には製作中らしき他の生徒の作品がたくさんあった。また同じ棚には、これから使うのであろう木材なども袋に保管されていた。見たところまだ完成してる人は少ないようだ。……相変わらず、流石だな。何をやらせても要領いいのは変わってないらしい。


「……これが実子のか」

「はい。ちなみに、技術の時間は席を立って自由に材料を取りに行ったりできるので、どさくさに紛れて持ち去ること自体は誰でもできますっ」

「立ち歩き……なら教室から出るのは?」

「それも大丈夫です。実際、私も勝手にお手洗いには行きました」

「随分アバウトな先生だな……」


 なるほど。当の本人である実子はというと、俺たちからは一歩離れた場所で話を聞いていた。俺は例の小箱を観察することにした。


 小箱はフタが取れており、箱本体は真っ二つになっていた。大きさはティッシュ箱の半分くらいだろうか。板の厚さは1.5センチほど、結構厚いな。


「この板の厚さだと、手で壊すのはちょっと難しそうだな。ハンマーかなんかで壊されたって感じか。もしくは力の強い男……とか」


 どちらにせよ、教室内でそんなことをしようものなら確実に見つかる。破壊した場所は少なくとも教室の外……トイレとかだろうか?


「それなんですけど……」


 舞浜は急に難しい顔をした。


「技術の授業は班分けされて行うんですけど、工具の類は班ごとのテーブルに置かれてるんです。だから……誰かが工具を持ちだしたら絶対バレるはずなんです」


 舞浜の発言は暗に”誰も工具を持ち出していない”ことを意味した。


「なら、工具かなんかを私物として持ち込んだとか……」

「それもありえないんです」

「えっ?」

「”生活指導週間”です。今週1週間はそんな感じで、毎朝持ち物をチェックされるんですよね~……」

「つまり不要物や危険物を持ち込もうなら没収、ってことね」


 ……そりゃ充也が疑われるわけだな。


 小箱は金工室で、破壊された状態で見つかった。よって充也以外が犯人だとすると『どうやって小箱を破壊し』『それをどうやって金工室に入れたか』という二つの壁がある。その点、授業中に金工室へ入れるとしたらどうだろう? 誰にもバレず金工室の工具は使い放題だし、どうやって金工室に入れたかなんてもはや愚問。充也が犯人なら、二つの壁は容易く解決できる。


「どうでしょう、お兄さん。何か分かりました?」

「……残念ながらまだ分からんな」

「そう、ですか……。あっそうだ、せっかくだから屋上! 行きませんか?」

「屋上?」


 思いついた! と言わんばかりに舞浜は両手の手のひらをぺたっと合わせ、それから踵を返して廊下へと向かった。


 俺と実子もその後を追う。


 ……その間、やはり特に話すようなこともなかった。妹の話をするのも、妹と話をするのも、俺はあまり好きではなかった。



~~~



 木工室と金工室があったのが3階。屋上はその一つ上の階である。


 校舎の屋上と聞いて、特にそこには何もない”いわゆる屋上”を俺はイメージしていた。……しかし実際のところ、慧明付属中の『それ』は俺の想像とは異なるものであった。


「薔薇か。こんなに……綺麗だな」


 俺が想像していた屋上とは違い、綺麗な花壇が広がっていた。今は6月頭、ちょうど薔薇の開花時期だ。花壇の薔薇は鮮やかに咲き乱れ、この学校にふさわしい美を振りまいていた。


 他にも屋上には自販機、ベンチ、それにカフェなどによくあるパラソルやテーブルなんかもある。実子たちはテーブルに座り、俺は自販機で適当にペットボトルのジュースを買ってからそこへ向かった。


「このパラソルとテーブル、結構新しいな」

「分かります? これ、今年から設置されたんです」


 テーブルは二つに分割されており、パラソルを中心に挟み込むような造りになっている。簡素ではあるが、新しいのもあってか安定感は上々。流石私立……そろそろこの反応もマンネリしてきた頃だな。


「……この真下が多分、木工室か金工室だよな」

「え~と、木工室が校舎の端だから……その辺りがちょうど金工室ですね」

「舞浜。授業が終了したときの金工室って、窓は開いてたか?」

「え~っと、どうだったかなぁ……」

「確か……窓は開いてたはずよ」

「えぇっと……言われてみれば確かに、開いてたね!」


 なるほど……と俺はテーブルから立ち上がり、屋上の柵に近づいた。……柵は新しく塗りなおされているようだが、よく見るとそこにかすかな擦った痕を見つけた。


「あっ……もしかして窓から入れたとかですか!? ちょっと推理小説みたいでワクワクしますね~!」

「推理小説といえば……そういえば私が先週貸したヤツ、まだ返してないよね?」

「そ、それは~……ここのとこ、毎日実子にチョコ貢いでるでしょ? だから……」

「アレってそういうことだったの……。正直に言ってくれれば延長くらい構わないのに」


 実子は額に手を当てて呆れていた。俺は柵から身を乗り出して1階下の金工室の窓を見る。窓までの距離はそこまで離れているというほどでもないが……。


「屋上から投げ入れるのはちょっとキツそうだな、角度的に。よっぽどカーブをかけて投げられるんなら別だけど」


 屋上から壊した小箱を投げ入れる場合、当たり前だが単に垂直落下させるだけでは決して入らない。窓に入れるためには手前方向にも十分速度がついてないといけないのだ。すなわちWWWワンダーワイドホワイトボール並みの魔球を投げる必要がある。そこまでは求めてねぇ……。


「流石にここの屋上から入れるのは無理だろうけど……なら向かいの校舎の屋上ならどうかな、七海」

「あっ、確かにっ。それなら狙いもつけやすいかも!」


 俺は実子の案を聞き、向かいの校舎を見た。どうやら向こうにも概ね似た造りの屋上があるようだ。確かにあっちからなら角度的にも無理はないだろう。ただ……。


「ただ……そこそこ距離があるから、投げられる人はかなり限られそうね。かなりの剛腕が必要そう」

「そうだね。しかも投げやすいボールじゃなくて、小箱だし……」


 壊した小箱を金工室に入れる方法はこんなものか。あとは……。


「舞浜から見て充也以外に、誰か怪しい人はいないのか?」

「うーん、でも今のところは…………実子はどう?」

「……花見川さん、とか? とはいえ雨海君以外に犯行が可能な人は彼女含めていないし、動機の面で考えてみたってだけなんだけど」

「花見川って……誰だ?」

「は、はいっ。うちのクラスの花見川華憐はなみがわ かれんという子です」


 すげー名前だな……このお嬢様感よ。


「それで『動機の面』ってのは?」

「花見川さんも1年生の頃からずっと同じクラスなんですけど、”負けず嫌い”って感じで……実子をいっつもライバル視しては突っかかって来るんです。まぁいつも実子が勝っちゃうんですけど! 実子は入学してからずっと、テストでは学年1位ですからね~」


 この子はどの立場でドヤ顔しているのだろうか……。しかしまぁ『動機』という言葉の正体はなんとなく理解できたが。


「でも実子が言う通り、花見川さんも金工室には入ってないんですよね。女子は基本、金工室に寄りつく理由もないですし……」


 それからしばらく屋上で思案し続けたが、あまりそれらしい案は出ず……。


「……そろそろもういいんじゃない? 帰りましょう」

「う~ん、そうだね。今日のところはここまでにしようか」

「えっ。今日のところは……って、明日もこんなことするつもりなの……?」


 実子は舞浜の言葉におののいていた。コイツもこんな顔するんだな……。


「えっダメだった!?」

「もういいよ……。私だって別に、そこまでして犯人が知りたいわけじゃないの」

「うーん、実子がそう言うなら……」


 そんなこんなで、俺たちは屋上を後にした。1階まで降り、校舎から出る。


「……あ。そういえばこのペットボトル、どっか捨てる場所ってあるか?」

「あ~それならこの校舎に入って、右手の突き当たりにゴミ箱があったはずです」

「すまん、助かる。ちょっと待っててくれ」


 俺は校舎の中に戻り、舞浜が行っていたゴミ箱へ向かった。突き当たり……あった。俺は歩みを早めた。そのとき……。


「きゃっ…」

「おっと……あ、すみません」


 曲がり角で女子生徒とぶつかりそうになった。髪の長さは肩甲骨に届く程度、全体的に巻かれた茶髪をリボンで結っている。


「えっ……うちの制服じゃ…ない……?」


 ……嫌な予感がした。


「ふ、不審者ですの~~っ!?」

「やめろォーーーッ!!」


 今日イチで身の危険を感じた瞬間である。

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