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#03 「そこ」にいない彼女

 体育館の入口へと近づき、今度はしっかりとその男子の姿をとらえた。さっきは見えなかったその顔も見え、俺の予想は確信へと変わった。


「何やってんすか……本庄先輩」


 盗撮疑惑をかけられていたこの男子生徒を、俺は知っている。


「おっ、二駄木君! どうしたのこんなところで?」

「えぇっ!?知り合い……なの?」

「まぁな。部活の先輩だ」


 名前は本庄隆虎ほんじょうたかとら。3年D組。なんだか妙に強そうな名前をしているが、普通に眼鏡とかしてるし、普通にオタク趣味。人は見かけにも名前にもよらない、ということだ。


「あと、やっぱりこの人は盗撮魔なんかじゃない。確信したよ」

「えっ!?盗撮!? あ~今の見られてたんだね?いやこれはそういうんじゃなくて……」

「わかってますよ」


 青井の様子を伺うと、好奇心に満ちた目でこちらをじっと見つめている……。どうやら説明をお求めのようだ。


「女子部員を撮ってるわけでも、体育館自体を撮ってるわけでもないとしたら、他にどんな可能性があるか……」

「……」


 いやそんなにじっと見られると流石にやりずらいんだが……。つい目を逸らしてしまった。改めて俺は彼女の方へ向き直り、答えを口にした。


「『AR』なんじゃないか……と思ったんだ」


 俺は続けて本庄先輩に訊いた。


「今さっき通知に気づきましたけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「そうなんだよ!! いや~今回の新衣装も素晴らしくてさー! スポーティな感じがあきらに合ってるっていうか~!」


 今さっき気づいたってのは嘘なんですけどね……。しかし青井の方はというと、いまいち話についていけてないらしい。俺はもう少し詳しく話すことにした。


「この人がやってるゲームには、ARを用いて”ゲームのキャラが現実世界にいるかのような写真”を撮る機能があるんだよ」

「……そっか! 撮るものが何もないのにスマホを構えてたのってまさか……」


 そう。一見して本庄先輩は『誰もそこにいない』のに写真を撮っているように見えた。しかし実際のところ、被写体はスマホ越しに『そこにいた』のだ。


 もう少し言うと、先輩の推しである”あきら”は『元バスケ部で今はアイドル』という設定だ。本庄先輩は今日ガチャで引いた”あきら”の新衣装を撮影するため、わざわざこんなところにいたのだろう……多分。


「しかし、よく怒られなかったっすね……こんなところで撮影なんかして」

「ま~多少注意されたけど、そこはまぁ熱意で! わかってもらえたよ!」


 基本普通にいい人のはずなんだけど、たまに壊れるんだよなこの人……。この手の奇行は初めてじゃないけど、毎度これで済んでるあたりすごい人なのかもしれない。


「ところで……その子は? 初めて見るけど」

「は、はいっ!? えぇっと……私、青井颯と言いますっ!」

「あっはは! そこまで緊張することないのに! 僕は本庄隆虎、よろしく!」


 ……やはりと言うべきか。俺に対しては慣れたといっても、依然として男全般への苦手意識はまだ抜けないらしい。



~~~



 それから本庄先輩はひとしきり撮影すると、友達と自習室で勉強する約束があるんだと言って戻ってしまった。


「二駄木くん……すごいね! 今日の推理も面白かったよ!」

「なんだよ今日の推理って。きょうのわんこじゃないんだぞ……」


 話がようやくひと段落したところだが……そういえば俺はなんでこんな場所に来たんだっけか?


「……そういや、元はと言えばこれを提出しに来たんだっけか」


 俺は手に持っているプリントの存在を思い出した。


「あっ、その課題、確かプリントの半分を切り取って出すやつだったはずだよ」


 青井にそう言われてプリントをよく見返してみると……確かにそう書いてあった。完全に見落としていた。


「高校でハサミって滅多に使わないから、持ってる人ってあんまりいないよね。最近は体育祭の準備作業してるから、そこに行けば多分借りられ......」

「ハサミ常備しててよかった~」

「常備してるんだ!?」


 別に深い理由はないのだが、鞄の持て余したポケットにはハサミを入れてある。ずっと入れっぱなしにしていると言った方が正確なのかもしれない。


 俺たちは体育館を後にし、それから体育教官室前の棚にプリントを提出した。もうここに用もないため、俺は実技棟を後にすることにした。


「あの……二駄木くんは、もう帰るの?」


 青井は実技棟から外に出たところで、そう問うた。


「まぁ、そうだな」

「じゃあ……私も一緒に帰ろうかな?」

「え?」



~~~



 校門を通り過ぎ、学校の外へ。


 俺たちの通う高校は都立富坂高校という。ここは大通り沿いに建つ高校で、最寄り駅までの道も基本迷うことはないのだが……駅までが少し長い。徒歩にして10分程度。


 普段は一人で歩くことが多いこの道だが、今日は違った。


 俺の隣を歩いているのは青井颯。ここのところ『放課後の令嬢』と存在を噂される、本人その人である。もっとも俺にとっては今更、神秘性の欠片も感じない噂なのだが。


 しかしこれだけの美少女が横にいると落ち着かないな。ただでさえ長めの徒歩区間が更に長く感じてしまう。


「俺はこっち方面だけど、青井は?」

「あ、私と逆だね」


 やっとこさ、駅へと辿り着いた。改札を通り抜けた先は分かれ道。どうやらここまでらしい。


「二駄木くんって、いつも放課後の教室にいるの? 物好きさん?」

「最近はあそこにいることが多いな。つっても明日は部活があるが」

「じゃあ、明後日行ってもいい!?」

「えぇ……まぁいいけどさぁ」


 そんな会話を最後に、じゃあね、と青井は手を振りながら右手のホームへと歩いて行く。俺もじゃあな、と返して左手のホームへと向かう。


 ホームで待っていると、程なく電車はやってきた。


 電車に乗るまで向こう側のホームを見てみたが、人混みのせいか青井の姿はちょっと見つけられなかった。


 こっち方面の電車はこの時間、空いてることが多い。今日もその例に漏れず、俺は普通に座ることができた。


 膝の上に鞄を置き、鞄の中をまさぐる。確かまだ、中に入れっぱなしだったはずだ。……あった。俺はファイルの中から一枚の紙を取り出した。


 『新2学年 クラス分け表』


 今月の頭、新学期が始まる初日に配られたものだ。ついさっき存在を思い出した。ここには全クラス分のクラス分けが載っている。……つまり、今年の2年生全員の名前が載っているに等しい。


 俺は少し気になって、そこにある生徒の名前を一つ一つ、全て確認した。


「やっぱりか……」


 そこに『青井颯』という名前は、どこにもなかった。

第二話へと続きます。

ぜひ、この先も読んでいってください。

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