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#41 唯一人の容疑者

「『二駄木さん』って、えっ。まさか……この子が二駄木くんの妹さん!?」


 六町は大層驚いていた。かく言う俺も、まさか最寄り駅で会うことになるとは思ってなかったが。


 妹の実子みこは同じ慧明付属中の制服に身を包んでいた。ブレザーの富坂高校とは違う、黒いセーラー服。風になびく綺麗な濡羽色、切り揃えられた前髪、いつも通りの見慣れた姿だ。しかし……。


「『二駄木くん』……あっ、もしかしてお兄さんですかっ!?」


 もう一方の少女、こちらは見覚えがない。髪は亜麻色のセミロング、それと可愛らしい髪留め。同じ制服を着ているということは、まぁ実子の友達なのだろう。


「初めまして。私、舞浜七海まいはまななみといいます! 実子がいつもお世話になっております~!」

「恥ずかしいからそういうの辞めて……というかどういう立場……?」


 舞浜と名乗った少女はずいっと前に出て俺に近づき、実子はそれに呆れていた。まぁ自分の身内をあまり人に見せたくないみたいな気持ちは俺も分かるが。


「ところで……なんで雨海くんが?」

「ままっ、舞浜さんっ!! えっと……これが俺の姉ちゃんで、二駄木先輩たちは姉ちゃんたちの友達らしいんだ」

「す、すごい偶然……」


 ほんとだよ。まさか雨海の弟が俺の妹と同じ中学だったとは。


「それと……ごめんっ! やっぱり俺、やってない。それだけは譲れないよ」

「……そう」

「ううん。確かにみんな雨海くんを疑ってたけど……でも私は証拠もなく雨海くんがやったなんて思ってないし、それは実子も一緒だよ」

「ま、舞浜さん……!! あ、ありがとうっ!!」


 そう言う充也はかなりキョドっていた。つーか見た感じこいつ、明らかに……。


「それで……さっき言ってた『事件』って?」

「はい。それが……そこの二駄木さん……同じ苗字で紛らわしいっすね」

「……はぁ、宗一でいい」

「分かりました、宗一先輩! で、事件の話っすよね。それが……」

「実子の作品が壊されちゃったんです」


 そう言ったのは舞浜だった。壊された……ね。また穏やかじゃあねぇなぁ。


「壊されたって、何が?」

「技術の授業で作った木製の小箱です」

「あ~懐かしいな、木材加工とか。慧明みたいな学校でもやるんだなそういうの」

「やりますよ~」


 舞浜は朗らかに答えた。なんというか、男子に人気ありそうだな。正統派って感じだ。そう舞浜から話を聞いていると……俺の前へ出てくる者がいた。充也だ。先ほどまでと比べても、真剣な顔つきをしている。


「……俺は今日初めてお会いしましたが、名前は姉ちゃんや兄ちゃんから聞いたことがあります」

「えっ何それ雨海家で俺の存在が知られつつあるの? こわ……」

「宗一先輩の評判をお聞きして、頼みたいんです。お願いします! 俺がやってないってこと、証明してくれませんかっ!?」

「……あたしからも、頼む」


 雨海姉弟から真剣に頼まれてしまった。……ぐぬぬ。あと部外者のはずの六町、なぜお前も真剣そうな顔をしているのだ。いや聞くまでもないが。


「はぁ……分かったよ」

「お兄さん、こういうの得意なんですか?」

「うんうん! 二駄木くんは今まで何度もこの手の案件を扱ってきた実績があるからね!」

「だからハードルを上げるなって前から言っておろうに……」


 とはいえ、まだ情報がほとんどない状況だ。というか名門私立中学で起きた事件なんて……。


「そうと決まれば、事件の捜査はぜったい必要ですよね! 今から行きましょう、お兄さん!」

「行動力~~~」


 マジかよ。こちとら生まれてこのかた公立にしか通ったことないんだが? 緊張する~~~。


「う~ん。本当は私も気になるところだけど……あんまり部外者がいてもよくないよね。私は行かないほうがよさそうかな。二駄木くんなら在校生のお兄ちゃんってエクスキューズもあるし、いや気になるけどね?」


 めっちゃ気になってるじゃん……。


「そうだな。あたしも今日のところは帰ることにするよ」

「自分も行きたいのは山々ですけど、今の自分が変に現場に近づいちゃうと怪しまれちゃうので……」


 そんなワケでこれから舞浜、実子、俺の3人で慧明付属中へと向かうことになったのであった。



~~~



 私立慧明学園付属中学校は、富坂高校と同じく大通り沿いに建っている。もっとも、最寄り駅から歩く方向は真逆だが。


「……じゃあ舞浜は実子とどれくらいの付き合いなんだ?」

「1年生の頃からずっとです! 同じ書道部だったのがきっかけで……」


 そんな調子で適当に話を合わせながら、歩き続けること7,8分ほど。


「……はいっ、着きました。ここが私たちの学び舎、慧明付属中です!」

「なんというか……すっげぇな」


 まるで漫画やアニメに出てくるお嬢様学校さながら……とでも言おうか。ベージュを基調とした洋風の綺麗な建築、奥に見えるのは綺麗に手入れされた庭と……噴水? すげぇな……。


 そして、眼前には重厚感溢れる校門がそびえ立つ。校門のすぐ近くには詰所があり、中にいる警備員は何やらこちらの様子を気にしているようだ。まぁ、部外者の高校生など悪目立ちしないほうがおかしいワケで。ましてや名門私立ならなおさらだろう。


「それじゃあ早速事件現場に……」

「まずは受付でしょ。あと『捜査』とか『現場』とか、いちいち恥ずかしいからやめてよ七海……」

「えへへ……じゃ、ついてきてくださいね。お兄さん!」


 言われた通り、舞浜に連れられて受付へと向かう。最初は怪訝な目で見られたものの、なんとか来賓手続きを完了して許可をもらうことに成功した。


「では手続きも済みましたし、今度こそ現場……実子の小箱が発見されたところへ行きましょう!」


 受付を離れ、一旦校舎を出る。どうやら別の校舎らしいが……というか見たところ明らか校舎とかではなさそうな建物もちらほらとあるな。金の力をビンビンに感じるぜ……。


 やがてとある校舎に入り、階段を上って3階へ。その校舎の端……”木材加工室”、ここか?


「実はそこではなく……こっちですっ」

「違うのか。……”金属加工室”?」


 舞浜は扉を開け、中に入った。俺も続いて入る。中は金属加工室という名の通り、そういった機材や工具がいたるところに見られた。


「技術の授業は時期によって”木工室”と”金工室”、どっちで授業をするか変わるんです。あっ、木工室っていうのは木材加工室の略で……」

「みなまで言わなくても分かる」


 ここ金属加工室は、略して金工室というわけだ。


「技術の授業はジャージで行うんですけど……女子はクラスの教室で着替えるのに対して、男子は木工室と金工室の()()()使()()()()()()で着替えるんです」

「つまりここんとこは木工室で授業してるから、男子は金工室で着替えてるってわけか」

「そうですね!」


 それから俺が気になったのは、金工室内にある”扉”だ。おそらくこれは……。


「あっ、あそこですか? あの扉の先にあるのは木工室です。木工室と金工室は、中からあの扉で繋がってるんですよ」


 やっぱりか。……となると、充也が疑われているという理由、なんとなくだが察しがついた気がするぞ。


「……ところでだが、実子の小箱が壊れてたのって”いつ”発見されたんだ?」

「あれは今日の4時間目……技術の授業が終わってすぐのことでした。クラスの男子が着替えようと木工室から金工室に戻ったとき、発見されたんです」


 舞浜は窓際のあたりの床を指さした。大体その辺にあった、ってことか。


「それで……授業中にこの部屋に入った人間は?」

「流石、実子ちゃんのお兄さんですねっ。話が早い! ……そうですっ、授業中にこの部屋に入ったのは唯一、雨海くんだけだったんです」

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